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Blue Moon 第12話

 今朝の奴の様子は何時もと何かが違っていた。
 話し方が標準語に変わっていただけでなく、よくはわからないが何かが何時もと違っていた。そう見えたのは俺の気のせいではないはずだ。

 視線を時計に向ける。
 その針は昼休みまで後わずか。
 あの長い針が十数周回転する間があった。


 ――まだ考えていられる時間はあるようだ。


 そう思い、俺は少し安心をした。










 あの時、奴は知りもしない事を口にした。知り得る事のできない事を口にした。
 それこそ、人の心を読まねばわからぬ程の事を、だ。

 奴の姿を頭に思い浮かべる。
 俺と同じか少し低いくらいの身長はあるもののその体つきは細く、特別何か技を修めているような体格ではなく、身のこなしも素人同然の動きだった。
 だがしかし、そこで結論付けてはいけない。
 奴は俺の目を盗んだのだ。それも一度だけでなく二度までも。


 ――奴は一体何者なのか。


 もしかすると、今の俺が幾ら考えてもわからない事なのかもしれない。だが、最低限予想はできる。
 おそらくは何か諜報系の、それも人の心理を読む技を修めた男なのであろう。
 そしてここに転校してきたのは、この俺、御神について調べる為ではないのか。


 ――思えば、偶然が重なりすぎてはいないか?


 なぜ公立ではなく、わざわざ金のかかるこの私立学園に転校してきたのか。
 なぜクラス順から見て後ろの方である3-Gに転校してきたのか。
 なぜ奴の席が全体的に見て中途半端な窓際の真ん中辺り――俺の斜め前――になったのか。

 偶然が三度続けば、もはやそれは必然である、という話を聞いたことがある。
 そう考えるとこれは無視できぬ事ではないのか。

 しかし、そう考えたところで俺は一体どうするつもりなのだ。
 直接奴に、お前は何を調べている、とでも聞くつもりか?
 確かにそれが一番手っ取り早い方法であろう。ただし、それが正解ならば、だ。
 もし間違いだったらどうする。
 全く関係がなく、全ては俺の早とちりで済むだけならずっといい。最悪なのは俺の考えが少しでもかすった時だ。
 その時は未だ遠くにある危険を俺自ら手繰り寄せる結果になる。
 それだけは避けなければいけない。


 ――なんだこれは……八方ふさがりじゃないか。


 その事実に気づいた時、足が俺の意思と勝手に震え始めた。
 俺は歯をかみ締め、両手で足を押さえ込んだ。
 その時、手から離れたシャーペンが少し不快な雑音を奏でながら机を転がり、床へと落ちていった。
 仕方なく俺は落ちたシャーペンを拾う為、机に乗りかかって少し震える右手を伸ばした。その手が後少しで届くかと言う時に、思いがけない事に気づいた。


 安田がこちらを見ていたのだ。
 それもその顔には、まるで恐怖に震える俺をあざけるような薄い笑みが浮かんでいた。


 ――これは気づかれた!?


 奴はその恐ろしい顔をしばらくこちらに向けていた。その顔に薄い笑みを浮かべたままこちらをずっと見つめていた。
 以前似つかないと評したピアスが鈍く光る。
 足だけでなく、全身まで小刻みに震えだした。

 その永遠とも思えるような時間が過ぎ、奴はゆっくりとこちらに向けていた顔を元に戻した。
 それと同時に体の震えも治まり始めた。
 そうして初めて背中が汗ばんでいる事に気が付いた。
 その不快な感触に俺は顔をしかめると、うずくまるように机に顔を伏せた。


 ――もはや、これは決定的じゃないか。



 俺は奴に問い詰める事を決意した。










Blue Moon 第12話










 昼休みを示す鐘が鳴り響いた。それと同時に教室内がざわめき始める。
 教師も早く飯を食いたいのか、それをとがめることもせず、そのまま授業終了を告げ、教室を出て行った。
 そして、それに続くように数人が教室を飛び出していった。


――毎回毎回よく疲れない事だな。


 そんな事を思いながら俺は席を立つと、安田の席に向かった。
 それに気づいた奴は俺の方に向き直った。その顔は先程と違い、純粋な笑顔で覆われていた。


「おう、高町。飯か? せやったら今日は食堂行こうや」


 先程と違う普段通りの安田の言動に少し戸惑う。
 こいつは俺をからかって楽しんでいるのではないのか――そんな負の感情まで流れ込んでくる。


「ん、どないした? ぼうっとして」


 安田が笑顔を消し、怪訝そうな顔でそう言った。
 何時までも黙っている俺を不審に思ったのだろう、それはそういう顔だった。

 少しだけ開いている窓から緩やかな風が流れ込んできた。その風は秋らしく涼しい風で、俺を少しだけ安らかな気持ちにさせてくれた。
 俺は奴の目を真正面から見据えた。


 ――さぁ、行こう。


「安田、大事な話があるんだが、ちょっといいか?」


 俺の言葉に安田は表情を凍りつかせた。それは先程俺が恐怖を覚えた顔そのものだった。


「そうか。なら放課後にしないか? 俺にも色々準備がある」

「――わかった。うむ、今日の飯は別々の方がいいだろう」


 今の俺にとって精一杯の回答を返した。
 そして相手の返事を待たず、安田に背を向け、食堂へ向かう為に歩き出した。

 奴もわかっているのだろう、このあたりがお互いの限界点だという事に。
 数時間後、ようやく知りたかった答えを知ることができる。
 それに対して俺は不安と満足、両方の感情が心に生まれるのだった。

 教室の扉をくぐりぬける。
 その際、月村起きろ、という安田の声が聞こえてきた。
 その声に少し不安が強くなったが、衆人環境ではそう大胆な事もできないだろう、と言う考えの方が強く、それを無視することにした。










 食堂に着くと、そこはもう既に戦争になっていた。
 今更この人の流れの中に割り込む気力も無かった俺は、残り物のパンで我慢することにした。

 壁に背を預け、腕を組みながらこの人の流れをじっと見つめた。
 綺麗に並んで購入した方が早く買えるのではないか。そうなると彼らの行為は全くの無駄と言うことになってしまう訳だが――いや、整列等していたら欲しいモノが必ず手に入るとは限らないではないか。
 なるほど、そう考えると彼らの行為にも意味がある。

 そんなつまらなくどうでもいい事を考えていると、人ごみの中に見知った顔があることに気が着いた。
 晶は欲しい物を無事購入できたのか、人ごみの間をこじ開けるようにして外に脱出しようとしている所だった。
 その姿を見ていた俺は、無事晶が脱出できた所で彼女に近づくことにした。


「晶、お前もパンだったか」

「あれ、師匠。師匠もパンだったんですね」


 人ごみで疲れた、と言う顔を消し、晶の顔にはもう笑顔しかそこには無かった。
 そんな晶に黙って頷くと、晶は俺の周りを見回し始めた。


「師匠が食堂って事は、稔先輩も今日は食堂に来てるんですか?」

「いや、今日は一人だが、それがどうかしたか?」

「い、いえいえ、特に意味はないです!」


 晶は俺の言葉に慌てた素振りで手を左右に振りながらそう答えた。


「じゃ俺、みずのが待ってるんでそろそろ行きます。では!」


 そしてあっと言う間に走り去っていった。


 ――もう少し、淑やかにできぬものだろうか。


 そう心の中で嘆きながら人ごみに目を移すと、ラッシュが終わったのかそこには先程と比べて半分くらいの人しか確認できなかった。
 そろそろ俺も購入しておこう。コロッケパン辺りが残ってくれていればいいのだが。










 教室に戻った頃には、もう時計は昼休み終了二分前を表していた。
 パンを食った後、腹ごなしの散歩をしていたら次の授業が体育だと言う事を忘れ、少しのんびりし過ぎてしまった。

 俺は慌てて体操服とジャージを抱えると慌てて更衣室へと向かった。
 今日の体育は体育館でバスケだったか。
 そう思うと、俺は次の体育を適当に流すことにした。

 しかし、体育の時間が始まっても安田の姿を確認することはできなかった。
 そして奴の姿が確認できたのは、体育の時間が終わった後だった。
 授業が終了し、教師の姿が無くなり、みんなが教室に帰ろうとしていた時だった。


「高町ぃ!! この意味がわかるか!?」


 突然背後から俺を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
 その大きさに少し背中を震わせると、溜息をつきながら後ろを振り返った。
 初め俺は今頃来た安田をとがめようとするつもりだった。
 だが、それを見て俺は驚愕に心を振るわせた。

