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She led to wide-scale bloodshed. -第一部 第7話ー

 古今東西、戦場には必ず敵と味方が存在する。それはごくごく当たり前の事だ。それが事実でなければ、男たちが命を削って戦う様が、酷く滑稽なモノとして映ってしまう。
 だからこそ、それは当たり前の事なのだ。

 さて、何故今更このような事を言っているのか。
 それは今回の話は味方の話ではなく、敵方の話であるからだ。


 ――本来ならば語らずとも良い話ではないのか?


 そう思われる方もいらっしゃるだろう。しかし、これは語らねばならない事なのだ。何故なら、彼らもまた彼ら自身の正義で戦っており、何より彼らの大将は後に重要な役割を担う人物であるからだ。

 彼は戦士だ。
 才能だけを問うならば、それは英雄になれるだけの力を持った人間だ。
 だが、彼は英雄である事を求めなかった。
 結果的に人々に英雄だと呼ばれる事はあったが、彼はそんなものを求めていなかった。
 彼の求めていたモノはただ一つ。
 彼はこの世界に覇を求めていた。
 なるほど、彼ならばそれを達成するかもしれない、と彼の周りにいる人たちは口を揃えて言う。

 それは私にとっても同感だ。
 別の時代に生まれていれば、彼の右に出る力を持った人間は存在し得なかったろう。
 だが、彼には運が無かった。それは何故か?
 簡単だ、彼女と同じ時を生きてしまったからだ。

 彼がどのように生きてきたかはここでは語るまい。
 彼女程に彼を注目しろ、という訳でもない。だが、少しだけ、少しだけ彼を気にかけてやって欲しい。
 この物語は彼女の物語でもあるし、彼の物語でもあるのだから。










She led to wide-scale bloodshed. -第一部 第7話ー










 その男は空を見上げていた。
 そこには雲ひとつなく、満天の星々がその男を照らしていた。そのお陰で男の顔がはっきり見てとれた。
 おそらく二十代後半から三十代半ばくらいだろうか、その容貌は決して整っている訳でもなかった。ただ、その瞳はぎらぎらと光っていた。それは獣の目と表現するのが一番わかりやすいだろうか。彼はそんな目をしていた。
 そしてそれは目だけではなかった。
 彼の全身を見ると、同じ年代の男と比べてみても、一回りも二回りも大きな体つきをしている。服の上からでも見てわかる大胸筋や、袖口から見える二の腕を見ても、彼が相当強い男であろう事は容易に想像できた。

 私が彼を見つけてから十数分経ったろうか、未だに彼は星空を見上げている。
 案外、見た目と裏腹にロマンチストな人間なのかもしれない。
 時折聞こえる虫の声を覗けば、それは確かに静かな夜だった。
 それもそのはず。十数時間後にはここは戦場となる場所なのだが、今はまだその時ではない。古来より戦場となる場所は概ね開けた場所だ。静かだと言うのは当然のことであろう。


「どうした? 俺に何か用か?」


 男はふいにそんな言葉を口にした。
 始めは私の視線に気づいたのかと思ったが、すぐに否と思い返した。
 彼は人並み外れた強さを持っているのだろうが、それは人間と言う枠内の話だ。そうである以上、私の気配に気づく訳もなかった。
 その予想は当たっており、彼が話しかけたのは私とはまた別の存在だった。


「そうですね。明日の最終確認というのはどうでしょうか?」


 何処からか、少し低い女の声が聞こえてきた。
 すると、先ほどまでは確かに誰も存在しなかった場所に長身の女性が立っているではないか。
 男はそれに慣れているのか、女の方を振り返りもせず星空を見上げながら言葉を返した。


「そうか。で、確認したい事とは何だ?」

「そうですね。本当に渓谷の前に部隊を配置してよろしいのですね」

「あぁ、構わない。それが何か不満か?」


 夜空を見上げながら、少し意地の悪い声で男は言った。


「そうですね。軍師である私の意見を言うならば、渓谷の後ろに陣取った方が有利に事を構えられます」

「それじゃあ駄目だ」


 いつの間にか男は彼女の方を見つめていた。彼女は顔こそ無表情のままだったが、その視線と声のどちらかに一瞬戸惑ったように無言になった。


「――何故駄目だというのです?」

「長年連れ添ってきたお前がわからないか? 答えは簡単だ。それじゃあ面白くないからだ」


 今度こそ彼女は絶句したような顔をした。そしてすぐにその顔を何時もの無表情な顔に戻した。


「まったく……貴方と言う人は、私のいる意味がないじゃないですか」

「そうでもないさ。お前にはこれまでに何度も助けられている」


 彼らはお互いに何かを懐かしむような目をしていた。
 何時までも続くかと思われたその時は、男の方から動かした。


「で、脅威なのは本当にリング12だけでいいのだな?」

「えぇ、他に天才魔術師アンジェラも居ますが、所詮一人だけ。少し注意を払うだけでいいでしょう」


 女のその言葉に男は頷きもせず、何か思案しているかのような顔をした。そんな男の姿を彼女が疑問に思うはずもなかった。


「どうしたのです? 他に誰か気をつけないといけない事でも?」

「――いや、それが槍鬼の事なのかもしれないが、予感だ。匂いがするんだよ」

「匂い……ですか?」

「同族……いや、同種だからわかる匂いってヤツがな」


 男の言葉の意味がわからなかったのか、彼女は一瞬不思議そうな顔をした。
 その顔に気づいた男は、気にするな、と言った。
 そして再び視線を女から夜空に戻した。


「ようやく……ここまで来ましたね」

「――あぁ、あの小さな村を飛び出してから、ここまでおよそ十年か。随分と時間がかかったもんだ」

「私はあの時、十年以上はかかると言いましたよ?」

「そうだったか? もしそうだったらすまなかったな。あの時の俺はまだガキだったんだ」

「いえ、気にしてませんよ。そんな貴方だから、ここまで付いてきたのですから」


 再び彼らの間に懐かしい雰囲気が立ち込めた。
 男の目には、先ほどまでと違い、穏やかな目をしていた。女の顔もただ無表情ではなく、どこか懐かしんでいる雰囲気があった。


