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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 最終話-

 ―4月14日―

 リスティ視点 第十四話












 後ろ手で扉を閉める。扉にもたれかかるように背をつけ、携帯電話を取り出した。電話帳の中から、た行で検索する。スクロールすることなく、高町恭也の名前があった。パートナーになると確定した時に念のため登録しておいたものだ。彼自身、携帯電話は持っていないようで、登録してあるのは彼の家の電話番号である。必ず彼が出るとも限らない。それでもボクはその電話番号に電話をかけた。かけなければいけなかったからだ。
 電話をかける。コールが数回続いたところで繋がった。相手を確認することなく、ボクは言葉を発した。


「恭也はいるかい?」

「……リスティさんですか?」


 最近聞きなれた男の声がした。電話に出たのは恭也だった。


「取ったのが俺だったから良かったものの、他の家族だったらどうするつもりだったんですか?」

「そんな事はどうでもいい。恭也だね?」


 彼が恭也であることを確認できればそれで良かった。前置きはこの際不要だ。


「はい、そうですが」


 何かを察したのか、彼の声が一段低くなった。ボクは恭也であることを確認すると、本題を切り出した。


「いいかい? 今すぐ風芽丘に向かえ」


 佐藤の言うことが本当ならば、このままにしておくと大変なことになる。ボクが今いる警察署からはとても間に合わない距離だった。とすると方法はただ一つ。


「彼女が――月村さんが危ない」


 空気が凍った。彼は言葉を忘れたかのように、不規則に吐き出される息の音がこちらに届いた。
 早く何か言ってくれ、と思ったボクは続けて同じ言葉を投げかけようとした。すると、その直前に恭也の小さな声が聞こえてきた。


「そ……それは……どういう、こと……か?」


 明らかに動揺している声だった――こんな問答をしている暇はないのに。


「いいから! 説明なんて聞いてる暇ないぞ。早く行かないか!」


 彼のそんな姿を受話器越しに感じるのは辛かった。ボクは彼の苦しみの半分も理解していないだろう。
 ボクは感じた。彼が大切な人を失ったことのある人間だということを。
 しかし、ボクの役割は彼を慰めることではなかった。自主的に前に向かせるように教えることだ。しかし――


「――俺にはできません」


 今の言葉では彼に届かなかったのだろうか。ボクは自然と目を見開いていた。その後に続く言葉を待つ。


「俺は彼女を助けると誓った。しかし、この手で助けることは愚か、彼女の安全を確かめもせずに安心してしまった。そんな俺に資格などあると思いますか?」


 彼の嘆く気持ちが痛いほどに伝わってくる。これ以上彼を辛い目に合わせるな、とボクの中の何かがそう言う。
 口を開く。その言葉を言えば、彼はボクと共に生涯を歩んでくれるだろう。しかし、彼と共に歩む姿を思い描いた時、気づいてしまった。彼と共に歩む姿が想像できないのだ。
 ボクは逆のパターンを考える。彼が月村さんと共に歩んでいく姿は容易に想像ができた。ボクでは彼と結ばれることはできないのだ。
 ボクは思い直す。それが彼にとってベストではないか、と。彼が最終的に笑顔で居てくれたら、ボクは何も後悔することはないはずだ。だからボクは彼を奮い立たせようとした。とても、辛い選択だった。そうだ――できるだけ、怖く行け。今だけは耕介たちと出会う前のボクに戻るんだ。


「あまったれるな」


 彼の驚く感情が伝わってきた。それを確認すると、残りの言いたいことを全て言うことにした。


「幻滅したね、恭也。君は何様のつもりだ? 姫を守る騎士にでもなったつもりか? 生意気言ってんじゃない。君は自分がそんな優雅な役が似合うと思ってるのか? それに君は何か勘違いしてるようだから言っとくよ。まだ負けてないんだよ、君は。君の手にある物はなんだ? 君はそれを一度も振ってないじゃないか。勝負にすらなってないんだよ」


 そう――彼はまだ負けていないのだ。勝負にすらなっていない。
 越野が言っていた――御神とは化け物なのだ、と。
 戦えば必ず勝つ彼がそんな風に思い悩む姿を見たくは無かった。だからボクはこういう選択を取った。彼が笑顔で居てくれたら、自分が傷ついても構うことはなかった。
 恭也の感情に火が灯るのを感じた。それを感じた時、自然にボクの口は笑みを描いていた。しかし、これ以上時間を浪費する訳にはいかない。これ以上は手遅れになってしまう。


「わかったら、とっとと行け。こうしてる時間ももったいないんだ」


 恭也の心に大きな炎が現れた。


「リスティさん?」

「ん?」

「ありがとうございます」


 その礼に頬が熱くなった。これを彼に悟られたくは無かった。


「早く行け。何でボクが真雪みたいな真似をしないといけないんだ」


 それはボクの自然な気持ちだった。
 電話を切る。自分の取った行動に苦笑してしまった。


 ――なんでかな……涙も流れてないや。


 もし、妹たちがボクと同じ立場だったらどうであろうか。ボクと違い、純粋なまま育った彼女たちなら恐らく泣いていただろう。彼女たちに失恋が耐えられるとは思えない。
 良くも悪くもボクは大人にならざるを得なかった。彼女たちはボクの妹であり、娘だ。親は子を護らねばならない。結局のところ、ボクも恭也と同じ人種だったのだ。だから惹かれたのかもしれない。
 月村さんは恭也が必ず助けるだろう。それだけは間違いない。本気になった彼にそんな心配をするなど無用だ。後で片付けのための警官を送ればそれでいい。
 そんなことより、ボクには知りたいことがあった。この事件は佐藤が犯人という事で幕が下りるだろう。だが、それでは納得のできない部分があった。
 少し言い直そう。彼が主犯だと考えると、彼の行動に矛盾すべき行動があったのだ。おそらくその行動の意味も説明できる推理は整っている。推理だけだ。証拠などはない。


「でたとこ勝負……という言葉はおかしいね」


 ボクはこの推理を証明してくれる人物の元へ向かった。その人物ならば、納得のいく理由を答えてくれるはず。何故なら彼には黙秘する理由がないと思うからだ。
 彼の居る場所へ足を進める。その前にタバコを一本吸いたい、と思ったが、やめておくことにした。今吸えば、まずいタバコになりそうだったからだ。










 勢い良く扉を開く。鈍い金属音が聞こえた。
 目的の人物は中に居た。その人物はボクを見て、かすかに笑った。ボクがここに来ることを見透かしていたのだろう。どこまでも嫌な奴だ。


「ボクがここに来た理由はわかってるね?」


 その人物は首を縦に振る。ボクの話を嬉しそうに待っている。何もかもわかっているさ、という雰囲気にとても腹が立った。しかし、それを言っても仕方が無かった。上手くかわされるのが落ちだ。