 壇上で体操服ではなく何時もの制服を着込んだ安田が立っていた。
 それだけならまだ良かったろう。だがしかし、安田の足元に信じられないものが存在していた。


 ――それはロープに体を縛られ、横倒しにされた月村の姿だった。


 俺の中で大量の血液が疾走した。目の前が少し歪んでいく気がしたが、今は倒れる訳にも行かず、しっかりと足を踏みしめ、安田の顔を見返した。
 何をするつもりなのか、奴は手のひらを上に向けながらゆっくりと右手を挙げた。


「さぁ、高町」


 奴は右手が頂点まで上がった所で、人差し指だけを伸ばし、それを天にかざした。


「ここがお前の地平線だ。」


 その手を下ろし、少し見下すような目つきをした。


「お前にこの青い月は見えるかな?」











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  1. 2005/06/29(水) 00:15:55|
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She led to wide-scale bloodshed. -第1部 第5話-

 騎士ブルース=F=リンドバーグ卿が殺害されてから一週間が経った。
 今では城内の話題にリンドバーグ卿の件が持ち上がるのも少なくなってきた。人の関心はとても移ろいやすいものだ、と言う例にぴったり当てはまる事であろう。

 では、今どのような話題が持ち上がっているのか、と言うと、それは隣国ウィナー帝国との政治情勢についてだ。今、ザール帝国はルクレツィアでの折にウィナー帝国相手に勝利を収めた。そして、ウィナー帝国からの申し出により停戦協定が結ばれた。
 ここまでは以前話した通りだ。
 さて、ここでだ。一つこの世界の歴史を語らせて頂こう。それはこの先、話を進めていく上でとても大切な事だ。君たちに知っていて貰いたいことなのだ。
 ――では、準備はいいね。始めるよ。






 私がこの世界に生をなしてから数万、いや数億の時が流れていった。
 その際、この世界には様々な人種が生まれ、様々な国が生まれてきた。そして、ほとんどの人種や国は繁栄を待たずに滅びていった。
 だが、そんな中でも幾つか繁栄を極めた国々があった。

 古くは約1000万年前、人類がまだ科学に目覚める事の無く、今では伝説と呼ばれる英雄たちが世界を闊歩していた神話の時代。
 この話の時代では丁度ザール帝国のあった場所に、アヴァロンと言う国があった。
 アーサー王の伝説と言えばもはや語るまでもない程に有名だ。
 そしてこの国は歴史上最大の栄華を極めた国である、と言う事も付け加えておこう。だがしかし、彼らの歴史は衰退する時はあっさり衰退し、そして消えていった。
 私が生きるこの時代でも、何故彼らが滅びたのか、詳しいことはまだわかっていない。
 無論、数々の時代を見てきた私はそれを記憶している。だから話すことも出来るのだが、ここではまたの機会としておこう。この話とはまるで関係のないモノだからだ。

 そして約100万年前、この時代はまさに地獄と表現するに最も相応しい時代だった。
 世界が氷で包まれたからだ。
 この時代、人の身では耐えられない程の環境に、数々の種族、国が滅びていった。
 だが、こんな時代でも繁栄を極めた国があった。
 その国の名前はフルブライト王国。長い時を過ごしてきた私が、最も賢王と褒め称え尊敬のできた国王の居た国だ。
 この時代まで、ほとんどの国の国王は民に圧制を強いてきた。その結果、内側から瓦解した国も少なくはない。だが、この国は違ったのだ。
 国王は民に圧制を強いることはなく、それでいて国の治安が悪いと言うことでもない。そこでは民により法律が決められ、民が積極的に政治に参加する、といった様に民主主義を大義に掲げ、数百年を生きた国だった。
 だが、氷河期と言うこの時代、フルブライト王国の繁栄を妬む国は少なくなかった。
 この国の最後は、隣国全てに攻め込まれ制圧された、と言ったものだった。何ともあれは悲しい出来事だった。いずれ話す機会もあろう。

 そしてこの後、氷河期のせいかしばらく繁栄した国は現れなかった。大地を覆う氷は何時になっても融けず、次第に世界の人口は減少していった。そしてフルブライト王国が滅亡して約数百年後、ついには唯一残っていた国も滅び、残されたモノは各地にひっそりと暮らす村だけだった。そして、その中の一つにザールと言う村があった。そう、それが現在のザール帝国だ。

 そのザール村は少数ながらも神代の英雄に負けず劣らぬ才能を持ったモノたちの集まりだった。その数、わずか22人で構成された村であるものの、滅びを迎える事はなかった。
 そして、その時代を境にあれだけ繰り返されていた氷河期という言葉が文献に姿を見せる事はなかった。
 この時代に何があったのか、それは帝国図書館および魔術研究所の書物を紐といてみても、丁度その時代の前後数百年だけぽっかりと空白の期間があり、そこには何も記されていなかった。ただ、その時代より数百年後の文献には氷河期を想像させるような言葉が何も記されていなかった為、そうではないかと言われている。

 それからザールは着々と繁栄を続け、ついにはザール王国を建国するまでに至った。
 そして、現代より約千年前、初代皇帝エリック=ブルーシール=ザール一世の名の下に、かつてアヴァロン王国のあったとされた地、フォレスト大陸南東部にザール帝国が誕生した。

 アヴァロン王国があった時代には世界には巨大な大陸が一つあるだけだった。そして数百万年に渡る歴史の中、この世界は地殻変動を幾度となく繰り返し、ザール帝国の誕生した頃にはその巨大な大陸はすでに現代と同じ五つの大陸に分かれていた。

 そして、ザール帝国のあるフォレスト大陸であるが、この大陸は五つある大陸の内最も広い面積を持ち、世界の北西部に位置する大陸だ。
 そして、ザール帝国はこの時代すでに他の国の大きさの約三十倍もの国土を擁していた。
 一つの村から誕生したこの国は、歴史に残る程の繁栄を遂げたのである。

 だがその繁栄にも一つの陰りが見えた。
 今よりわずか十年前。ザール帝国の最西部に当たる地域が突如国に対して反旗を翻した。
 反乱軍は少数ながらも、とても強かった。地方を守る兵士たちでは歯が立たず、少しずつその領土は拡大していき、ついには当時のザール帝国の領土の四分の一を奪うまでに拡大していった。
 その国こそが、つい最近までザール帝国と戦争をしていたウィナー帝国である。
 この国についてはいずれ話す機会もあろうが、今この時点で知って貰いたい事は、ザール帝国にも、ウィナー帝国にもそれぞれの正義がある、と言う事だ。
 長々と歴史を語った上での最後の締めくくりがなんて陳腐なのか、と思う方もいらっしゃるだろう。だが、それだけは覚えていただきたい。
 例え、自らの利益の為に他国を侵略しても、何かを略奪したとしても、それは悪と呼べるものではない、という事だ。

 もし、悪があるとすれば、それに当てはまるのはおそらく私達なのだから――











 She led to wide-scale bloodshed. -第1部 第5話-












 ザール帝国謁見の間。
 ここに皇帝陛下を初めとする国の中枢を担う者たちが一同に集められていた。
 事務官、宮廷魔術師、近衛騎士、とそうそうたる顔ぶれだった。勿論、そこにレイの姿もあった。
 いつもと変わらぬ黒衣に身を包み、腕組みをしながら柱に身を任せていた。誰もが第一声を待つ中、彼女だけは我関せずと言った顔で虚空を見つめていた。

 そんな沈黙に耐え切れなかったのか、団長は一歩前に足を進め、陛下の方へと向き直った。


「陛下、今日はどのような用件で我々を呼び出されたのか、それをきっちりお答えいただけませぬか?」


 団長のその言葉に、陛下はその顎に青々と茂る髭を片手で触りながら、少し唸った。
 国王自身がそれを言う事を躊躇っているのだろうか。
 そこに集まった幾人かの人の顔に一抹の不安が浮かんでいた。

 そうして、しばらく陛下は思案した顔を皆に見せると、やがてその重い口を静かに開いた。


「この間の事件。あの事件にはウィナー帝国が絡んでいる。準備が済み次第、騎士団は全軍を持って進軍せよ」


 その言葉に部屋中に衝撃が走った。人々は互いを見つめ、そしてざわめき始めた。
 陛下の言葉に驚いた者、笑みを浮かべた者、とそれぞれ様々な反応があった。そんな中、最初に陛下に反論を返したのは騎士ブルーだった。