「さて、いよいよ明日だ。俺はおそらく槍鬼とのほぼ一騎打ちのような状況になるだろう。全体指揮は任せたぞ?」

「えぇ、それが私の役目ですから。明日は存分に楽しんでらしてください」


 どういう原理なのか、その言葉と同時に女の姿が掻き消えた。やはり男は慣れていたのか、それを全く気にせず視線をぴくりとも動かすことはなかった。


「槍鬼……またの名をガラハッド。俺がこれまで相手してきた中で、おそらくは最強。もしかすればヤツも俺と同じアルカナの一人かもしれぬ」


 男は視線を真正面に向けると、右手の拳を握りこみ、視線と同じ真正面に放った。
 少し遅れて、拳の前にあった草々が風圧によって揺れていた。


「天下等そのついでだ。最強の座を俺に明け渡して貰おうか、槍鬼よ」


 男は真摯だった。それは自らの力を信じ、信じきった結果だった。
 彼もまた、レイと同じこの物語の一角を担う人物。私に選ばれた人物なのだ。










 もうこの辺りで十分だろう、と私は彼の元から立ち去った。
 さぁ、明日は歴史に名を残す決戦だ。
 一瞬にしてその決戦の場に飛ぶこともできるが、今はそんな気分ではなかった。少しだけ彼に毒されたのか、一晩中夜空を見上げてみたくなったのだ。
 見上げた空には彼と同じ視界が、満天の星々が私の眼に飛び込んできた。
 それは悠久を生き、旅してきた私ですら美しいと思えるような光景だった。

 私には明日の結末はわかっている。
 だが、その結末が彼らにとって良い出来事であってくれ、これからの彼女の運命を良いものとしてくれ、と星々に願わずにはいられなかった。











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  1. 2005/08/08(月) 01:26:09|
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She led to wide-scale bloodshed. -第一部 第6話-

 ザール帝国の都ライオットより西に数十km。
 ここにザール帝国軍の姿があった。その数四千。
 若干の防衛軍を首都に残しつつ、その数を送ることのできる軍事力はまさに圧巻の一言だ。
 その軍を引き連れ、先頭を白馬で進むのはザール帝国軍総大将ロバート=D=シュテッケン団長だ。
 その他、リング12に所属する騎士たちも皆それぞれの隊を率いて進んでいる。

 騎馬にまたがる騎兵隊や騎士たちはともかく、軍の半数以上を占める歩兵たちの顔には疲れが見えた。
 それもそのはずだろう。もう夕暮れなのだ。
 彼らは朝早く帝都を出発し、今この時まで休みはあったものの、ほとんど歩き詰めと来ている。
 疲れない方がおかしいと言うモノだ。

 彼ら一団の中には馬車もたくさん確認する事ができた。
 そのほとんどが物資運搬用の為の物であったが、最も後方を走る馬車には魔術師達が乗っていた。
 多分に漏れず、この物語の主人公レイの姿もそこにあった。
 その姿は戦場というのに何時もの通り奇妙な黒衣を身にまとい、魔術師だというのに杖一つも持っていなかった。
 ただ何時もと違う点が一つ。腰にレイピアの様な剣を下げている点だけだった。










 さて、以前この国の軍事力が世界一と評した。そのことを覚えているだろうか。
 確かにその武力はリング12を筆頭に圧倒的なモノを備えている。それは間違いのない事実だ。
 だが、忘れてはいけない事実がもう一つある。
 それは先の戦い――ルクレツィアの丘の決戦――の時、たった十二人だけで数千人を相手に勝利を収めた。
 これは一見物凄いことに見える。確かにそうだ。事実十二人で数千人相手に勝利を収める等、普通はありえない事。これはとても凄いことだ。
 しかし、ここで一つ忘れてはいけない事がある。
 ザール帝国がウィナー帝国に勝利を収めたのはルクレツィアの丘においてであり、そしてそれまでザール帝国はウィナー帝国相手に劣勢だったのだ。

 ここで皆さんは疑問に思うだろう。
 何故世界最強の軍事力を持つはずのザール帝国が劣勢になるのか。
 答えは簡単だ。


 ――魔術の発展した国ではなかったからだ。


 確かにザールにはアンジェラと言う天才的な魔術師が居た。
 逆に言えばただそれだけだ。
 アンジェラ一人が如何に凄いからといって、ウィナー帝国の魔術部隊に対抗できるという訳ではなかったからだ。
 これ一つとってもリング12の凄さがわかるというものだろう。










 レイは東の空を見つめている。その空は薄暗く、西の空では丁度夕日が沈みかけているところだった。
 その薄暗い空の下に見えるのは数時間前彼らが乗り越えてきた岩山だ。
 岩山は険しく、その様子から現在ではザール帝国西部の最終防衛線として使われている程だ。