「Yes。さて、わかってるなら前置きは不要だね。まずボクの考えを聞いてくれ」


 言いたいことを頭の中で整理する。質問したいことが二つある。順に聞いていこう。


「まず、佐藤のことだ。彼は朝、ボクに犯人がわかった、と言った。しかし、彼は夕方には自首をしていた。そこで疑問に思った。この二つの行動は矛盾しているじゃないか、と。彼が犯人と確定している以上、彼のその言葉はボクを惑わせるためのモノだろう。しかし、せっかく混乱させたのに、自首をしては意味がない」


 ボクの話を目の前の人物は嬉しそうに聞いている。相変わらずゆがんだ男だ。


「しかし、この矛盾はある仮定をすると解決される。これは確証じゃない。証拠などないから、あくまでも仮定だ。夕方までの間に佐藤が自首しなければいけないように都合が変わった、としたらどうだろうか。彼に都合が悪いことが起きたとすれば一つしかない。強制捜査だ。つまり――」


 これ以上は言う必要もない。彼には全て伝わっているはずだから。
 それよりも、純粋に質問したいことが一つあった。


「もう一つ。彼女――月村忍が襲われた理由だ。ボクには彼女が特別扱いをされていたように思える。それは何故だろうか。ボクにはわからなかった。教えてくれないか?」


 その男は体をゆっくりと起こし、机の上で指を組んだ。何時もここに来たときに彼が取るポーズだ。男――越野鉄平は口を開いた。


「そうだな。一つ目の話はお前の推理の通りだ。俺が佐藤に自首を勧めた。二つ目の話は俺にもはっきりしたことはわかっていない。ただ、わかってるのは彼女が特別な人物だからだ。その特別な人物を対象に実験をするとどうなるか知りたかった、ということしか俺にもわからん。これでいいか?」


 越野は簡潔に答えた。憎たらしいくらいに何時もの越野のままだった。


「あぁ、わかってるよ。何もかもね」

「そうか。じゃあ帰ってくれ。少し仕事が残ってる」


 用件が終わると途端に余所余所しくなる。これ以上に越野に話を聞く必要もなかった。ボクはこの部屋から出ることにした。ノブに手をやり、扉を押し開く。外へ足を一本出したところで、彼に一つ聞きたいことを思いついた。
 振り返らずにボクは言った。


「何故こんなことを?」


 越野は答えた。


「結果的にどうなった?」

「――なるほど」


 ボクは前に足を進め、扉を閉めた。
 結局のところ、佐藤は最初から最後までピエロだったのだろう。おそらく過去、例にない容疑者を演じていたかったのだ。いや、最初だけは自分の意志で目的のために動いていたのだろう。だが――


「――相手が悪かったね。同情するよ。して欲しくないだろうけどね」


 この一週間のことを思い描く。それはとてもステキなひと時だった。きっかけが事件だったとしても、彼と知り合えたことはボクにとってプラスだった。
 ふと思いつき、ボクは電話をかけ――繋がった。


「お疲れさん。さざなみ寮って女子寮を知ってるかい?」


 さざなみ寮のにぎやかな家族たちを思い描く。
 暖かな彼らと一緒ならば、彼女の嫌な思い出も多少忘れさせることができるかもしれない。
 ボクは返事を聞くと電話を切った。


「さて……帰ろうか」


 さざなみ寮への道をとる。
 ふいに何かに引かれたように窓の外を見た。
 窓の外を見ると、そこに月があった。それは誰かに似ているようで、ボクの心に何か暖かなモノを与えてくれた。
 ボクの唇は無意識の内にその形を取っていた。


 ――ありがとう、と。


 FIN












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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 最終話-

 ―4月14日―

 恭也視点 最終話










 カノジョガ、ツキムラサンガアブナイ――俺には何か別の言葉としか受け止めることができなかった。
 リスティさんの声が聞こえる。声は段々と俺の耳に届くようになってきた。最初は名詞が、次に形容詞……助詞まで判別できた時、俺の鼓動は耳に届くまで早まっていた。


「そ……それは……どういう、こと……か?」


 やっと口にできた言葉は、そんな呂律の回らない情けない言葉だった。受話器越しに話す彼女はやっと状況の把握のできた俺に早口でまくし立てる。


「いいから! 説明なんて聞いてる暇ないぞ。早く行かないか!」


 ほんの数時間前のことを思い出す。あの時、月村の名前を出してもインターフォン越しの男は理解ができなかった。あの男は名前で判別したのではなく、外見上の特徴で判別した。つまり、互いに想像した女性が別人である可能性も考えられないか。
 俺は自らの想像に青ざめ、事態の深刻さを悟った。よく考えてみろ。俺は彼女を守り通せなかった。俺は彼女を助けると誓って、この手で助けることはしなかった。そんな俺が誰かの助けになろうと思うことなど図々しいにも程があるだろう。


「しかし……俺にはできません」


 リスティさんの息を呑む音が聞こえた。俺はたまらず言葉を続けた。


「俺は彼女を助けると誓った。しかし、この手で助けることは愚か、彼女の安全を確かめもせずに安心してしまった。そんな俺に資格などあると思いますか?」

「あまったれるな」


 何時もの彼女からは想像できないくらい、低くてまるで感情の存在しない声だった。


「幻滅したね、恭也。君は何様のつもりだ? 姫を守る騎士にでもなったつもりか? 生意気言ってんじゃない。君は自分がそんな優雅な役が似合うと思ってるのか? それに君は何か勘違いしてるようだから言っとくよ。まだ負けてないんだよ、君は。君の手にある物はなんだ? 君はそれを一度も振ってないじゃないか。勝負にすらなってないんだよ」


 そうだ。俺はまだ戦っていない。戦ってもないのに負けなどあるはずがない。そんなのは俺の心の中で作り出した妄想にすぎない。リスティさんはそのことを俺に教えてくれていた。


「わかったら、とっとと行け。こうしてる時間ももったいないんだ」


 声に焦りは感じられるものの、その声は先程と比べて清々しいものを感じ取れた。


「リスティさん?」

「ん?」

「ありがとうございます」

「早く行け。何でボクが真雪みたいな真似をしないといけないんだ」


 ガチャリという音は二人の間の最後の線を断ち切る音だった。俺は電話の向こうに届くように礼をし、そのまま外へ駆け出した。着替える暇も、靴を履く時間もない。ただただ足を前に進め、学校へと急ぐことしか俺にはできなかった。


 ――ご、ごめん。ごめんね。高町くんってそう言う可愛いリアクション取る人とは思わなかったからさ、つい。


 それは初めて彼女と会話した時のこと。今でも記憶に新しい数日前の出来事。思えばアレは一目惚れだったのだろう。自身の懐かしくもあるその感情に俺は不器用に感じていた。何も迷う必要などなかったのだ。
 素足でアスファルトを走るひんやりと冷たい感触に顔をしかめる。このまま進めば学校はもう目の前だ。先程まで高鳴っていた胸はいつの間にか治まっていた。もしかするとそれは自分の気持ちに素直になったからかもしれない。


「月村……俺はお前を一生守ってやる」


 学校の門が近づいてきた。辺りを囲う異様な雰囲気に気づく。俺は門の壁に張り付くと、気づかれぬよう中の様子を伺った。
 暗闇の中、うっすらと見えるそれはヘリコプターだった。周りに気づかれぬようにするためか、エンジンを切ってあるようだ。しかし、扉は開いていた。俺は気づく。ヘリの中に月村の姿があった。
 俺は逸る気持ちを抑え、状況を確認する。


 ――五……六か!