「陛下! 確たる証拠もない以上、この進撃は騎士団の誇りに背く事。その命令に従うことはできません!」


 陛下の顔を真っ向から睨み、ブルーはそう言った。その言葉に、部屋内は静まり返った。そして、その言葉を受けた陛下は、言い返す事もなくブルーを見つめるだけだった。
 しばらくその睨みあいは続いていた。
 それを見かねたニックは壁に預けていた背を起こすと、ブルーの方に向かっていった。そして、それに気づかないブルーの襟元を後ろから引っ張り、自身の顔のすぐ近くまでブルーを引き寄せたのだった。


「てめぇ、陛下の命令に逆らう気か!? 誇りだと? つまらん事言ってんじゃねぇ! 何より大切なのは上からの命令に従う事だ。それを覆しちゃ、何がなんだかわかんねぇだろうが!!」


 陛下の御前でありながら、場所を考えずそう怒鳴り散らすニックに周囲は様々な反応を示した。だが、当の陛下はそのような事に何も思わないのか、ニックとブルーのいざこざを見て、薄く笑みを浮かべていた。


「貴方には、帝国近衛騎士団に名を連ねる者としてのプライドは無いのか!! それがあるはずなら、先の陛下のお言葉に対して何らかの意を唱えるはずだ!」


 負けずと言い返すブルー。


「あるさ。確かに帝国近衛騎士団と言う立場に俺は誇りを感じちゃいる。だがな、てめぇのようなチンケなプライドじゃねぇ! 俺の誇りはこの力だ! この力使わずして何の為の騎士団か! 何の為の俺か!!」


 二人の言い争いは何時もどおり、段々とヒートアップしていった。それを見かねた団長は二人を押さえようとして、二人に近づいていった。
 だが、団長の前を悠々と横切る姿があった。それに気づいた団長は驚いて、その姿に眼を奪われた。レイだった。
 レイはそのまま陛下の近くまで歩くと、陛下の前で立ち止まり、頭を垂れた。


「では、私めの役目は如何様なものか」


 静かにそう紡ぎだされた声には、皆が、言い争いをしていたニックやブルーでさえ静かにさせるだけの力があった。


「逆に問おう。貴公の力なくしてこの戦、勝てると思うか?」

「戦には勝てるでしょう。だが、大将首を取れるか、と言われれば別の問題でしょう」

「ならば貴公に任務を与える。貴公はその身一つで戦場へと赴き、そして大将首を取れ。できるな?」


 その会話に皆は様々な疑問を持っただろう。だが、ただの一人としてその疑問を口にすることはなかった。


「――仰せのままに」


 レイはそう答えると、立ち上がり、踵を返して謁見の間から出て行った。
 後に残された人々は、しばらくそのままの状態で呆然としているのだった。












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  1. 2005/06/22(水) 01:54:35|
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Blue Moon 第11話

 ――急げ、もっと早く。
 段々、自分の足が速まっている事がわかった。

 ――早く確かめなければ。
 学校に近づくにつれ、自身の動悸も速まっている事がわかった。

 俺は今、何時もより数十分早い時間に家を出発し、学校に向かっている。
 勿論、昨日の晶の言葉が気になったからだ。あいつには無視することのできない、何か秘密が隠されている。だからこそ、早く早く確かめる為に、俺はこんな時間に何時もの道を疾走している。
 勿論、何時もより早く着こうが、何時もと同じ時間に着こうが、ヤツがまだ登校していない限り、この俺の行動が全くの無駄になる、という事は重々承知済みだ。そんな事はすでにわかっている事だ。

 ――では、何故急いでいるのか。
 それは簡単だ。
 ただただ、自身のヤツに対する衝動を押さえきれなかっただけだ。他の何か別の理由等、ハナから存在してなかった、と言っていいだろう。
 笑わば笑え。
 この行動に何の意味は無くとも、俺は決して間違った事をしていないと信じている。
 何かあってからじゃ、遅いのだ。

 学校までは未だ幾ばくかの距離がある。この距離がどうしようもなくもどかしい。
 息が切れ、動悸も更に速まってきた。普段ではこの程度の距離、何でもないはずだったのだがな。

 十数m先に見える信号が赤になった。一拍遅れて、それに続く車の群れ。
 仕方なく、俺はそこで立ち止まる事にした。すると、先程まで全く気にならなかった膝の痛みが、突然悲鳴をあげ始めた。
 ずきずきと痛む膝はまるで俺に、これ以上走るな、意味などなかろう、等と大声で警告しているかのようだった。

 近い内に病院に向かわねばならないかもしれないな。
 そんな事を考えている内に、目の前には先程まで流れていた車の群れが、突然いなくなっていた。
 信号に目を向けると、それは自身を紅く光らせ、無駄な警告を俺に向けて発していた。
 今の俺にはそんなモノを待っている余裕はなかった。そして、俺はそのまま道路に足を踏み出したのだった。










Blue Moon 第11話










 教室の扉を勢い良く開いた。何時もより早かったせいか、教室の中には誰もいなかった。
 俺はその事実に少し落胆はしたものの、何を馬鹿な、当たり前の事ではないか、と思いなおし、ヤツが来るまで自分の席で待つことにした。

 誰もいない、と言う事を除けば、何時もと違わないはずの教室を、自分の席から見渡してみる。すると、誰もいないだけでこうも変わるのだな、と改めて思わされた。
 視界を遮るものは何も無く、少し薄暗い教室は俺にしばしの時を与えてくれるようだ。
 そのような暇ができるのも、まぁ当たり前といえば当たり前の事なんだが。





 思えば、俺は何時もそうだったのではなかろうか。

 ――例えばあの時。
 父さんが死んですぐの時。
 父さんとの約束の為、美由希との約束の為、そして家族を守る為、自らの鍛錬に明け暮れていた時。

 ――例えばあの時。
 事故の後、何とか治りそうだと言われた時。
 安む間も無く鍛錬を続け、武者修行へと出発したあの時。

 俺には何度も振り返る機会があったのではないだろうか。
 俺は何時も何時も急ぎすぎ、その結果大きな失敗を起こして後悔し続けてきた――あの時も、あの時も。そして、今もそうだ。
 もしかしなくても、今この時が振り返るべき時なのだろう。
 だが、しかし俺は振り返ることなどしない。何故なら、それが俺を今まで支えてきたモノ――家族を守ると言う事が、俺にとっての最大の行動理念なのだから。





 その時、教室の扉が開かれる音が耳に飛び込んできた。
 それに気づいた俺は、はっとして扉の方を見た。すると、そこには安田の姿があった。
 ヤツは俺に気づくと、少し驚くような顔をしてみせた。そして、すぐにその顔を元に戻すと、片手を挙げ、少し笑顔を見せながらこちらに向かってきた。


「よう、高町まいど。何や今日は早いな。どないした?」

「そういうお前も今日はお早い登校のようだが――何か理由でもあるのか?」


 俺は努めて自身の動揺を悟られないよう、細心の注意を払いながら答えた。


「ん……ちょっと用があってな。それ終わらせてから来たんやけど、なんや中途な時間になってな」


 その言葉に俺は頷くと、ヤツから少し視線を逸らした。そしてその視線を黒板上の壁時計に向けた。
 時間が気になった訳じゃない。ただ、ヤツと長い間目を合わせていられなかっただけだ。

 ――さて、よく考えろ高町恭也。
 おそらく、これが最後の境界線だ。ここを越えたらもう戻れぬぞ。
 さぁ、どうする!!