 彼女は視線を変えず、少し目を細めた。まるで何かを憂いているかのように。
 それらの景色は彼女にどのような影響を与えたのか。
 いくらこの私でもそれを理解することはできなかった。


 ――たとえ彼女が私に一番近い人間だったとしても。










She led to wide-scale bloodshed. -第一部 第6話-










 やがてザール帝国軍は団長の号令と共にその前進を停止させた。
 どうやら今日はここで野営をするらしい。
 兵達は馬車の中からテントを取り出した。まず会議をする為の大きなテントから作り上げ、そこから少しずつ小さなテントを作りあげていく。
 四半刻程で全てが完成したというのは、かなり早い部類に入るのではないだろうか。
 その頃にはすでに日は落ち、星明りだけが彼らを照らしていた。
 当然そんな状況では会議にならない為、ランプやたいまつで明かりと灯したという事は言うまでも無かった事だろう。

 会議用のテントにリング12及び、火の宮廷魔術師であるアンジェラ、そして水の宮廷魔術師であるレイの姿もそこにあった。
 戦が直前に迫っているせいか、彼らの顔は何時にもまして迫力があった。特に団長、ニックの顔は笑みまでこぼれる程だった。
 それとは逆に、アンジェラの顔には不安が表れており、レイに至っては何時もと変わらぬ表情の欠落した顔をしていた。

 そんな異様な雰囲気の中、皆が団長の一言を待っていた。
 ある者は鬼気とした笑みを張り付かせ、ある者は何時も以上に真剣な顔をしながら、皆その一言を待ち望んでいた。
 皆が一同に団長を見ている。
 しかし当の団長はというと、目を閉じ、ニックと同質の笑みを浮かべながら何かを考えているようだった。
 それは何も知らぬ者が見れば、すぐさま逃げ出したくなるような姿だった。
 その姿を一言で言い表すのなら――戦闘狂と言い表すのが一番しっくり来るだろう。
 一般男性より一回りも二回りも大きな体躯で、見るからに筋骨隆々でとても敵わないと思わせるような体つきをした男が、すぐ近くで鬼気迫る笑みを浮かべているのだ。
 白状してしまえば、私だって何度も見ているはずの彼の姿が怖かったのだ。
 実の所、これは団長が戦争前の最後の軍議で魅せる恒例の行事なのだ。だから、私は今まで何度となく見てきた。団長の初めての実戦からずっとずっと。

 すると突然団長はその笑みを消し、目を開いた。


「諸君、おそらく明日。反乱軍との戦いが再開するだろう。彼奴らも既に我々の動きに気づいているはずだからな」


 少し椅子に深く座り直しながら団長はそう言った。
 その仕草で身にまとう白銀の鎧が軋む音が聞こえてきた。


「ブルー、予想衝突点を割り出す事ができたか?」

「はい、私も団長の考えに賛成です。おそらく彼らは我々の進攻に気がついているはず。そして今頃迎撃準備をしている所でしょう」


 ブルーはそう言いながら、慣れた手つきで目の前にある机に大きな地図を広げた。
 それはザール帝国西部地方の地図だった。


「現在、我々が野営している場所はここ。ライオットより西に百kmの地点です。そして――」


 広大に広がる荒野の東側を指で指した。そして、その指をゆっくりと西に引っ張っていき、ルクレツィアの丘も越え、荒野の最西部――巨大な峡谷への入り口でぴたりと止まった。


「おそらく、兵の絶対数で負けている彼らは真っ向からぶつかる、と言う事はしないでしょう。となれば、ここ。狭く側面を完全に塞がれたこの峡谷では一度にぶつかれる人数も少なくて済みます。となれば小数でも戦うことが可能です」


 たいまつに灯った炎がゆらゆら揺らめく。
 ブルーの予想に数人の騎士は同感だ、と言わんばかりに何度も小さく頭を縦に動かしていた。
 しかし、団長とニックはブルーの意見を聴いて頷くのではなく、少し小さな笑みを浮かべていた。
 まるで、お前の意見は間違っている、と言わんばかりの雰囲気だった。
 ブルーはその顔に全く気づいておらず、自分の予想をまるで信じて裏切らない顔だった。


「ブルー、流石にお前は聡明だな。頭がキレる」

「ありがとうございます」

「だが、私はその意見には反対だ。ニックも同じ感想だと思うが、どうだ? ニック」


 団長に話を振られ、ニックは深々と椅子にもたれていた背を起こした。
 そしてブルーを少し嘲るような目で見た後、団長の方に向き直った。


「そうだな、俺の意見を言わせてもらえれば――ブルーの予想には決定的なミスがある」


 ニックは残った片手で腕があったはずの部分を撫でながらそう言った。


「それは俺達の存在だ」


 ニックの言葉にブルーは目を見開き、団長は感心するかのように頷いた。


「もう言わないでもわかるとは思うが、一応言っておこう。確かに少数の兵で守る為にはそれは常套手段だ。その点だけを言えば間違えてはいない。だがそれは一つ条件がある。それは、両勢力の兵の強さが均等かもしくは自身が勝っていると言う条件だ。つまり、この条件を満たさない以上、その作戦を取ることはできない。如何かな? ブルー殿」