 派手なスーツを着たチンピラ風の男ばかりだった。俺は一番近い金髪の男に目星をつける。その男までの距離は五メートル。その男の足元に目をやり、男に目線を戻す。男たちは周りを警戒するよう見渡してるが、その目線は統率が取れておらず、隙を見て突入するのは十分可能だった。
 俺は意を決し、校庭に踏み込んだ。
 音が鳴る。
 砂を踏みしめる音に気づき、振り向いた。その顔は驚きに満ちていた。俺は走りながら体を捻り、右手を突き出した。バネの力で突き出されたそれは一撃でその男を昏倒させるに十分だった。
 金髪の男が崩れ落ちた。その音に男たちは俺の存在に気づいた。男たちは思い思いの武器を取り出し、ヘリに乗っている男はヘリのエンジンをかけた。
 ヘリのプロペラはゆっくりと回り始め、それは段々と速くなる。しかし、俺の目にはそれは段々と遅くなるように感じた。同時に世界はモノクロへと変わる。ねっとりとした空気の中、小石を男二人の拳銃に投げつける。当たるのを確認せず、俺は拳銃を持つ男よりも近い標的に狙いをつけて走り出す。標的は近づく俺に焦点を合わすことができない。そのままの勢いで徹を打ち込む。あばらが砕けるのにも構わず、すぐ近くにいる男にも同じ物を打ち込んだ。
 視界が変わる。いや、これが本来の姿なのだ。戻った世界は男たちに混乱を与えた。ヘリが飛び立つにはまだ時間がある。痛む右膝は俺に止まれ、と教える。しかし俺はその教えを聞くつもりはなかった。手にある物はなんだ、と教えてくれたリスティさんにも会わせる顔がない。それにここで止まれば一生後悔すると思うから――


 ――立ち止まる訳にはいかない!


 この膝に神速の連続使用はおそらく耐えられない。もう一度使えば助ける前に砕けるのが落ち、ならばそのまま走り出せ。
 右膝の痛みを無視して走り出す。最初に出した速度程は伸びなかった。
 手を押さえて苦しむ二人の男に近づく。この二人の向こうにヘリがある。俺はすれ違い様に左手を外に振りぬいた。その手は右側の男の側頭部を捕らえ、その頭は隣の頭にぶち当たった。そのままヘリに足を踏み入れ、男の背後の座席をめがけ撃つ。これで俺の邪魔をする男は全ていなくなった。
 月村は座っていた。その首は力なく、ぐったりと死んでいるかのように。俺はゆっくりと彼女の腕を取った。


「良かった……」


 俺は彼女を持ち上げ、この場から離れることにした。ここに居れば不審に思った彼らの仲間がここに応援に来る可能性がある。危険から彼女を遠ざけるために、俺はヘリを降り、学校から出ることにした。
 校庭には気絶した男たち五人の姿があった。手元にはこの手で守った大切な者が居た。
 朝になる前にはリスティさんが何とかしてくれるはずだ。校門を出る前に俺は明日の授業の事を考えていた。休校になるならなるで、それは好ましいことかもしれない。そんな有り触れた日常を考えてしまった。それは先程まで日常に触れていなかったせいかもしれない。
 夜道を歩く。辺りの家々にはまだ所々明かりがついていた。信号もまだ機能している。もう三十分もすればこの信号も使えなくなるだろう。
 まさか犯人が佐藤だとは思わなかった。思いもしなかった。彼は学校では純粋に犯人を捕まえようとしていた。その差が俺には理解できなかった。頭が悪く、不器用な俺には一生理解できないのかもしれない。そういう意味では頭のいいリスティさんには理解できるのかもしれない。
 耳に届く音は通りを走る車の音が遠くから聞こえるだけで、辺りは本当に静かだ。ひんやりとした感触がある。今頃になって、自分が素足で出てきたことに気がついた。帰ったら足を洗わないと家には入れない。かーさんに怒られてしまう。
 再び考えに没頭する。これでおそらくこの事件は終わったはず。後は意識不明になった人たちの回復を待つだけだろう。無事に後遺症もなく回復してくれるといいんだが。そう思うと、俺は少し目を閉じた。
 目を閉じると何も見えないはずだった。しかし、その時だけは手元に何か暖かい光が灯っているような、そんな光景を見ることができた。実際手元は暖かく、俺を穏やかな気分にさせてくれた。


「良かった……もう失いたくないからな。大切な人は」


 遠い昔、俺が未熟だったせいで守れなかったものが沢山あった。それは人であり、自らの右膝だった。俺は勘違いしていた。自分では守ることはできないのだ、と。その間違いはリスティさんに正された。俺は大切な人を守ることができたのだ。


「……そっか。ふふ、嬉しいな。高町くんも一緒だったんだ」


 目を開くと、そこにははにかんだ顔で俺のことを見ている月村がいた。何故だかわからなかった。知られても穏やかな気分でいることができた。思えば出会った時からそうだった。彼女といると慣れていないはずの自分が自然に振舞えるのだ。


「月村……俺はお前に言いたいことがある」

「うん……でも、私といると今日みたいなことがまたあるかもしれないよ?」


 月村はそう言った。それは自分がさらわれたのは理由があるからだ、と言っているように聞こえる。事実、そうなのかもしれない。


「構わない。俺は……お前を一生護ってやりたい。見ての通り不器用で無愛想な男でお前とは釣り合いはとても取れていないように思う。それでもいいなら、俺をお前の側で一生護らせてくれるだろうか?」