「安田、ちょっといいか」

「ん? どないした?」


 奴はこちらを振り返りながらそう言った。その顔は先ほどと違い、とても眠そうな顔だった。おそらくは、昨日遅くまで起きていたのだろう。


「いや、そんなに大した事じゃないんだが」

「あぁ、何や相談事か? 急ぎやなかったら後にしてくれへんかな、今めっさ眠いねん」

「――昨日、何をしていた?」


 時が凍りついた。
 安田は俺の顔を全く表情を変えずに見続けている。
 目を逸らしたい気持ちでいっぱいだったが、今度ばかりは目を逸らす訳にはいかなかった。
 すると、やがて安田は目線を俺から下に下げ、何かを思案するような顔をした。


「昨日の昼休みに晶の所に行ったお前はそのまま教室に戻らなかったな――何をしていた?」


 何時もの緩い表情と違い、安田は一度も見たことのない真剣な表情をしていた。
 おそらくは俺の予想通り、俺たちに言えない何かやましい事をしていたのだろう。


「――ん、そうだな。確かに俺は昨日教室に戻らなかったな」


 安田の何時もと違う表情、そして口調に俺は少しドキリとした。
 これはもしかすると予想通りなのか――そう思った俺は、安田に対して弱めの殺気をぶつけることにした。


「あまり怖い顔をこちらに向けるな、高町。俺はそんな顔をされるような事をしてはいない」


 顔だけでなく、体全体をこちらに向けながら安田はそう言った。


「何故そんな事が言い切れる。ならば何故隠す」

「そうだな、別に俺には隠し切らねばならぬ程の理由は特にないんだよ。ただ、その方がいいと思って隠しているだけだ」

「それはどういう事だ? 何か俺に関係があるから隠しているのか?」


 安田は目を閉じ、足を組みなおした。


「そうだな、確かにお前に関係のあることだ。だが、俺を信じてくれないか? 何もお前たちに危害を加えるような事はしちゃいない」

「――そうか、では今はそういう事にしておこう。この件については保留だな。だが、いずれ話してもらうぞ?」

「仰せのままに」


 安田はそう答えると自らの席から立ち上がり、教室を出て行こうとした。


「どこへ行く?」


 その後姿に呼びかけると、安田はあっさりと振り返った。


「ただの便所。さっきから我慢しとってん」


 そう言い残すと、教室から出て行った。そして、再びこの教室で俺は一人になった。
 俺はため息をつくと、そのまま机に突っ伏した。

 ――本当にこれでよかったのか?
 もっと追求した方がよかったのではないか。殴り倒してでも聞き出した方がよかったのではないのか。

 そのままの姿で俺は顔だけを起こした。
 飛び込んできた景色は先ほどと全く変わらず、薄暗い教室は俺に何かを警告しているかのようだった。
 そして俺はそこで気がついた。

 ――あいつ、何故あんな事を言えたんだ?

 その事に俺は少し恐怖した。
 あいつはあの場面で決して知りえぬ事を言った。言ってはならぬ事を言った。

 ――思い出せ高町恭也。
 何故あいつはあんな事が言えた。何故そんな事を知りえた。

 この件について保留した事を俺は後悔していた。
 またしても俺は甘かった。この件について俺は遠慮などできる立場ではなかったのだ。

 ――何故、そんな事を失念していたのだ。
 失念していい訳がないだろう! 守り抜くと誓ったのではなかったのか!

 先ほどの安田の言葉が頭に何度も鳴り響く。それは、俺に対して最後の警告であるかのように。
 そして、俺は頭を抱え、再び机に突っ伏したのだった。













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  1. 2005/06/17(金) 10:21:59|
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She led to wide-scale bloodshed 第1部 -設定- ver1.05

レイ=ミーヤ 28歳 女 水術クラスS(レベル115/限界値レベル120) 剣術クラスD(レベル31/限界値レベル35)
 とある理由により、名の知られていなかった魔術師。だが実力はクラスS。
 この世界随一のザール帝国の都ライオットに暮らしていたが、この度帝国の徴兵制により、その実力が判明。一気に水の宮廷魔術師までに上り詰める。クラスSの理由は、水術だけに限り1カウントで魔術を施行できる為。本来ならば神と契約をし、契約を持って世界に働きかけて術を施行するのが本来の魔術であるが、それを神との契約もなしに施行できる実力があるため、クラスS。
 ちなみに水術以外の魔術はまったく使えない。

ブルー=C=ドレイフォード 24歳 男 剣術クラスB(レベル62/限界値レベル68) 槍術クラスC(レベル43/限界値レベル78)
 帝国の誇る最強の近衛騎士団「リング12」に所属する一人。未来の団長候補に名を挙げられている程の腕前である。その性格は勇敢で誠実。騎士の鏡だと噂されている。剣術クラスはBであり、騎士団の中でもクラスBの実力を持つものは団長の他にブルーしかいない。そのすばらしい剣技から「ラーンスロット」と言う位を手にしている。
 宮廷魔術師となったレイに一目惚れするものの、全く相手にされない。なんというか報われない人物。

ロバート=D=シュテッケン 42歳 男 槍術クラスB(レベル67/限界値レベル68) 剣術クラスC(レベル46/限界値レベル46)
 帝国の誇る最強の近衛騎士団「リング12」の団長を務める人物。彼が戦場に立つと辺りには敵の屍しか残らぬ事から「槍鬼」と呼ばれ、まさしく一騎当千。その他、「ガラハッド」と言う位も保有している。
 性格は豪胆で聡明な人物。帝国内ではレイを忌み嫌うモノが多い中、レイの人柄を一目で見抜き、人として接してくれる数少ない人間。

アンジェラ=ファスト 38歳 女 火術クラスB(レベル64/限界値レベル75) 地術クラスC(レベル46/限界値レベル52)
 レイが来るまで、帝国一の魔術師として火の宮廷魔術師を務めていた。
 レイが来たことにより、帝国一の魔術師と言う肩書きは捨てざるを得なかったが、それに対してレイをうらんでいると言うわけでもない。その辺りはさすが高名な宮廷魔術師と言うところか。
 だが、レイに対して好んで接する訳でもなく、仕事仲間として見ているようだ。

ニック=マスターニ 32歳 男 剣術クラスC(レベル48/限界値レベル52)
 ブルーが「リング12」に配属されるまで、彼が次期団長候補であった。とある事件で利き腕を失っている為、全盛期と比べると格段に腕は落ちたが、それでも団長とブルーに次ぐ実力者である。利き腕健在の頃「双頭龍」と呼ばれていた。その左右の手から繰り出される刃はまさに龍の牙のごとき一撃だった。

リング12
 ザール帝国の誇る世界最強の近衛騎士団。
 構成する人数が12人であることから、神話になぞらえてこう呼ばれるようになった。後に分かった事だが、実は神話の円卓の騎士が12人ではなかった、と言うのは皮肉な話。
 構成する騎士は全てクラスC以上の実力の持ち主。中でも団長とブルーはクラスBの実力を持つ。
 後にも先にも現れないだろうと言う騎士には円卓の騎士の名になぞらえた位が授与されているが、現在のリング12でそれを授与されているのは団長とブルーのみ。

クラス
 この世界には魔術、剣術、あらゆる分野において才能値をクラスで表示する。
 そのクラスは最弱がF、最高がSと7つのクラスに分かれている。
 クラスS  神話の時代に生きた英雄レベル
 クラスA  英雄になれるだけの力を持つレベル
 クラスB  世界レベルに見て、右に出るものがいないとされるレベル
 クラスC  大陸レベルに見て、右に出るものがいないとされるレベル
 クラスD  達人レベル
 クラスE  小隊長レベル
 クラスF  その武器を使える、といったレベル
 クラス無し その武器は使えない

※なお、これは後天的な努力により、幾つかクラスは上げられるものであるが、人それぞれに才能限界があり、努力により誰もがクラスA、Sになれると言う訳ではない。

才能限界
 上記のクラスの項目でも述べているが、人それぞれの先天的なモノで才能限界値と言うモノが決まっている。
 例えば、才能限界値をレベルという単位で表してみると、クラスSをレベル100とするならば、

 クラスS レベル100
 クラスA レベル70
 クラスB レベル50
 クラスC レベル40
 クラスD レベル30
 クラスE レベル20
 クラスF レベル10

 と言う風に表すことができる。つまり、現在のレベルが10~19であればクラスF、20~29であればクラスEという風になる。同じクラス内での優劣は、このレベルの上下で決まる事になる。
 そして、先ほどの通り、人それぞれ才能限界値が具体的なレベルで決まっている。

NEW
アルカナ
 この世界では神にも匹敵するとされる人間に神から授与される22の称号が存在する。一般的に知られておらず、授与された人間にしかそれはわからない。
 同じ時代に同じ称号を持つ者が二人いると言う事はありえないこと。
 また、同じ時代に必ず全ての称号が授与されている、と言う訳でもない。それぞれの称号にふさわしい人間が現れた時にだけ与えられる物である。
 こう聴くと素晴らしいモノのようであるが、実の所全く正反対の称号である。

 以下に22、全ての称号を記載。

  0.  The Fool
  1.  The Magician
  2.  The High Priestess
  3.  Empress
  4.  The Emperor
  5.  The Hierophant
  6.  The Lovers
  7.  The Chariot
  8.  Strength
  9.  The Hermit
  10. Wheel of Fortune
  11. Justice
  12. The Hanged Man
  13. Death
  14. Temperance
  15. The Devil
  16. The Tower
  17. The Star
  18. The Moon
  19. The Sun
  20. Judgement
  21. The World





随時加筆...