「――確かに、貴方の言う通りです。その点を失念していました」


 ブルーのその言葉を聴くと、満足したのかニックは再び椅子に背を埋めた。


「流石だな、ニック。では貴公の意見も聞こうか。どこで彼奴らは待っていると思う?」

「俺なら入り口ではなく出口に張る。出てきた相手を囲んで挟撃することもできるからな」

「そうだな。付け加えるなら出口手前の峡谷内で襲撃をし、頃合を見てゆっくりと後退する」


 団長とニックはお互いを見つめながら少し薄く笑った。
 流石は次期団長と呼ばれた事のある男だった。
 そうなると美味しくないのがブルーではあるが、彼の性格上自分の過ちから起こった事である為、何も言えずただ悔しがることしかできなかった。
 しばらくブルーは意見することはせず、軍議の行く末をただ見守ることしかできなかった。

 それからしばらく議論が交わされ、明日の作戦も決まり軍議も終わろうか、といった時だった。


「そういえばレイ殿。貴方は明日如何されるつもりかな? できる事なら戦場に慣れぬ身である貴方は最後方に控えて貰いたいのだが」


 軍議の間何も言わず、ただじっと地図を見つめていたレイに団長が話しかけた。
 その言葉を受けて、レイはゆっくりと顔を上げた。
 絹のように細い金の髪がゆっくりと流れる様は美しいと言うよりも、何か妖しさを感じさせる姿だった。


「私の事は気になさらず。私は私で少しやらないといけない事がある故、これで失礼させて頂く」


 レイは立ち上がると、騎士たちの背後を音も無く通り過ぎていく。
 たいまつの前を通りかかった時、先程まで揺れていた炎が突然揺れを止めた。
 あまりにも自然だっただめ、その事実に誰も気づくことはなかった。
 そうして彼女はテントから出て行く。
 後に残された騎士たちは彼女の様子に少し疑問を覚えたものの、すぐに軍議を再開させた。

 明日、後の歴史に名を残す戦争が行われる。そして多くの人間に様々な悲劇が起こる日でもあった。
 運命の歯車はゆっくりと終焉の時を刻んでいく。
 何の終焉かは答えられないが、流れる時には様々な分岐点が存在する。
 つまりはそれが明日なのだ。
 それはゆっくりと……ゆっくりと彼女に迫ってくる。


 ――撃鉄はもう降りてしまったのだから。











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  1. 2005/07/07(木) 01:58:08|
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She led to wide-scale bloodshed. -第1部 第5話-

 騎士ブルース=F=リンドバーグ卿が殺害されてから一週間が経った。
 今では城内の話題にリンドバーグ卿の件が持ち上がるのも少なくなってきた。人の関心はとても移ろいやすいものだ、と言う例にぴったり当てはまる事であろう。

 では、今どのような話題が持ち上がっているのか、と言うと、それは隣国ウィナー帝国との政治情勢についてだ。今、ザール帝国はルクレツィアでの折にウィナー帝国相手に勝利を収めた。そして、ウィナー帝国からの申し出により停戦協定が結ばれた。
 ここまでは以前話した通りだ。
 さて、ここでだ。一つこの世界の歴史を語らせて頂こう。それはこの先、話を進めていく上でとても大切な事だ。君たちに知っていて貰いたいことなのだ。
 ――では、準備はいいね。始めるよ。






 私がこの世界に生をなしてから数万、いや数億の時が流れていった。
 その際、この世界には様々な人種が生まれ、様々な国が生まれてきた。そして、ほとんどの人種や国は繁栄を待たずに滅びていった。
 だが、そんな中でも幾つか繁栄を極めた国々があった。

 古くは約1000万年前、人類がまだ科学に目覚める事の無く、今では伝説と呼ばれる英雄たちが世界を闊歩していた神話の時代。
 この話の時代では丁度ザール帝国のあった場所に、アヴァロンと言う国があった。
 アーサー王の伝説と言えばもはや語るまでもない程に有名だ。
 そしてこの国は歴史上最大の栄華を極めた国である、と言う事も付け加えておこう。だがしかし、彼らの歴史は衰退する時はあっさり衰退し、そして消えていった。
 私が生きるこの時代でも、何故彼らが滅びたのか、詳しいことはまだわかっていない。
 無論、数々の時代を見てきた私はそれを記憶している。だから話すことも出来るのだが、ここではまたの機会としておこう。この話とはまるで関係のないモノだからだ。

 そして約100万年前、この時代はまさに地獄と表現するに最も相応しい時代だった。
 世界が氷で包まれたからだ。
 この時代、人の身では耐えられない程の環境に、数々の種族、国が滅びていった。
 だが、こんな時代でも繁栄を極めた国があった。
 その国の名前はフルブライト王国。長い時を過ごしてきた私が、最も賢王と褒め称え尊敬のできた国王の居た国だ。
 この時代まで、ほとんどの国の国王は民に圧制を強いてきた。その結果、内側から瓦解した国も少なくはない。だが、この国は違ったのだ。
 国王は民に圧制を強いることはなく、それでいて国の治安が悪いと言うことでもない。そこでは民により法律が決められ、民が積極的に政治に参加する、といった様に民主主義を大義に掲げ、数百年を生きた国だった。
 だが、氷河期と言うこの時代、フルブライト王国の繁栄を妬む国は少なくなかった。
 この国の最後は、隣国全てに攻め込まれ制圧された、と言ったものだった。何ともあれは悲しい出来事だった。いずれ話す機会もあろう。

 そしてこの後、氷河期のせいかしばらく繁栄した国は現れなかった。大地を覆う氷は何時になっても融けず、次第に世界の人口は減少していった。そしてフルブライト王国が滅亡して約数百年後、ついには唯一残っていた国も滅び、残されたモノは各地にひっそりと暮らす村だけだった。そして、その中の一つにザールと言う村があった。そう、それが現在のザール帝国だ。