 それは俺の心にあった嘘偽りのない言葉だ。例外もない。月村だけに向けてやりたい言葉だった。月村は突然涙目になる。


「知ってる?」

「ん?」

 泣き笑いのような、そんな顔をしながら言う彼女に、俺は言葉の続きを促した。


「私は高町くんのこと、一目惚れだったんだよ?」


 笑顔で彼女はそう言った。俺は彼女に笑い返した。


「嘘だろ?」

「へへ、ばれたか。でも――」


 月村は俺の胸に顔をうずめた。俺は言葉の続きを待った。待たなければいけない気がしたから。
 月村が顔を上げた。


「大好きだよ」


 それは今まで見たことのない、心からステキだと思える笑顔だった。俺は気づいた。自分の感じたこの気持ちが間違いではなかったことを。彼女を一生護りぬくと誓ったことは間違いではなかったと。
 自分の手の中にあるぬくもりは俺にそう教えてくれた。これは今まで誰も護ることのできなかった俺が初めて護り抜いたもの。この拙い手で護ることのできたただ一つの奇跡だと。
 俺は信じる。
 この手のひらの中で生まれた奇跡は自分が信じ続けていれば、護り続けている限り笑顔でいてくれるのだ。
 夜空を見上げる。
 そこには悠久の年月の中で変わらず輝き続けてきた月がある。例えばそういうことなのだ。信じ続けていれば、彼女は悠久の年月を越えて輝き続けてくれるのだ。
 頬を伝う熱いものを感じる。
 俺は呟く。


「初めてだ。嬉しくて涙を流したのは」


 月村は答えた。


「高町くんに……ううん、また明日ね」


 彼女が何を言いたかったのかは俺にはわからない。でも俺は信じている。彼女が……彼女たちが教えてくれたから。それが俺に唯一できることなのだと教えてくれたから。信じ続けていれば、諦めることに慣れた以前の俺にはできなかったこともできる。それは素晴らしいことで、とても喜ばしいこと。
 俺は誓う。視線を降ろし、月を見つめながら――


 ――君を護るために俺は強くなる。どこまで駆け上がれそうな気がするから。


FIN












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  1. 2007/02/20(火) 20:51:34|
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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第十三話-

 ―4月14日―

 リスティ視点 第十三話












 本部長室の扉を勢いよく開く。目当ての人物である越野は突然入ってきたボクに顔色も変えずに自分の椅子に座っていた。


「騒々しいな。どうかしたか?」

「ボクが何でここに来たか、あんたなら言わなくてもわかってるだろ」


 越野は体を起こし、ゆっくりとした動作で指を組んだ。これから話される言葉を聞き逃すまい、とボクは集中した。


「夕方、お前に連絡を送ったろう? その少し前に佐藤が自首をしてきたんだ」

「そんな事はわかってる。何故ボクに言ってくれなかった?」

「言ったところで何も結果は変わらんだろう。違うか?」


 そう言われてみると、確かにそうである。月村さんの事があったのだ。彼にそれを伝えたとしても、ボクらはそれを確かめるために向かったはずだった。だとしたら、結果は何も変わらない。越野の言う通りだった。


「OK。それは納得した。で? あれから佐藤は何か話したかい?」


 そう問いかけると、越野は何時も以上に難しい顔になった。


「黙秘したままでな。何も話さず、困っているところだ。あいつが主犯であることは間違いない。容疑は変わらんが、このままでは一度解放せざるを得ない状況になるぞ」


 それは確かに問題だった。証拠を掴む為に家宅捜査に乗り出したのだ。しかし、その前に目的の人物が自首してきたのだ。これでは少し時間が空いてしまう。まさか、彼はそれを狙っている訳じゃないだろうが――


「このまま彼が何も話さなかったら、今度は大手を挙げて踏み込むことができるね」

「そうだ。二度手間は勘弁して欲しいところだがな」


 考えてみよう。もし、彼が時間稼ぎのために自首をしてきたとしたら、強制捜査までのわずか十数時間。この時間得る必要が彼にはあった訳だ。自首してまでその時間を稼いだという事は、彼の目的はその十数時間の時間を残して、全て完了していることになる。となれば、その十数時間で何ができるか、だ。彼がこの署内にいる以上、彼の手で行われることではない。とすると、部下――あるいは、共犯者がいるのではないだろうか。


「まぁ、考えにふける前に佐藤に会って来たらどうだ? お前となら何か話すかもしれん」


 無愛想なその言葉に意識を戻される。ボクはそれもそうだ、と考えた。


「まぁ、そうだね。会おうとは思ってたところだ。でも、ボクになら何か話すってのはどういうことだい?」

「――勘だな」

「まったく、この男は。それじゃ、行ってくるよ」


 肩をすくめ、佐藤の下へ向かうことにした。ノブを捻ると少し高い金属音が聞こえた。少しこの扉も痛んできたのだろう。
 部屋を出たところで、越野に彼の居場所を聞くことを忘れていたことに気がついた。戻って聞くべきかどうか考えたが、おそらく取調室にいるのだろう、と思い、取調室に向かうことにした。










 取調室の重い扉を開く。予想通り中は薄暗く、必要最低限のあかりしか灯されていなかった。中には刑事二人を相手にそしらぬ顔で座っている佐藤がいた。刑事二人が振り向いた。顔を見ると何度か話した事のある今年新しく署に来た男二人だった。


「どうだい? 何か聞き出せたかい?」


 ボクの言葉に男二人は頼りない顔で首を数度横に振った。上は何を考えているのか。彼らだけにここを任せて大丈夫なのだろうか。時間が無駄に浪費されるだけと思う。それとも経験を積ませているのだろうか。それなら、一人ベテランがついた方がいいと思うのだが。


「後はボクに任せてくれないか? 君たちは少し下がっててくれ」


 これでは埒があかないと考え、ボクが自ら聞きだすことにした。もし相手がベテラン刑事だとしてもそうしたろうが、そういう意味では彼らが若手で助かった。余計な手間が増えなくて済んだからだ。
 若手刑事二人はわかりました、と答え、取調室を出て行った。別に出て行かなくても良かったのだが、この場を関係者とは言え、刑事でないボクと容疑者だけにするのは責任問題だろう。


「佐藤くん。久しぶりだな」


 ボクのその声に、彼は目を開くことで答えた。彼は校内で会った時と雰囲気がまるで違っていた。彼の姿からは陰鬱な雰囲気しか感じ取る事はできなかった。ボクの驚く様を見て、彼は薄く口元だけで笑みを浮かべた。


「学校で会った時と違うようだね。今の君が本当の君かい?」

「――そうですね。学校での俺は風芽丘生徒会長と言う役でしたから。その役を失った今の俺はこの事件の容疑者という役ですよ」


 彼の言葉を考える。学校でのあの姿は演じていただけ。という事は今も演じているだけなのだろうか。彼の言葉がわからない。わからないが――


「――そうか。そんな事はいい。単刀直入に聞くよ。何故こんなことしたんだい?」


 回り道など考えず、ストレートで彼に問いかけた。すると彼は先ほどまでの陰鬱な雰囲気から一変し、無邪気な笑顔を浮かべるのだった。


「いいですよ。お教えします。主役の出番は終わったのだから、僕の物語はエンドロールに入らなきゃ。先生――いや、リスティさんは聞いたことがありませんか? 僕はね、ある実験に参加してたんですよ」