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  1. 2005/06/15(水) 22:39:18|
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She led to wide-scale bloodshed. -第1部- 第4話

「何を言っているのですか! あのレイ様が、そのような事をなさるはずがないでしょう!」


 少し怒気の篭った声が部屋中に響き渡った。
 事件の起こった次の朝、騒がしいのは城内の一部だけに留まらず、神話の時代より語り継がれてきた英雄たちが凌ぎを削ったとされる、ここ円卓の間でもそれは変わらなかった。
 かの英雄、円卓の騎士「ラーンスロット」と並ぶだけの腕を持つと評される騎士――ブルー=C=ドレイフォードは立ち上がり、目の前に座っている騎士たちを睨んでいた。
 睨まれた騎士たちは、その鋭い眼光にそのほとんどの騎士が視線を逸らし、あらぬ方向へと向いていた。だが、ただ一人視線を逸らさず、じっと彼の目を睨んでいた男がいた。

 眉のひそめられたその顔は、騎士と言うより歴戦の傭兵を思わせる男らしい顔で、椅子から伸びる足は服の上からわかるくらいに筋肉が張っていた。それでいて他の人間より長く見える辺り、身長はブルーと同じくらいか、もしかするとそれ以上かもしれなかった。そして、彼の最大の特徴だが、右肩から先にあるべきモノが何故か存在しなかった。
 それが、ブルーが騎士団に入るまで次期団長候補とされていた、騎士ニック=マスターニであった。

 彼はブルーのように誠実という訳でもなく、団長のように聡明と言う訳でもない。ただ強かったのだ。「リング12」に加入した頃、その強さは団長に肩を並べる程で、彼の左右の手から繰り出される二本の刃から「双頭龍」と呼ばれた事もあった。
 しかし、彼は数年前のポラリスの事件――これについては、いずれ詳しく話すつもりであるが、その事件の際に彼は利き腕を失った。
 利き腕を失って何故未だ騎士団にいるのか、とお思いであろう。ここが彼の凄いところだった。「双頭龍」と呼ばれた頃の強さは失ったものの、残った左手一本で彼は、団長を除いた「リング12」に所属する騎士たちに1対1で勝利してみせたのだ。「リング12」は1人で100人もの敵を相手にできる騎士たちで構成された近衛騎士団、と言えばその強さがよくわかるだろうか。


「確かに、あいつが殺ったという証拠はないな。だが、それは貴公も同様だろう。違うかな? 騎士ラーンスロットよ」


 ニックはブルーの眼を真正面から睨み返し、そう言った。するとブルーは言い返す言葉がなく、ただただ睨み返すだけだった。そして、彼の手元では握りこまれた拳が小刻みに震えていた。それを見とめた片腕の騎士は薄く笑みを浮かべるのだった。










She led to wide-scale bloodshed. -第1部- 第4話










 さて、もうおわかりであろうが、騎士ニック=マスターニはブルーの事を嫌っている。それはつまりブルーに次期団長と言う地位を奪われたから、という理由にほかならぬ訳であるが。
 しかし、ニックの気持ちもわからないではない、と思うのは私だけであろうか。もしそうであるのならニックではなく私の事だけを笑って欲しい。私と違って、彼は真摯なのだから。


「まぁそう睨むな、ブルー。半分は冗談だ。今のはただの可能性の話で、俺も信じている訳じゃない」


 長い足を組みなおし、ブルーの顔をじっと見据えながらそう言った。うってかわったように全く逆の意見を言うニックに、ブルーは怪訝そうな顔をした。


「俺はヤツの実力をこの眼で見た事がない。だからこそ言える事なのだが、ヤツがクラスSの実力者だと言うことを全く信じちゃいない」

「ニック殿。何故そのような――」


 左隣に座っていた騎士が裏切られたような顔をしながらそう呟いた。二人のにらみ合いに萎縮していた他の騎士たちも、その呟きで心を取り戻し、少しざわめき始めた。


「考えてもみろ。クラスSだという事はだ、神にも匹敵する力を持っていると言う事になる。それが武術ではなく魔術だと言うならば尚更だ。あの女の唱えるそれは魔術であって魔術ではない。それは奇跡と表現すべきモノではないのか。となると、つまりだ。彼女は人であって人でない何か別の存在ではないのか。そうは考えられないかな?」


 何時もならば、二人のいざこざを見ると真っ先に注意していた団長は、その時何も口にしなかった。
 そうなのだ。団長は知って見逃したのではなく、ニックの言葉に思うところがあったのだ。レイに対して、そのような可能性がある事を完全に失念していたのだ。

 彼のような人間にも、自身が近衛騎士団団長と言う自分の地位に対するプライドと、「ガラハッド」と言う帝国騎士団最高の栄誉を手にした事実に絶対的な自信があった。
 性格的なものも要因だが、だからこそ彼はレイと対面した時にそれ程の動揺を感じていなかった。レイの力を間違った方向に進まぬように導いてやろう、とも思っていたのだろう。
 ニックの唱えた可能性に、団長は心を囚われていた。だからこそ、団長は彼らのいざこざに口を挟もうとはしなかった。いや、できなかったのだ。
 彼もまた、ニックと同様に真摯で在りすぎたのだ。

 しかし時間は団長を待ってはくれなかった。無慈悲にも彼の知らぬ所で話が進んで行く。周りに居た騎士たちも、ニックの言葉に心を奪われ、団長の事に気づく者はただの一人としていなかった。

「だからこそ、俺はその事実を信じちゃいない。まぁ、勿論可能性の話であるから、これが絶対と言う訳でもないがな」


 ニックはそう言うと、その鋭い目で皆を見回した。先ほどからずっと彼を睨んでいたブルーを除くと、皆が彼の方見ようとはせず、その視線は誰もが宙を彷徨っていた。
 何を思ったのか、ニックは一瞬唇の片側を上げた。


「そこで先程の話に戻る訳だが。今日の議題は昨日の事件について犯人を見つけるモノではなかったはずだ。ただ、どう対策をとるか、だ。そこで俺の意見を言わせて貰えるならば、俺の意見はこうだ」


 ニックの言葉に再び静まり返る騎士たち。


「対策等不要だ。俺たちには帝国最強と言う肩書きがあるだろう。それを腐らせるのは惜しくはないか?」


 そう締めくくったニックの言葉は、皆に様々な思いを抱かせるに十分だった。










「国王陛下。貴方も存外に小心者ですね。もう手駒はそろっているのではないですか」


 女としては低く、少しかすれた声が部屋中に響き渡った。
 その部屋は机の上に小さな明かりがあるだけで、数歩先のモノですら確認ができない程暗い場所だった。


「――ん、何時の間に。この俺に気配を悟らせんとは流石だな」


 国王と呼ばれるにはまだ若い男の声が聞こえた。机の前に座っていたせいか全く姿の見えない女と違い、国王と呼ばれた男の姿は確認できた。
 背丈は座っているせいか確認はできないが、座高から考えるとかなりの身長のようだ。そして容貌は決して美形という訳ではないが、強く意思の通った精悍な顔立ちをしていた。


「何事も慎重に、石橋を叩いて渡るくらいが丁度いい。と言いたいが、確かにお前の言う通りやもしれぬな」

「そうでしょう。陛下、そろそろ動くべきではないですか? それとも、その手で全てを掴んで来た陛下ともあろうお方が、それ程までにザールが――いえ、かの近衛騎士団が恐ろしいのですか?」

 女が何処からからそう答えると、男は思案するかのように腕を組んだ。肘元で捲り上げられた服は、この暗闇でもそれとわかるくらいに値が張りそうなモノで、その服から伸びている腕には無数の傷痕が残っており、それが歴戦を勝ち抜いてきた証拠だ、と言い表しているようだった。


「どうしました? まさか、本当だと言うのではないでしょうね?」


 ただでさえ低かった声が、怒気により更に低い声となっていた。その声を聴いた男は、明かりの下で豪快に笑いだした。
 何を馬鹿なことを。そういう笑いだった。


「失礼しました。では、そういう事でよろしいのですね?」

「そうだな、戦は大将首を取れば勝ちだと言う。確認しておこう。敵大将首は槍鬼に間違いないか?」


 その声に女は何も言葉を返さなかった。


「ふ、ふはははははは!! そいつは楽しみだ。次の戦、俺自ら出るぞ。いいな?」

「それでこそ陛下です。では、私は精一杯サポートさせていただきます」


 夜空に浮かぶ月は時に安らぎを与えてくれる。だが、この日の夜空は厚い雲で覆われていて、月の姿はどこにも確認できなかった。それはまるで、何かを暗示しているかのように――