 そのザール村は少数ながらも神代の英雄に負けず劣らぬ才能を持ったモノたちの集まりだった。その数、わずか22人で構成された村であるものの、滅びを迎える事はなかった。
 そして、その時代を境にあれだけ繰り返されていた氷河期という言葉が文献に姿を見せる事はなかった。
 この時代に何があったのか、それは帝国図書館および魔術研究所の書物を紐といてみても、丁度その時代の前後数百年だけぽっかりと空白の期間があり、そこには何も記されていなかった。ただ、その時代より数百年後の文献には氷河期を想像させるような言葉が何も記されていなかった為、そうではないかと言われている。

 それからザールは着々と繁栄を続け、ついにはザール王国を建国するまでに至った。
 そして、現代より約千年前、初代皇帝エリック=ブルーシール=ザール一世の名の下に、かつてアヴァロン王国のあったとされた地、フォレスト大陸南東部にザール帝国が誕生した。

 アヴァロン王国があった時代には世界には巨大な大陸が一つあるだけだった。そして数百万年に渡る歴史の中、この世界は地殻変動を幾度となく繰り返し、ザール帝国の誕生した頃にはその巨大な大陸はすでに現代と同じ五つの大陸に分かれていた。

 そして、ザール帝国のあるフォレスト大陸であるが、この大陸は五つある大陸の内最も広い面積を持ち、世界の北西部に位置する大陸だ。
 そして、ザール帝国はこの時代すでに他の国の大きさの約三十倍もの国土を擁していた。
 一つの村から誕生したこの国は、歴史に残る程の繁栄を遂げたのである。

 だがその繁栄にも一つの陰りが見えた。
 今よりわずか十年前。ザール帝国の最西部に当たる地域が突如国に対して反旗を翻した。
 反乱軍は少数ながらも、とても強かった。地方を守る兵士たちでは歯が立たず、少しずつその領土は拡大していき、ついには当時のザール帝国の領土の四分の一を奪うまでに拡大していった。
 その国こそが、つい最近までザール帝国と戦争をしていたウィナー帝国である。
 この国についてはいずれ話す機会もあろうが、今この時点で知って貰いたい事は、ザール帝国にも、ウィナー帝国にもそれぞれの正義がある、と言う事だ。
 長々と歴史を語った上での最後の締めくくりがなんて陳腐なのか、と思う方もいらっしゃるだろう。だが、それだけは覚えていただきたい。
 例え、自らの利益の為に他国を侵略しても、何かを略奪したとしても、それは悪と呼べるものではない、という事だ。

 もし、悪があるとすれば、それに当てはまるのはおそらく私達なのだから――











 She led to wide-scale bloodshed. -第1部 第5話-












 ザール帝国謁見の間。
 ここに皇帝陛下を初めとする国の中枢を担う者たちが一同に集められていた。
 事務官、宮廷魔術師、近衛騎士、とそうそうたる顔ぶれだった。勿論、そこにレイの姿もあった。
 いつもと変わらぬ黒衣に身を包み、腕組みをしながら柱に身を任せていた。誰もが第一声を待つ中、彼女だけは我関せずと言った顔で虚空を見つめていた。

 そんな沈黙に耐え切れなかったのか、団長は一歩前に足を進め、陛下の方へと向き直った。


「陛下、今日はどのような用件で我々を呼び出されたのか、それをきっちりお答えいただけませぬか?」


 団長のその言葉に、陛下はその顎に青々と茂る髭を片手で触りながら、少し唸った。
 国王自身がそれを言う事を躊躇っているのだろうか。
 そこに集まった幾人かの人の顔に一抹の不安が浮かんでいた。

 そうして、しばらく陛下は思案した顔を皆に見せると、やがてその重い口を静かに開いた。


「この間の事件。あの事件にはウィナー帝国が絡んでいる。準備が済み次第、騎士団は全軍を持って進軍せよ」


 その言葉に部屋中に衝撃が走った。人々は互いを見つめ、そしてざわめき始めた。
 陛下の言葉に驚いた者、笑みを浮かべた者、とそれぞれ様々な反応があった。そんな中、最初に陛下に反論を返したのは騎士ブルーだった。


「陛下! 確たる証拠もない以上、この進撃は騎士団の誇りに背く事。その命令に従うことはできません!」


 陛下の顔を真っ向から睨み、ブルーはそう言った。その言葉に、部屋内は静まり返った。そして、その言葉を受けた陛下は、言い返す事もなくブルーを見つめるだけだった。
 しばらくその睨みあいは続いていた。
 それを見かねたニックは壁に預けていた背を起こすと、ブルーの方に向かっていった。そして、それに気づかないブルーの襟元を後ろから引っ張り、自身の顔のすぐ近くまでブルーを引き寄せたのだった。


「てめぇ、陛下の命令に逆らう気か!? 誇りだと? つまらん事言ってんじゃねぇ! 何より大切なのは上からの命令に従う事だ。それを覆しちゃ、何がなんだかわかんねぇだろうが!!」


 陛下の御前でありながら、場所を考えずそう怒鳴り散らすニックに周囲は様々な反応を示した。だが、当の陛下はそのような事に何も思わないのか、ニックとブルーのいざこざを見て、薄く笑みを浮かべていた。