「――実験?」


 彼の口からこの場に似つかわしくない言葉が出てきた。彼はボクがそう聞き返すと、なおも無邪気に笑い出した。


「ハハ、そうです。実験ですよ。聞いたことありますよね? HGSを軍事投入するためのプロジェクトを。僕はそのプロジェクトに参加していたんですよ」


 体内の血が逆流したかのように感じた。ボクら三姉妹――いや、ボクが被験体となったあの地獄のような日々が脳裏に浮かんだ。まさか、あのプロジェクトが今でも続いていたというのか。
 自然と握り込んでいた拳に痛みを感じ、それをゆっくりと開いた。


「ま、結論から言えば失敗だったんですけどね。このプロジェクトは。そういう意味もあって、これ以上僕が行動する意味が無くなったので、こうして自首してきた訳です」

「プロジェクトは……今回お前たちのプロジェクトとは一体どういったものなんだ?」


 何時もより荒げた声で問いかけた。佐藤はそれを意にも返さず、先ほどから変わらぬ笑顔で答えた。


「スリップノットって知ってますよねぇ?」

「知っている」

「ハハ、当然か。だって、ボクが警察に教えるために現場に置いたんだし、あのチンピラに名前を教えたんだから」


 笑顔でそう言う佐藤の姿を見て、ボクは背筋が寒くなるのを感じた。おそらくは……この男は狂っているのだ。でなければ、説明のつかないことが多すぎる。


「で、続きだね。スリップノットは失敗作だったんだ。本来の効力を発揮させることはできなかった。本来の効力とはね――」


 彼は右手で目にかかっている前髪をかきあげた。


「一般人をHGSにするための薬なのさ」

「なっ!?」


 確かにボクたちを軍事利用するためには頭数が足りないのが事実だ。頭数をそろえるためにそういう事を考えようとする輩がいるのも理解はできる。だがしかし、それを指揮していたのがただの学生ということにボクは驚いていた。この男は一体どこまで物事を計画してきたのだろうか。それが恐ろしくなったのだ。


「ほら、驚いた。やっぱりねぇ、僕の思った通りだったよ。でも、安心してね? スリップノットは失敗作だったんだから」


 プロジェクトが成功する前にこうして終わらせることができたのが幸いだった。有史以来人類は様々な面で進化を続けてきた。いずれそれを成功させる時が来るかもしれない。それを少しでも遅らせることができたことに、ボクはほっとしていた。


「あ、リスティさん、安心した顔してる。まぁ、そうだよね。スリップノットは失敗作だったんだから」

「Yes。確かに安心してるよ。君たちの計画が失敗に終わったことをね」

「あれ? 計画が失敗したなんて、一言も言ってないと思うけど?」

「――ッ!?」


 そうだ。何を安心してたんだ、ボクは。さっきまで自首は時間稼ぎの可能性がある、と考えていただろう。この馬鹿。


「さっすが、リスティさん。今の言葉で察したみたいだね。そう、その通り。まだ僕らのプロジェクトは終わってない。僕の役割は被験体の捕獲と、スリップノットのテスト。後残された役割は、最後の被験体を大陸に送り届けることだ。まだまだ研究の余地があるからねぇ」


 最後の被験体。その言葉にボクはピンと来るものがあった。そういえば、インターフォン越しに話した男は解放した女の名前を知らない風ではなかったか?


「そう。最後の被験体――月村忍を大陸に送ることで俺たちのプロジェクトは終了する。俺がここにこうして自首してきたのは、その時間を稼ぐための時間稼ぎさ」

「彼女をどこから大陸に輸送するつもりだ!? 答えろ!」


 ボクは彼の胸倉を掴み、大きく揺さぶった。何時の間にか彼の顔は笑顔ではなく、ここに来た時と同じ陰鬱な雰囲気が漂っていた。


「俺が答えると思ってる?」

「ボクを舐めるなよ? ボクはHGSだ。幾らでも聞き出す手段はある」


 そういうと、佐藤は無邪気な笑顔を浮かべるのだった。


「確か、リスティさんって今HGSの能力が封印されてるんじゃなかったっけ? まぁ、いいや。そろそろその効果も無くなるだろうし、黙ってても確かに意味ないね」

「効果が無くなる?」


 それは一体どういうことか。それより、何故佐藤がHGSの能力が封印されていることを知っているのか。


「そんなことはどうだっていいよ。月村さんが心配なんだろ? 学校に行ってみてよ。もうあんまり時間ないだろうけど、そこからヘリで港まで飛んで船で輸送することになってる。急いだ方がいいよ」


 考えるべきことが多すぎる。それが彼との会話が終わって最初に思ったことだった。












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  1. 2007/02/16(金) 00:52:38|
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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第十ニ話-

 ―4月14日―

 リスティ視点 第十二話












 紅く染まった教室に彼は居た。ボクとの約束を当然のように守っていた彼は窓際に立っていた。この時間から考えるとグラウンドでは部活の練習の真っ最中のはず。彼はそれを見ながら時間をつぶしていたらしい。
 彼は帰宅部のようだが、何故クラブに入っていないのだろうかと、つまらない事を自然に考えてしまう。いつまでも彼を待たせておく訳にもいかず、彼に話しかけることにした。


「恭也。準備できたかい」


 彼には珍しく、少し惚けたような顔でこちらへ振り向いた。その顔はすぐ戻り、いつもの表情のない顔に戻る。少し惜しいと思う自分に思わず笑顔がこぼれた。


「準備なら朝からできていますよ」


 そんな頼もしい台詞をボクに送ってくれた。もう少し気の利いた台詞がここで出てくれば満点だったが、彼にそんな事を期待する方が間違えている。彼とは短い付き合いだが、それくらいはボクにも理解できた。


「そうか。今日は頼むよ」


 それは本心だ。越野は穏便に終わると言ったが、それでも恭也には期待をしている。越野がそういうのだから、恐らくは荒事にはならない。ボクが恭也に期待をしているのは、それとは別のところにあった。越野の言う通りになれば、ボクにとってそれは幸運なのだ。


「応援も居るけど、基本的には君がボクの護衛だからね」

「わかりました」


 彼はそういうと、懐に手を入れ何か考え込むような顔をした。彼女への負い目からか、彼は少し気負いすぎているようだった。それとも理由は別のところにあるのか、どちらにしてもボクにとってそれは面白くないことだったのだ。