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  1. 2005/06/10(金) 09:59:57|
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She led to wide-scale bloodshed -第1部- 第3話

 暗闇の中、何かの気配を感じとれた。
 うっすらと差し込む月の明かりから、ここが室内であることを理解できた。そして定期的に聞こえてくる鉄を打ち合うような音。時折聞こえる男の声からは、何か必死さを感じとることができた。
 どうやら二人の人間が剣の打ち合いをしているらしい。そして男の声から察するに、これはただの訓練ではなく、真剣勝負――言い換えるならば殺し合い――と言う事を理解させるに十分だった。

 この戦いは素人目から見ても、達人同士の戦いであることがわかった。それ程高度な戦いだったのだ。
 男の振り下ろす刃、返す刃、突く刃はどれも相手の致命傷を狙ったモノであることは明白であり、対して相手の方はというと、男の攻撃を全て苦も無く流している辺り、相当な使い手である事がわかる。その手にある得物は、男の持つ長剣よりも細く長いレイピアと呼ばれるような代物だった。


 ――男の刃が短く横になぎ払われる。
 相手はそれをなぎ払われた方向へといなす。

 ――男の刃が返す刃で左に切り上げる。
 相手は軽々とバックステップでそれを避けた。


 そんな攻防が四半刻程続いた頃だった。男が段々と少しずつではあるが、壁際へ追いやられている。光でうっすらと照らされた顔には、かなりの量の汗を確認することができた。
 男は冷静に相手の隙を作り出そうと左右に刃を走らせる。しかし、相手はそれを軽々といなすと、お返しにと男に向かって刃を走らせた。


「ちぃっ!!」


 男はその刃を瞬時に判断すると、紙一重でそれを避けた。紙一重と聴くと聞こえはいいが、紙一重で避ける以外方法がなかった。つまり、少しでも判断が遅れれば男はその刃の前に倒れ伏していただろう。それはそれ程の、今の攻撃で勝負が決まってもおかしくない、天賦の才ではなく、ただ愚直に修練を積み、その上で放つことができる。そんな一撃だった。そんな一撃を回避できた男もまた達人と呼べる存在なのであろう。
 そんな男の苦労もむなしく、ついには壁際まで追いやられてしまった。流れは男の方にはなかったのだ。
 しかし男は慌てることなく、体を崩さず袈裟に刃を走らせた。袈裟に振り下ろされた刃は相手に当たることはなく、そのまま空を切っていった。その事実に男は冷静に対処した。返す刃で右切上げを狙ったのだ。
 だが、それは間に合わなかった。圧倒的に遅すぎたのだ。相手よりも遅く振り上げられた刃が、最短で突き進んでくるレイピアに追いつく事ができる訳がなかった。それはとても避けられるモノではなく完璧な一撃だった。
 そして、その一撃は吸い込まれるように男の胸に入り込んだ。男は絶命したのだ。

 その時、月明かりが相手の顔を映し出した。それは妖艶なまでに美しい顔で、金色の透き通った髪はなおそれを際立たせていた。
 男から剣を抜く。そのまま男はうつぶせに崩れ落ちた。
 その時に飛び散った血が彼女の顔まで届いていた。女は血を拭わず、うつぶせに倒れ伏せた男を見つめている。無表情で見つめる目が、とても恐ろしく感じられた。
 しばらくそうしていただろうか、視線を男から外し、剣を収め、踵を返して暗闇の中へ消えていった。

 後に残されたのは男とその男の長剣だけだった。その剣はあれほどの打ち合いにも関わらず、刃こぼれの一つもしていない、まさに名剣だった。
 その刃は暗闇でも曇ることのなく、ただただ綺麗と表現するにふさわしい物――そして、その鍔にはザール帝国の紋章が刻まれていたのだった。










She led to wide-scale bloodshed -第一部- 第3話










 その日、城内は何時もより活気付いていた。その理由は帝国近衛騎士団「リング12」のメンバーの一人、ブルース=F=リンドバーグ卿が何者かに暗殺された、と言ったものだった。
 それはザール帝国にとって驚愕すべき事件だった。あの「リング12」の一人がおそらく1対1で負け、殺されたのだから。
 確かにリンドバーグ卿は「リング12」の中ではそれ程際立った活躍をした男ではなかった。彼の指揮した部隊が特別活躍した訳でもなかった。だからと言って、彼の実力が他のメンバーと比べて弱かったから暗殺者に敗北したのだ、と判断するにはまだ早い。
 彼の能力値――剣術クラスC(レベル42)、炎術クラスD(レベル36)――は決して他のメンバーと引けを取ることはなかった。
 つまりはそういう事だ。彼程の実力者でも勝てぬ相手だった、こういう事になるだろう。だから場内はこの事実に驚愕を覚えていたのだ。

 その日、この物語の主人公レイは魔術師たちの集まるザール城地下の魔術研究所にいた。何故なら、ここが彼女の職場であるからだ。
 そこでは色んなジャンルの魔術師が日々魔術に関して研究を続けている。この国は他国と比べてあまり魔術の盛んな国ではないものの、これまで幾つかの魔術を開発してきた。それらは全てこの研究所の一番奥の書架に全て収められている。
 レイは丁度その書架で過去の書物を紐解いていた。
 彼女はそこで他の魔術師たちには読めなかった、神代の頃に書かれた魔道書を手に取っていた。そして彼女はその内容に釘付けになっていた。どうやら彼女には神代文字がスラスラと読むことができるようだ。
 そんな時だった。彼女が城内の異変に気づいたのは。

 書架の外から声が聞こえてきた。この書架に届く程の声で話すことは中々ないはず、そんな事を思ったレイは後ろを少し振り返った。
 何時もならそんな声も無視して自分の好きなことを常に先行するレイであったが、今回は何故かその声がとても気になった。
 それはまさに虫の知らせだったのかもしれない。だが、その時のレイは知る由もなかった。

 本を棚に戻し、レイは未だ聞こえてくる声の方に向かった。進むにつれその声が段々大きくなっていった。
 時折聞こえてくる、死んだ、殺された等の言葉が気になったレイは少し足を速めることにした。
 そうして、書架の外に出ると、レイより若い水の魔術師たちが何やら大きな声で各々真剣な顔で話し合っている姿が見て取れた。


「だからさ、その可能性もあるじゃない」

「いきなりそれはないだろ。着任してすぐにこんな事件起こすなんて、ただの馬鹿じゃないか」


 彼らの話が気になった彼女は、それを知る為彼らの方に近づいていった。
 すると、その中の一人がレイの存在に気づき会釈を返してきた。その為、話をしていた魔術師たちも話を止め、レイの方を向いて挨拶をしてきた。


「君達、今何の話をしていた? 私にも聞かせてくれないか」


 彼らの挨拶を無視し、本題からいきなりぶつけるレイ。若き魔術師達は挨拶を返してくれなかった事に少し戸惑ったが、小さい声でお互い相談をした後、渋々話の内容を話すことにした。


「聴いた話なのですが、昨夜リンドバーグ卿が殺されたらしいです」


 その言葉に握りこんだ手を口元に持っていき、少し思案するレイ。そして何か思いついたのか、すぐに顔を上げた。


「なるほど。では、そのリンドバーグ卿という者は何者なのだ? そんなに殺されてはまずい人間なのか?」


 レイの言葉に若き魔術師たちは皆呆然とした。どうやら何かを思いついた訳ではなく、リンドバーグ卿という人物について思い出していただけだったのだ。
 魔術師たちは少し調子を崩されたようだが、いち早く正気に戻った一人がレイにリンドバーグ卿のことを説明した。
 「リング12」に所属している、殺されるという事はどういう事か、等を簡潔にわかりやすくレイに一つずつ教えた。


「なるほど、よくわかった。皆がそれ程に騒ぐ訳が、な」


 そう言うと、レイは踵を返し書架の方へと向かって行った。魔術師たちはレイがどこに行くのか理解できなかった。だから、彼らはレイに尋ねてみることにした。


「レイ様。どちらに行かれるのですか?」


 その言葉に立ち止まるレイ。そしてゆっくりと彼らの方を振り返ると、書架に決まっているだろう、私は忙しいのだ、とにべも無く返してきた。
 そして彼女はそのまま扉を開き、書架の中へと体を滑り込ませていった。
 後に残された魔術師たちは、ただただ呆然とするばかりだった。