「貴方には、帝国近衛騎士団に名を連ねる者としてのプライドは無いのか!! それがあるはずなら、先の陛下のお言葉に対して何らかの意を唱えるはずだ!」


 負けずと言い返すブルー。


「あるさ。確かに帝国近衛騎士団と言う立場に俺は誇りを感じちゃいる。だがな、てめぇのようなチンケなプライドじゃねぇ! 俺の誇りはこの力だ! この力使わずして何の為の騎士団か! 何の為の俺か!!」


 二人の言い争いは何時もどおり、段々とヒートアップしていった。それを見かねた団長は二人を押さえようとして、二人に近づいていった。
 だが、団長の前を悠々と横切る姿があった。それに気づいた団長は驚いて、その姿に眼を奪われた。レイだった。
 レイはそのまま陛下の近くまで歩くと、陛下の前で立ち止まり、頭を垂れた。


「では、私めの役目は如何様なものか」


 静かにそう紡ぎだされた声には、皆が、言い争いをしていたニックやブルーでさえ静かにさせるだけの力があった。


「逆に問おう。貴公の力なくしてこの戦、勝てると思うか?」

「戦には勝てるでしょう。だが、大将首を取れるか、と言われれば別の問題でしょう」

「ならば貴公に任務を与える。貴公はその身一つで戦場へと赴き、そして大将首を取れ。できるな?」


 その会話に皆は様々な疑問を持っただろう。だが、ただの一人としてその疑問を口にすることはなかった。


「――仰せのままに」


 レイはそう答えると、立ち上がり、踵を返して謁見の間から出て行った。
 後に残された人々は、しばらくそのままの状態で呆然としているのだった。












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  1. 2005/06/22(水) 01:54:35|
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She led to wide-scale bloodshed 第1部 -設定- ver1.05

レイ=ミーヤ 28歳 女 水術クラスS(レベル115/限界値レベル120) 剣術クラスD(レベル31/限界値レベル35)
 とある理由により、名の知られていなかった魔術師。だが実力はクラスS。
 この世界随一のザール帝国の都ライオットに暮らしていたが、この度帝国の徴兵制により、その実力が判明。一気に水の宮廷魔術師までに上り詰める。クラスSの理由は、水術だけに限り1カウントで魔術を施行できる為。本来ならば神と契約をし、契約を持って世界に働きかけて術を施行するのが本来の魔術であるが、それを神との契約もなしに施行できる実力があるため、クラスS。
 ちなみに水術以外の魔術はまったく使えない。

ブルー=C=ドレイフォード 24歳 男 剣術クラスB(レベル62/限界値レベル68) 槍術クラスC(レベル43/限界値レベル78)
 帝国の誇る最強の近衛騎士団「リング12」に所属する一人。未来の団長候補に名を挙げられている程の腕前である。その性格は勇敢で誠実。騎士の鏡だと噂されている。剣術クラスはBであり、騎士団の中でもクラスBの実力を持つものは団長の他にブルーしかいない。そのすばらしい剣技から「ラーンスロット」と言う位を手にしている。
 宮廷魔術師となったレイに一目惚れするものの、全く相手にされない。なんというか報われない人物。

ロバート=D=シュテッケン 42歳 男 槍術クラスB(レベル67/限界値レベル68) 剣術クラスC(レベル46/限界値レベル46)
 帝国の誇る最強の近衛騎士団「リング12」の団長を務める人物。彼が戦場に立つと辺りには敵の屍しか残らぬ事から「槍鬼」と呼ばれ、まさしく一騎当千。その他、「ガラハッド」と言う位も保有している。
 性格は豪胆で聡明な人物。帝国内ではレイを忌み嫌うモノが多い中、レイの人柄を一目で見抜き、人として接してくれる数少ない人間。

アンジェラ=ファスト 38歳 女 火術クラスB(レベル64/限界値レベル75) 地術クラスC(レベル46/限界値レベル52)
 レイが来るまで、帝国一の魔術師として火の宮廷魔術師を務めていた。
 レイが来たことにより、帝国一の魔術師と言う肩書きは捨てざるを得なかったが、それに対してレイをうらんでいると言うわけでもない。その辺りはさすが高名な宮廷魔術師と言うところか。
 だが、レイに対して好んで接する訳でもなく、仕事仲間として見ているようだ。

ニック=マスターニ 32歳 男 剣術クラスC(レベル48/限界値レベル52)
 ブルーが「リング12」に配属されるまで、彼が次期団長候補であった。とある事件で利き腕を失っている為、全盛期と比べると格段に腕は落ちたが、それでも団長とブルーに次ぐ実力者である。利き腕健在の頃「双頭龍」と呼ばれていた。その左右の手から繰り出される刃はまさに龍の牙のごとき一撃だった。

リング12
 ザール帝国の誇る世界最強の近衛騎士団。
 構成する人数が12人であることから、神話になぞらえてこう呼ばれるようになった。後に分かった事だが、実は神話の円卓の騎士が12人ではなかった、と言うのは皮肉な話。
 構成する騎士は全てクラスC以上の実力の持ち主。中でも団長とブルーはクラスBの実力を持つ。
 後にも先にも現れないだろうと言う騎士には円卓の騎士の名になぞらえた位が授与されているが、現在のリング12でそれを授与されているのは団長とブルーのみ。

クラス
 この世界には魔術、剣術、あらゆる分野において才能値をクラスで表示する。
 そのクラスは最弱がF、最高がSと7つのクラスに分かれている。
 クラスS  神話の時代に生きた英雄レベル
 クラスA  英雄になれるだけの力を持つレベル
 クラスB  世界レベルに見て、右に出るものがいないとされるレベル
 クラスC  大陸レベルに見て、右に出るものがいないとされるレベル
 クラスD  達人レベル
 クラスE  小隊長レベル
 クラスF  その武器を使える、といったレベル
 クラス無し その武器は使えない