「気負いすぎるな。ボクの考えではそう荒事にならないはずだよ」


 彼はびくりと体を震わせ、顔を上げた。少し驚くような顔を見せた後、あまり見ない穏やかな笑顔を浮かべ、ありがとうございます、と返してきた。夕日の逆行で彼の姿が少し神々しく見える。純粋にその姿は格好いいと思える。そんな事を思えたのは本当に久しぶりだった。


「世話が焼けるね。じゃ、捕らわれのお姫様を助けに馳せ参じるとしようか」


 そういえば、と思い返す。少し前に読んだ本でこういうシチュエーションがあった。その物語の結末がどのようなものであったかを思い出そうとしたが、やめておくことにした。シチュエーションが一致しただけで、その後の展開まで一致するとは限らない。仮にその物語通りに事が進んだところで、面白い結末になるはずがなかった。なぜなら――


 ――その物語は悲恋のおはなしだからね。











 空は朱の色で覆われていた。通りを走る車のほとんどはテールライトを点灯させていた。ボクたちを追い抜くたびに少し強い風がタバコの煙を揺らしていた。
 後ろを歩いている恭也から少し不安気な雰囲気を感じた。まだ彼は緊張しているのだろうか。人には少しの緊張が必要だ、と言うが、少し彼に力を貸してあげるのもパートナーの役割であろう。
 ボクはそう考え、足を止めた。恭也も一歩遅れて足を止めていた。


「恭也。不安かい?」


 それはボクらしくない声だった。真雪に聞かれたら変に勘ぐられてもおかしくないくらい、ボクに似合わない声だった。彼の息を呑む音がはっきりと聞こえた。


「はい……不安でないと言えば嘘になります」

「そうか」


 彼の返答にボクはそう答え、再び歩き出した。どうしたものか、と吸い終わったタバコを灰皿にもみ消す――ふと、いい考えが頭に浮かんだ。
 いつも吸っているタバコの箱はなく、銀色に鈍く光る箱に手をやった。中から何時と比べて少し短めのタバコを抜き取り、箱をしまった。ライターを取り出し、そのタバコに火をつける。すると甘い香りが漂ってきた。ボクはその香りを胸一杯に吸い込み、そして吐き出した。それを二回行い、タバコを口から離して振り向いた。


「タバコを替えてみた。どうだい?」

「少し……珍しい香りがしますね」


 彼が違いをわかってくれたことに少し嬉しくなった。


「だろう?」


 意味のないことだが、彼がわかってくれたことはボクにとってはそれだけの価値があった。空にのぼる煙を見つめる。煙が下から上に流れるように、今日の捜査も特に荒れることなく終了することだろう。越野が間違ったことを言う訳がない。とすると、今日のこの捜査も特別意味のないことなのかもしれない。


「そう……意味なんてない。こうしてボクらが強制捜査に乗り出すのも、意味なんてないんだ」


 気がつくと、ボクはそれを口にしていた。明らかな失態だった。だが、今更訂正する気にはなれなかった。もしかすると、タバコの香りがそうさせているのかもしれなかった。


「え? それは……どういう意味ですか?」


 怒気をはらんだ声で彼はそう言った。それが少し寂しかったが、実のところ彼にこれを伝えたところで、何がどうなる訳でもない。少しむなしい気分だった。


「余り怖い声を出さないでくれ。こうして君に話すのもまた――意味なんてないんだ」

「それでは、何故そんなことを俺に?」


 当然と言えば当然の質問だ。だが、ふいに口にしてしまった言葉だ。特別彼に聞かせる理由なんてなかった。


「そうだな……」


 本当にわからない。何故越野がああ断言できたのかがわからない。わざわざ正体を隠している犯人が抵抗すらしないとは意味がわからない。そう――ボクにも、彼と同じく何も理解できていないのだ。


「あえて言えば……ボクもちっとも理解できてないんだよ」










 日が完全に沈みかけた頃、ボクたちは目的の場所にたどり着いた。周りの建物と一風変わったその建物は一際異様な雰囲気を漂わせていた。この場所だけ一昔前に戻ったような、そんな雰囲気だった。


「さて、恭也。着いたよ」


 彼の顔をうかがうと、少し緊張の色を見て取れた。それでいい。人には少しの緊張は大事なのだから。
 どうしますか、と彼は答えた。本当の所、彼の役割などはない。ボク一人でもこの捜査は行えたはずだ。越野の言う通りであれば、だが。


「とりあえずインターフォンだな。そして用件を話す。なに、全てボクがやるよ。君は万一の時のために待機してくれたらいい」


 彼に実は必要はなかった、とはとてもじゃないが言えなかった。彼はボクの言葉に頷き、少し顔を強張らせた。


「その時は俺の後ろに」


 彼の言葉に返答をせず、いくよ、とだけ答え、ボクは門に近づいた。この屋敷に不釣合いなインターフォンに指を伸ばし、それを押した。するとやはり、不釣合いな音が辺りに響きわたった。屋敷の人間は中々答えてはくれなかった。しばらくして、ようやくインターフォンから男の声が聞こえた。タバコを一本吸う時間はゆうにあったと思われる。


「どちら様でしょうか?」

「リスティ槙原という者だ。二、三話を聞きに伺ったんだが」

「少々お待ちください」


 予想以上に相手の対応が丁寧なものだった。仕事内容に反して、彼らは普段紳士的な対応をしているのだろうか。後ろの恭也も同じように戸惑っていた。


「お待たせしました。海鳴警察署のリスティ槙原さんですね?」


 どうやら相手はボクの素性を知っているようだ。可能性はいろいろ考えられるが――今は状況の把握を優先すべきだ。


「あぁ、そうだ」

「用件は伺っております」


 その返答もボクにとっては予想外なものだった。可能性はなくはなかったが、このパターンだとは考えもしなかった。


「へぇ……そうか。じゃあ話す必要はないね?」

「はい。若様……佐藤秀二は先程自首されました。関係者並びに証拠などは全て差し出す手はずになっております」

「……そうか」


 これで越野の言葉に合点がいった。あの時、すでに佐藤秀二は自首をしていたのだ。だとすれば、越野がボクに連絡を入れたことも納得が行く。詳しく話して欲しかった、というのは彼に言っても仕方のないことだろうか。


「……月村は」


 その言葉に、ボクはハッとした。そうだ。まだその件が解決した訳ではなかった。恭也の言葉にボクは一瞬心を奪われた。その隙に彼にボクは押しのけられた。


「月村は大丈夫なのか!? もし、彼女に何かあれば俺は――」

「やめろ、恭也! 落ち着け!」


 彼の取り乱す姿を見たくはなかった。何故かボクの心の奥で、言葉で表す事のできない感情が芽生えていた。
 彼の肩に手をやる。すると彼は少しずつ落ち着いた何時もの恭也に戻っていった。そう――何時もの君の方が好きだよ。
 ボクは彼に代わり、事情を説明することにした。