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  1. 2005/06/06(月) 01:31:45|
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Blue Moon 第10話

 それは夕食の時だった。
 今日は久しぶりに月村を家に招いての食事だ。かーさんやフィアッセもにぎやかになる、と言う事で喜んで了承してくれた。
 明日は休日ということで、忍ちゃんを家に泊まらせるように、とのかーさんからのお達しだ。それを聴いた俺は、今夜の夕食の後に酒が出そうな予感がしていた。その事には少し憂鬱であったが、月村が泊まっていくのには俺も依存はない――むしろ、嬉しくもあったのだ。










Blue Moon 第10話










「忍ちゃん、今日は久しぶりに桃子さんが腕を振るうから、期待しててね」

「あ、今日はありがとうございます。何かちょっと悪い気がしますけど」

「いいのいいの。食べる人が増えた方が、料理人冥利に尽きるってもんよ」


 そんな月村の遠慮を否定するかのように、笑いながらかーさんは言った。


「かーさんの言う通りだ。遠慮することはない」


 かーさんの気配が遠ざかったところで俺はそう言った。かーさんは鋭い。あまり俺が月村に話しかけているところを見られたくなかったからだ。


「うん。でも、やっぱりちょっと遠慮しちゃうよ」

「気にするな。赤星もよく食べに来る。それに月村も何度も来ているだろう。これからもその度に遠慮してたら疲れるだろうし、友達ならば当然のことだ」


 そういうと、月村は少し顔を紅くして笑顔で頷いてきた。
 友達と言う、自分で言った言葉に少し後悔をする。友達と認めてくれた事には素直に嬉しかったのだが、それは逆にそれ以上を期待するな、と言うことに繋がるような気がしたからだ。
 それが俺の思い過ごしなのだろう、とは思うし、それこそが自惚れなのかもしれない、とも思う。
 しかしまいったな、俺がこんな事で動揺するとは。赤星に対して人の事はいえない立場になってしまったではないか。


「高町くん、どうしたの?」


 小首を傾げてそう月村が聞いてきた。その姿に少し頬に熱を感じたのは気のせいであって欲しい。


「いや、気にするな。もうすぐ飯だ。台所に向かうとしよう」


 月村に背を向け、俺はそう言うと月村を促すように歩き出した。これ以上月村の顔を見ていられなかったし、なるべく早く沈めなければ、かーさんたちに気づかれてしまう恐れがあったからだ。










「じゃあ、忍ちゃん。一杯食べてってね」

「はい、ありがとうございます」


 そうして、夕食が始まった。月村一人が増えただけで何時もよりにぎやかになり、そして俺も何時もより箸が進んでいるような気がしていた。
 そしてそのまま10数分くらい過ぎた時の事だった。


「そういえば恭也。稔はどうしてるの? 元気してる?」

「ん、あぁ、何時も通りだぞ。特に変わった様子はない」

「そういえば、今日昼休みから姿を全く見なかったけど、どうしたのかな?」


 月村が妙な事を口にした。
 確かに昼休みは晶の所に用事があって出かけたようだが、その後の授業で顔をあわせているだろう。では、何故月村はそんな事を言ったのか。それが気になり尋ねてみることにした。


「月村。どういうことだ? 確かに昼休みは出かけたようだが、その後授業中に顔をあわせているだろう」


 俺がそういうと、月村は大げさな仕草をしてみせ苦笑した。


「高町くん。あなたは昼休みの終わりあたりから放課後までずっと寝てたでしょう? そんな事だと卒業できないよ?」


 月村がそういうと、皆が俺を非難の篭った目で見ていた。特にかーさんやフィアッセの目が怖い。
 その後、かーさんたちを納得させるのに10数分時間を要したことは語るまでもないだろう。
 そして先ほど気になったことをもう一度月村に尋ねてみると、安田は午後の授業には出ていなかった、という事がわかった。午後の授業をサボらなければいけない程重要なことがあったのだろうか。


「月村、席が前と後ろのよしみで何か安田の事を知らないか? 朝、安田と話し込んでいただろう。その時、授業をサボるくらい重要な理由を聴いていなかったか?」

「んー、そだね――確か、晶の所に用事があった、ってのを聴いたよ」


 月村がそういうと、皆の視線が一斉に晶に注がれた。そのせいか、晶は飯を喉に詰まらせ、むせこんでしまった。その姿に隣に座っていたなのはが慌てて麦茶を渡すと、それを受け取った晶は一気飲みをした。すると、詰まっていたのが取れたらしく、少し涙目で大きな息を吐いていた。
 その姿に少し心配をした俺は、大丈夫か、と問いかけてみた。


「は、はい。何とか、大丈夫です」

「ほんま、お猿は慌てもんやな。もっとウチみたいにお淑やかにせんとあかんで?」

「うるさい、カメ」

「なんやと!」


 ちょっとした事でケンカをし始める二人。
 もう少し仲良くならんのか。
 まぁ、そんな事よりも今は安田の件が気になる――そう思った俺は、何時もはなのはに任せていた仲裁役を買って出ることにした。


「二人とも、つまらない事でケンカをするのは止めてくれ」

「ですが、師匠! もう我慢の限界です。きっちり決着つけて、このカメに灸を据えないことには、おちおちご飯も食べてられません!」

「そうです。これはお師匠の頼みでも引けません。このお猿だけはもうウチの手で始末せんことには、我慢できません」


 俺の言葉を無視して更にヒートアップする二人。仕舞いには二人とも席を立ち、庭で決着をつけよう、と言い出す始末。その二人の姿に、月村を含めおろおろする家族たち。仲裁役のなのはでさえ、二人の姿に口を挟めないでいる。
 そこで俺はと言うと、確かに二人の身も心配であるが、それ以上に今日は安田のことが気になっていた。何故こんなにまで安田のことが気になっているのか。その時の俺はまだ、その理由がわからなかった。
 そして、何故か俺は腹を立てていた。早く知りたい、早く安心したい――そんな気持ちで一杯だった。


「美由希。少しの間、なのはが俺の方を見ないようにしてくれるか?」

「も、もしかして恭ちゃん。う、うん、わかった」


 俺が今からすることに気が付いたのだろう。美由希は素直に頷いて立ち上がった。そしてなのはを抱きしめ、俺の方を見ないようにしてくれた。
 そして月村の方を見た。月村にも言っておこうとしたが、今この言葉を月村に言ったら、その内俺が後悔する。そう思った俺は月村には何も言わないことにし、年長者二人の方に目を向けた。


「恭也。わたしとしては助かるけど、あんまりやりすぎちゃダメよ」

「桃子の言う通り、フィアッセからもお願いだよ」


 年長者二人の助言に素直に頷いた。
 二人は何か勘違いしているようだが、別に俺は二人を暴力で諫めよう、とか思った訳じゃない。幾ら腹が立っている、と言ってもそこまでするつもりはない。守るべき相手をこの俺が手にかけては本末転倒だ。
 では、どのように止めるのか――ただ、少し驚いてもらうだけだ。彼女らならすぐに正気を取り戻してくれるだろう。

 そして二人の方に目を向けてみると、彼女たちはすでに庭に出ていた。二人ともまっすぐな闘気をぶつけ合い、お互いを牽制しあっている。
 ―― 一触即発。まさにそのような状況だった。
 俺はそんな二人のまっすぐな闘気に少し自嘲をした。開け放たれたベランダへの出口からは、緩やかで優しい風が吹きこんでいた。その風に身を委ね、少しの間目を閉じる。


 ――想像しろ。
 一つ、頭の中に一つの刃を思い描く。

 ――想像しろ。
 一つ、黒い霧が俺を覆っていく。

 ――想像しろ。
 一つ、おそらくそれは己への啓示か。

 ――想像しろ。
 一つ、きらめく刃は妖艶なまでに美しく。

 ――想像しろ。
 一つ、それは破壊の象徴か。

 ――想像しろ。
 一つ、これが最後の境界線。

 ――想像しろ。
 一つ、それを越えれば羅刹とならん。

 ――ならばこそ、俺は剣と共にあろう!!