※なお、これは後天的な努力により、幾つかクラスは上げられるものであるが、人それぞれに才能限界があり、努力により誰もがクラスA、Sになれると言う訳ではない。

才能限界
 上記のクラスの項目でも述べているが、人それぞれの先天的なモノで才能限界値と言うモノが決まっている。
 例えば、才能限界値をレベルという単位で表してみると、クラスSをレベル100とするならば、

 クラスS レベル100
 クラスA レベル70
 クラスB レベル50
 クラスC レベル40
 クラスD レベル30
 クラスE レベル20
 クラスF レベル10

 と言う風に表すことができる。つまり、現在のレベルが10~19であればクラスF、20~29であればクラスEという風になる。同じクラス内での優劣は、このレベルの上下で決まる事になる。
 そして、先ほどの通り、人それぞれ才能限界値が具体的なレベルで決まっている。

NEW
アルカナ
 この世界では神にも匹敵するとされる人間に神から授与される22の称号が存在する。一般的に知られておらず、授与された人間にしかそれはわからない。
 同じ時代に同じ称号を持つ者が二人いると言う事はありえないこと。
 また、同じ時代に必ず全ての称号が授与されている、と言う訳でもない。それぞれの称号にふさわしい人間が現れた時にだけ与えられる物である。
 こう聴くと素晴らしいモノのようであるが、実の所全く正反対の称号である。

 以下に22、全ての称号を記載。

  0.  The Fool
  1.  The Magician
  2.  The High Priestess
  3.  Empress
  4.  The Emperor
  5.  The Hierophant
  6.  The Lovers
  7.  The Chariot
  8.  Strength
  9.  The Hermit
  10. Wheel of Fortune
  11. Justice
  12. The Hanged Man
  13. Death
  14. Temperance
  15. The Devil
  16. The Tower
  17. The Star
  18. The Moon
  19. The Sun
  20. Judgement
  21. The World





随時加筆...






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  1. 2005/06/15(水) 22:39:18|
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She led to wide-scale bloodshed. -第1部- 第4話

「何を言っているのですか! あのレイ様が、そのような事をなさるはずがないでしょう!」


 少し怒気の篭った声が部屋中に響き渡った。
 事件の起こった次の朝、騒がしいのは城内の一部だけに留まらず、神話の時代より語り継がれてきた英雄たちが凌ぎを削ったとされる、ここ円卓の間でもそれは変わらなかった。
 かの英雄、円卓の騎士「ラーンスロット」と並ぶだけの腕を持つと評される騎士――ブルー=C=ドレイフォードは立ち上がり、目の前に座っている騎士たちを睨んでいた。
 睨まれた騎士たちは、その鋭い眼光にそのほとんどの騎士が視線を逸らし、あらぬ方向へと向いていた。だが、ただ一人視線を逸らさず、じっと彼の目を睨んでいた男がいた。

 眉のひそめられたその顔は、騎士と言うより歴戦の傭兵を思わせる男らしい顔で、椅子から伸びる足は服の上からわかるくらいに筋肉が張っていた。それでいて他の人間より長く見える辺り、身長はブルーと同じくらいか、もしかするとそれ以上かもしれなかった。そして、彼の最大の特徴だが、右肩から先にあるべきモノが何故か存在しなかった。
 それが、ブルーが騎士団に入るまで次期団長候補とされていた、騎士ニック=マスターニであった。

 彼はブルーのように誠実という訳でもなく、団長のように聡明と言う訳でもない。ただ強かったのだ。「リング12」に加入した頃、その強さは団長に肩を並べる程で、彼の左右の手から繰り出される二本の刃から「双頭龍」と呼ばれた事もあった。
 しかし、彼は数年前のポラリスの事件――これについては、いずれ詳しく話すつもりであるが、その事件の際に彼は利き腕を失った。
 利き腕を失って何故未だ騎士団にいるのか、とお思いであろう。ここが彼の凄いところだった。「双頭龍」と呼ばれた頃の強さは失ったものの、残った左手一本で彼は、団長を除いた「リング12」に所属する騎士たちに1対1で勝利してみせたのだ。「リング12」は1人で100人もの敵を相手にできる騎士たちで構成された近衛騎士団、と言えばその強さがよくわかるだろうか。


「確かに、あいつが殺ったという証拠はないな。だが、それは貴公も同様だろう。違うかな? 騎士ラーンスロットよ」


 ニックはブルーの眼を真正面から睨み返し、そう言った。するとブルーは言い返す言葉がなく、ただただ睨み返すだけだった。そして、彼の手元では握りこまれた拳が小刻みに震えていた。それを見とめた片腕の騎士は薄く笑みを浮かべるのだった。










She led to wide-scale bloodshed. -第1部- 第4話










 さて、もうおわかりであろうが、騎士ニック=マスターニはブルーの事を嫌っている。それはつまりブルーに次期団長と言う地位を奪われたから、という理由にほかならぬ訳であるが。
 しかし、ニックの気持ちもわからないではない、と思うのは私だけであろうか。もしそうであるのならニックではなく私の事だけを笑って欲しい。私と違って、彼は真摯なのだから。