「Sorry。えっとね、腰くらいまで長い髪を持った美人の学生が君たちのところにいるはずなんだ。彼女は安全なのかい――?」

「――あぁ、そのような方でしたら、すでに解放しました。いつまでも監禁しておく意味などございませんので。ご自宅の方に戻られているはずですよ」


 男が言うには月村さんは無事なのだそうだ。恭也にとって、これ以上に安心できる言葉はないだろう。


「Thanks。だそうだよ? 良かったね」


 彼はとても嬉しそうな顔をしていた。何時もの彼からは想像できないくらい、穏やかな嬉しそうな顔だった。ボクの顔も自然と柔らかくなっていくのを感じた。心は先ほどと同じ言葉にできない感情で支配されていたが、顔にはそんな様子は出ていないようだった。


「は……はい……俺は――」


 ボクはインターフォンに視線を戻し、挨拶をしておくことにした。


「ありがとう。詳しい話は警察署の方で――Bye」


 門から離れ、道の真ん中で彼と向き合った。何時もの彼の研ぎ澄まされた雰囲気はなく、角の取れた柔らかな雰囲気が彼を覆っていた。大人びてはいるが、彼は未成年なのだ。それが少し、嬉しかった。


「今日はこれで解散だね。いや、良かった」

「はい、ありがとうございました」


 彼らしくない言葉に、少しボクは驚いた。いや、おかしかった、と言ってもいいだろう。


「ハハ、礼を言うのはこっちだよ。今日はありがとう。帰り道はわかるね?」

「はい」

「ボクはこれから警察署に向かうよ。君は家に戻るといい。Bye」


 彼と別れ、警察署へと向かう道に足を踏み出した。彼は動き出す気配がなく、ボクの背中に視線を送っているようだった。ボクはそんな彼に背を向けたまま手を振った。


「――まったく、世話の焼ける」


 紛れもなく、彼はボクの生徒だった。その瞬間ほどこの言葉を実感できる時はなかった。彼と会う機会はこれから少なくなるはずだが、同じ海鳴に住んでいるんだ。何時でも会えるはずだった。ボクはそう自分の心に決着をつけると、懐から新しいタバコを取り出した。


「これがボクの生きがいってね」


 タバコの煙をゆっくりと吐き出す。全てが納得できた訳ではなかった。何より、佐藤が自首した理由がわからなかった。これからそれを知るために、ボクは警察署に向かっていた。
 もしかすると、まだこの事件は終わった訳ではないのかもしれなかった。












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  1. 2007/02/11(日) 22:45:28|
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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 第十話-

 ―4月14日―

 恭也視点 第十話










 空はまだ紅いが日は建物で隠れ、すでに見えなくなっている。
 いつもよりずしりと重い懐は俺に勇気を与えてくれている。傍らにいるリスティさんは度々俺の方を向き、安心を与えてくれる。俺は色々な物を与えてもらっている。これ以上必要ない。欲しいものはただ一つだけ、月村だけだった。
 通りを走る車の量は増え、今が帰宅時だと教えてくれている。この時間帯が合っているのかどうかは俺にはわからない。ただ、リスティさんと共に行くだけだ。
 突然少し前を歩いていたリスティさんが立ち止まった。何事か、と俺も立ち止まる。彼女は振り返らなかった。


「恭也。不安かい?」


 それは何時もと少し違う暖かな声だった。俺の感情を見抜き、優しく包んでくれるような声だった。俺はその声に本音で答えることにする。


「はい……不安でないと言えば嘘になります」

「そうか」


 再びリスティさんは歩き始めた。それを見て、俺も歩き始める。カチという音が響く。そして少し甘い匂いが漂ってきた。それはリスティさんのくわえているタバコの香りだった。今まで見たタバコの中でそれは少し変わった匂いだった。
 煙を二度吐き、リスティさんは肩越しにこちらを見た。


「タバコを替えてみた。どうだい?」


 それは如何なる意図があったのか。タバコを吸わない俺には到底わかることではないのかもしれない。


「少し……珍しい香りがしますね」

「だろう?」


 また一つ、彼女は煙を吐いた。吐いた煙は薄暗い空へと昇り、そして消える。もしかすると、それは意味など無かったのかもしれない。ただただ、そういう気分だったのだろう。


「そう……意味なんてない。こうしてボクらが強制捜査に乗り出すのも、意味なんてないんだ」

「――え?」


 いつも以上に真面目な声で話すその内容は俺には理解ができなかった。こうして月村を助け出すことに意味などない。彼女はそう言っているのだ。彼女は俺などよりずっと空気の読める人間だ。その彼女が何故そんなことを口にするのか。


「それは……どういう意味ですか?」

「余り怖い声を出さないでくれ。こうして君に話すのもまた――意味なんてないんだ」


 知らず知らずの内に俺は気が立っていたのだろう。彼女の人となりがわかっていながら、自分のしたことに少し反省をする。深く息を吸い、吐く。それを三度繰り返し、再び口を開いた。


「それでは、何故そんなことを俺に?」

「そうだな。あえて言えば……ボクもちっとも理解できてないんだよ」


 そう言うと、彼女は顔を元に戻した。それはこれ以上話すことはない、という表現に他ならなかった。俺は少し、彼女との年の差を恨んだ。
 無言のまま俺たちは歩き続ける。空の紅みも無くなり、辺りは暗闇が支配し始めていた。テールライトの眩しさから逃れるように俺は手で傘を作る。少し前が見えづらいが、眩しさで見えなくなるよりは良かった。
 大通りから少し裏手に入る。先程と違い、この場所に人の気配は感じられなかった。大通りの喧騒を背に俺たちは歩き続ける。気がつくとリスティさんは先程と違うタバコを吸っていた。銘柄を見た訳ではない。香りが違うからだ。
 心なしかリスティさんの雰囲気まで違うような感じを受ける。一体どうしたのだろうか。答えてくれないかもしれない。いや、もしかして――


「――リスティさん? もしかして……」

「あぁ、もうすぐだよ」


 予感は的中した。俺は自らの両の手のひらを見る。それは同級生たちの手のひらと違い、ささくれてゴツゴツしている。それはこのような時のために存在している。夢を半分諦めているとは言え、俺も生涯剣士――拙い手で守り切らねばならぬものもあるのだ。


「恭也? 緊張してるのか?」


 顔を上げるとリスティさんがこちらを見ていた。彼女には全てが見透かされているような気がする。それは年の差だけで埋められるものではないだろう。年以上の人生経験を経て、今のリスティさんが存在しているはずだ。
 俺は苦笑し、口を開いた。