「まぁそう睨むな、ブルー。半分は冗談だ。今のはただの可能性の話で、俺も信じている訳じゃない」


 長い足を組みなおし、ブルーの顔をじっと見据えながらそう言った。うってかわったように全く逆の意見を言うニックに、ブルーは怪訝そうな顔をした。


「俺はヤツの実力をこの眼で見た事がない。だからこそ言える事なのだが、ヤツがクラスSの実力者だと言うことを全く信じちゃいない」

「ニック殿。何故そのような――」


 左隣に座っていた騎士が裏切られたような顔をしながらそう呟いた。二人のにらみ合いに萎縮していた他の騎士たちも、その呟きで心を取り戻し、少しざわめき始めた。


「考えてもみろ。クラスSだという事はだ、神にも匹敵する力を持っていると言う事になる。それが武術ではなく魔術だと言うならば尚更だ。あの女の唱えるそれは魔術であって魔術ではない。それは奇跡と表現すべきモノではないのか。となると、つまりだ。彼女は人であって人でない何か別の存在ではないのか。そうは考えられないかな?」


 何時もならば、二人のいざこざを見ると真っ先に注意していた団長は、その時何も口にしなかった。
 そうなのだ。団長は知って見逃したのではなく、ニックの言葉に思うところがあったのだ。レイに対して、そのような可能性がある事を完全に失念していたのだ。

 彼のような人間にも、自身が近衛騎士団団長と言う自分の地位に対するプライドと、「ガラハッド」と言う帝国騎士団最高の栄誉を手にした事実に絶対的な自信があった。
 性格的なものも要因だが、だからこそ彼はレイと対面した時にそれ程の動揺を感じていなかった。レイの力を間違った方向に進まぬように導いてやろう、とも思っていたのだろう。
 ニックの唱えた可能性に、団長は心を囚われていた。だからこそ、団長は彼らのいざこざに口を挟もうとはしなかった。いや、できなかったのだ。
 彼もまた、ニックと同様に真摯で在りすぎたのだ。

 しかし時間は団長を待ってはくれなかった。無慈悲にも彼の知らぬ所で話が進んで行く。周りに居た騎士たちも、ニックの言葉に心を奪われ、団長の事に気づく者はただの一人としていなかった。

「だからこそ、俺はその事実を信じちゃいない。まぁ、勿論可能性の話であるから、これが絶対と言う訳でもないがな」


 ニックはそう言うと、その鋭い目で皆を見回した。先ほどからずっと彼を睨んでいたブルーを除くと、皆が彼の方見ようとはせず、その視線は誰もが宙を彷徨っていた。
 何を思ったのか、ニックは一瞬唇の片側を上げた。


「そこで先程の話に戻る訳だが。今日の議題は昨日の事件について犯人を見つけるモノではなかったはずだ。ただ、どう対策をとるか、だ。そこで俺の意見を言わせて貰えるならば、俺の意見はこうだ」


 ニックの言葉に再び静まり返る騎士たち。


「対策等不要だ。俺たちには帝国最強と言う肩書きがあるだろう。それを腐らせるのは惜しくはないか?」


 そう締めくくったニックの言葉は、皆に様々な思いを抱かせるに十分だった。










「国王陛下。貴方も存外に小心者ですね。もう手駒はそろっているのではないですか」


 女としては低く、少しかすれた声が部屋中に響き渡った。
 その部屋は机の上に小さな明かりがあるだけで、数歩先のモノですら確認ができない程暗い場所だった。


「――ん、何時の間に。この俺に気配を悟らせんとは流石だな」


 国王と呼ばれるにはまだ若い男の声が聞こえた。机の前に座っていたせいか全く姿の見えない女と違い、国王と呼ばれた男の姿は確認できた。
 背丈は座っているせいか確認はできないが、座高から考えるとかなりの身長のようだ。そして容貌は決して美形という訳ではないが、強く意思の通った精悍な顔立ちをしていた。


「何事も慎重に、石橋を叩いて渡るくらいが丁度いい。と言いたいが、確かにお前の言う通りやもしれぬな」

「そうでしょう。陛下、そろそろ動くべきではないですか? それとも、その手で全てを掴んで来た陛下ともあろうお方が、それ程までにザールが――いえ、かの近衛騎士団が恐ろしいのですか?」

 女が何処からからそう答えると、男は思案するかのように腕を組んだ。肘元で捲り上げられた服は、この暗闇でもそれとわかるくらいに値が張りそうなモノで、その服から伸びている腕には無数の傷痕が残っており、それが歴戦を勝ち抜いてきた証拠だ、と言い表しているようだった。


「どうしました? まさか、本当だと言うのではないでしょうね?」


 ただでさえ低かった声が、怒気により更に低い声となっていた。その声を聴いた男は、明かりの下で豪快に笑いだした。
 何を馬鹿なことを。そういう笑いだった。


「失礼しました。では、そういう事でよろしいのですね?」

「そうだな、戦は大将首を取れば勝ちだと言う。確認しておこう。敵大将首は槍鬼に間違いないか?」


 その声に女は何も言葉を返さなかった。


「ふ、ふはははははは!! そいつは楽しみだ。次の戦、俺自ら出るぞ。いいな?」

「それでこそ陛下です。では、私は精一杯サポートさせていただきます」


 夜空に浮かぶ月は時に安らぎを与えてくれる。だが、この日の夜空は厚い雲で覆われていて、月の姿はどこにも確認できなかった。それはまるで、何かを暗示しているかのように――











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  1. 2005/06/10(金) 09:59:57|
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霧城昂

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