「いえ……大丈夫です」

「余り気負う必要はないけど、人には少しの緊張は大事だよ。それでいい」


 そう話すと、彼女は立ち止まった。それにつられて俺も立ち止まる。彼女の視線は俺に向けられているのではなく、左手の大きな屋敷に向けられている。ここが目的地のようだ。


「さて、恭也。着いたよ」

「どうしますか?」

「とりあえずインターフォンだな。そして用件を話す。なに、全てボクがやるよ。君は万一の時のために待機してくれたらいい」

「――その時は俺の後ろに」


 犯人たちが素直に投降するとは俺には思えない。万一ではなく、ほぼ十中八九そうなるだろうと確信していた。だが、リスティさんは嫌に楽観視しているように見える。彼女は俺の知らない情報を持っているのだろう。でなければ説明できない。


「じゃ、行くよ」


 彼女はそういうと門に近づき、インターフォンを押した。屋敷に不釣合いな音が鳴り響く。この屋敷に似合うインターフォンの音などないのではないか。そんなどうでもいい事が思い浮かぶ辺り、俺も彼女の雰囲気に毒されているのだろう。
 空白の時間がしばらく流れる。たっぷり時間を取った上で、インターフォンから男の声が聞こえた。


「どちら様でしょうか?」

「リスティ槙原という者だ。二、三話を聞きに伺ったんだが」

「少々お待ちください」


 リスティさんから聞いた印象とはかなり違う丁寧な応対だった。本当にリスティさんの言う通りに穏便に終わるのかもしれない。リスティさんは腕組みをしたまま待っている。ここからでは彼女の顔をうかがうことはできない。


「お待たせしました。海鳴警察署のリスティ槙原さんですね?」

「あぁ、そうだ」

「用件は伺っております」


 その言葉に俺は驚いた。強制捜査とは突然行うから意味があるのではないのか。前もって知らせてしまうと証拠を消される恐れがある。一体どういうことなのだろうか。俺は彼女の意図を掴むことができなかった。


「へぇ……そうか。じゃあ話す必要はないね?」

「はい。若様……佐藤秀二は先程自首されました。関係者並びに証拠などは全て差し出す手はずになっております」

「……そうか」


 それは何の冗談だろうか。事件の犯人が強制捜査を前にして自首をした。それよりも驚いたのは佐藤秀二という名前。同姓同名という訳ではないだろう。何故あいつがそんなことを――状況の整理が追いつかない。だが、思い直す。俺にとっては事件の成否などどうでも良かった。ただ、彼女の無事が確認できればそれで良かったのだ。


「……月村は」


 そう、これで事件は解決した。後は警察に任せれば全てが丸く収まる。意識不明になった人たちも犯人たちの自供から解決の糸口が掴めるだろう。犯人は佐藤秀二。彼がどんな理由でこんな事を行ったのかはわからない。だが、今はそんなことよりも大事なことが俺の中にあった。
 俺はリスティさんを押しぬけ、インターフォンにかじり付いた。そして、その想いを声に出した。


「月村は大丈夫なのか!? もし、彼女に何かあれば俺は――」

「やめろ、恭也! 落ち着け!」


 リスティさんの声が俺に届く。しかし、俺はそんな事では止まらない。いや、止まりたくなかった。彼女を守れなかった俺にできることはそれだけだった。俺にとって、全てはそれだけだったのだ。
 しかし、俺の声は相手には届かなかった。いつまでも届かない声に俺は焦りを感じたが、どうしようもなく黙ることにした。リスティさんが止めてくれたからだ。


「Sorry。えっとね、腰くらいまで長い髪を持った美人の学生が君たちのところにいるはずなんだ。彼女は安全なのかい――?」

「――あぁ、そのような方でしたら、すでに解放しました。いつまでも監禁しておく意味などございませんので。ご自宅の方に戻られているはずですよ」

「Thanks。だそうだよ? 良かったね」


 自然と荒くなっていた息が収まっていく。月村は無事だった。俺が助けることはできなかったが、彼女は無事だった。そんな自分が情けなく思ったが、彼女の無事はもっと嬉しかった。自然と笑みを浮かべていたのを自覚できた。彼女は助かったのだ――これ以上に嬉しいことがあろうか。


「は……はい……俺は――」


 優しい笑顔で彼女の無事を喜んでくれる。そんなリスティさんにもお礼を言いたかった。だが、気持ちの整理が難しくて言葉にならなかった。
 もう会えないのかと思った。もう彼女の声を聞けないのかと思った。もう彼女と一緒に笑いあえないのかと思った。だが、再びその機会は訪れたのだ。


「ありがとう。詳しい話は警察署の方で――Bye」


 最後にそういうと、リスティさんはインターフォンから顔を離し、こちらを見た。彼女は少しおどけた様子で俺の方を見ていた。


「今日はこれで解散だね。いや、良かった」

「はい、ありがとうございました」


 やっと彼女に礼が言えた。彼女は少し驚いた顔を見せ、再び笑った。


「ハハ、礼を言うのはこっちだよ。今日はありがとう。帰り道はわかるね?」

「はい」

「ボクはこれから警察署に向かうよ。君は家に戻るといい。Bye」


 そういうと彼女は俺が向かう方向と逆の方向へと歩き出した。彼女は後姿を見せながら、こちらに手だけでさよならの合図を送ってきた。辺りは暗いはずなのに、その後姿は俺には光輝いて見えた。俺はその後姿に頭を下げた。


「まったく、世話の焼ける」


 彼女のそんな台詞が実に印象的だった。









 その足で自宅に戻った俺は実に何時も通りの日常だった。晶とレンのケンカに始まり、我が妹なのはの制止で終わる。そんな出来事も日常の一つだった。月村の家に電話をかけようと思ったが、よく考えると俺は彼女の家の電話番号を知らなかった。次に会ったら聞いておこう。
 丁度そんな時だった――俺の目の前の電話が鳴り響いたのは。
 時計を見ると午後十時。こんな時間にかかってくる電話に疑問が沸いたが、いつまでも鳴らしておく訳にもいかなかった。受話器を取ると、相手はリスティさんだった。


「恭也はいるかい?」

「リスティさんですか? 取ったのが俺だったから良かったものの、他の家族だったらどうするつもりだったんですか?」

「そんな事はどうでもいい。恭也だね?」

「はい、そうですが」


 慌てて電話をかける彼女の様子に、俺は眉をひそめた。


「いいかい? 今すぐ風芽丘に向かえ」


 彼女のその言葉に、悪い予感を頭によぎった。


「彼女が――月村さんが危ない」


 悪い予感ほど当たりやすいとはよく言ったものだった。そんなつまらない考えが最初に頭に浮かんだ。












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  1. 2006/11/14(火) 14:32:28|
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霧城昂

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