 目を開いた。飛び込んできたのは、お互いに殴り合おうとした姿。だが、何時まで待っても二人は殴りあうことはなかった。その事実に少し安堵すると、食事を再開する為に食卓についた。
 周りを見回すと、皆俺の方を見ていた。それは畏怖ではなく、疑問のこもった眼差しだ。どうやら、成功したようだ。あまり経験が無かったので失敗した時のことを考えていたが、それは杞憂だったようだ。なのはへの保険もいらなかったな。


「どうした? 皆、飯を食わないのか?」

「って、恭也。一体何したの? こんな離れた場所から二人を止めるなんて」

「そうだよ。それを教えて欲しいな」


 年長者二人の言葉は当然の疑問だ。しかし俺は美由希に牽制の視線を送ると、さてな、とごまかすことにした。


「まぁ、いいわ。晶ちゃん! レンちゃん! ご飯冷めちゃうからさっさと食べましょ!」


 そうして夕食が再開した。
 そして先ほどから気になっていた安田のことを尋ねることにした。


「で、晶。安田が昼休み、お前のところに用事があったそうなんだが、何か知らないか? 安田がなんで午後の授業をサボったのか、を」

「え、えっと――そうですね、確かに稔先輩は昼休み俺のところに来ました。その時俺はみずのたちと丁度昼飯食ってたとこだったんです。稔先輩が言うには、同じクラスに、えっと誰だったかな。名前は覚えてないんですけど、人探しだったみたいです」


 少し思いだすような仕草をして晶はそう言った。


「で、その後安田はどうしたんだ?」

「えぇ、俺が知らないって言ったら、何か他にアテがあるらしくて、教室を急いで出て行きましたよ。その後の事は知らないです」


 晶の言葉を聴いて、少しそのことについて考えてみる――安田が人探し。それも晶に聞いたという事は、海中の生徒なのだろうか。転校してきたばかりの安田が何の為に人探しをしていたのか。


「ん、何か変な話だよね」


 そんな時、月村が俺の方を見ながらそんな言葉を口にした。


「月村、何が変な話なんだ?」

「だってさ、晶に用事があって昼休みにわざわざ海中まで行ったんだよ? その用事が人探しなら、絶対晶が知ってるはず人間でしょ。でも晶が知らなかった、という事は何でだろうね」


 ――そういえばそうだ。確かにそういう疑問にたどり着く。
 人探しの為に、"わざわざ"海中まで行き、"わざわざ"晶に探し人について尋ねた。ということは、晶が知ってないとおかしい人間のはずだ。
 考えれば考える程頭が混乱していく。体ばかり鍛えずに、もう少し頭も鍛えておくべきだったか。

 そんな時だった。晶の口から思わぬ言葉を聴く事ができたのは。


「そういえばですね。稔先輩が帰った後、どうにも不思議なことがあったんですよ。何故か俺の買ってきたパンが一つ無くなってたんです」


 ――何?


「みずのたちには、俺のことだから食欲ありすぎて食べたの忘れたんだろう、とかからかわれましたけど」


 ――ちょっと待て。


「それはその人たちのいう通りやな。お猿のことや、食べたん忘れたんか、落としたんかどっちかやろ」

「お前は黙ってろ、カメ」


 ――それは一体どういうことだ?


「へぇ、変なことも起こるもんね」

「晶。もし落としたんだったら勿体ない事したね」


 ――偶然という可能性もある。

 馬鹿を言うな高町恭也。偶然が三度続けば、それはもはや必然だ。そんな事も理解できないのか。
 これは最後の警報だ。もはや無視できない状況だぞ。明日、学校に着いたらすぐに確かめるべきだ。もう遠慮している場合じゃない。友達だから、と甘い考えは捨てろ。










 ――安田、お前は一体何者なんだ。











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  1. 2005/06/04(土) 23:47:00|
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She led to wide-scale bloodshed -第一部- 第2話

 さて、前回この物語の主人公レイが宮廷魔術師として選ばれた経緯をお話したわけであるが、いかがでしたかな?
 語る数が少なすぎて上手く個人個人の性格を掴めなかった方もおられると思う。だが安心してもらいたい。今回は前回より多くの登場機会があろう。

 今回から、その後彼女が場内でどのように溶け込んでいくか、はたまたどのように孤立していくか、を数話に渡って語らせてもらおう。
 彼女を一目見て恋に落ちる騎士。彼女を疎んじる騎士たち。
 彼らの判断がどう彼女に影響を与えていくか、を確認して行ってもらいたい。

 では、幕をあげよう。
 Knights were accoutered in armor for battle.
 This is the feast of the Blessed Virgin.










She led to wide-scale bloodshed -第一部- 第2話











 任命式の日から一夜明けた次の日。栄えあるザール帝国水の宮廷魔術師となったレイ=ミーヤは円卓の間に居た。彼女の前には「リング12」に所属する騎士全員が集まっていた。
 彼女は誰もが見たことのない奇妙な格好をしていた。全体的に黒で統一されていて、下は女としては珍しく、裾が足首まで伸びたパンツに黒い革靴、上はどうやら下と同じく見た事のない生地で出来たモノを着ていた。その生地は光が当たると少してかりが見えた。無論誰もが見た事のないものであったが、魔術師なのだから不思議で当たり前、という認識があり、誰も彼女に尋ねようとはしなかった。

 誰もが彼女の格好と、クラスSという実力の前に言葉を発する事が出来ないで居た。そんな中、騎士たちの不甲斐なさにしびれを切らした騎士団長バート=D=シュテッケンがレイに話しかけた。


「レイ殿。まずは騎士団全体を代表して礼を言っておこう。良くぞ陛下の無理を承知してくれた」

「いや、私にも私なりの理由があってこれを受けた。だから気にする事も不要であるし、まして礼など問題外だ。違いますか? 騎士団長殿」


 レイの歯に衣着せぬ物言いに不快感を態度に表す騎士たち。そんな中、レイの言葉に感心していた人物が居た。
 もうお分かりであろう、団長のことだ。
 団長はレイの言葉に顔には出さなかったものの、内心とても感心していた。この娘、人を見抜く力を備えているのだな、と。
 その事実に少し惚けていたが、すぐに正気を取り戻し、改めてレイに話しかけた。


「なるほど。レイ殿はまだ我々全員の事を把握している訳ではなさそうだ。まぁ、だからこうして皆に集まってもらった訳であるが」

「ですね。それは貴方方にとっても利点がある。そして、私にとっても利点がある。とても合理的だ。では私から行きましょうか?」


 腕を組みながら、納得した仕草でレイが言う。その仕草にも不快を表す騎士も多く居たが、団長はそんなことには構わず、それについて了承した。


「もう知っている方もおられるだろうが、私の名前はレイ=ミーヤ。生まれは――いや、私は数年前に記憶喪失にあってな、昔のことを何も思い出せないでいる。何故か水術に関しては得意だった。理由は私にもわからない。以上だ」


 そう言って目を伏せるレイ。
 しつこいようだが、彼女の態度にまたもや不快感をあらわにする騎士たち。彼らの動向を団長は目で牽制し、各騎士一人一人に自己紹介をさせるように促した。

 騎士らしく丁寧に自己紹介する者、レイに対して不快感を隠すことなく自己紹介する者。各自一人一人、紹介の仕方は違うものの、内容だけはちゃんとしている。その辺りは流石騎士だ、と言うところなのだろうか。

 そんな風に進めている内に、一際若い騎士にバトンが渡された。
 彼は少し緊張をしているのか、額が少し光っている。団長はそのことに気づいたが、話の腰を折るのもどうか、と思いそのまま紹介させることにした。


「わ、私の名前はブルー=C=ドレイフォードです。この中でおそらく唯一レイ様より若い、えっと、まだ未熟者ではありますが、どうぞよろしくお願いします。あぁ、それと私が得意な物は剣術です。それ意外に取り得などない詰まらぬ男ですが、よ、よろしくお願いします」


 ブルーのつたない――というよりも緊張でガチガチに固まった――自己紹介に、団長は呆れを隠すことなく、体全体で表した。
 レイはどう思ったのだろうか、と視線をレイに送ってみると、まるで興味がない、と言った感じに腕を組んで目を伏せて居た。
 それに気づくことなく、ブルーはつたない自己紹介を続けている。
 誰か止めてやれ、と思ったが、それは自分の役割であることを思い出し、自分が団長であると言う事実に溜息をつきそうになった。そして、こんなつまらない理由で団長を降りる時の事を仮定してみると、それはそれで更に溜息をつきたくなる状況であった。


「ドレイフォード。その辺りでいいだろう」

「そして――あ、え? あ、はい。了解致しました」


 団長の言葉にブルーは素直に引き下がった。まぁ、この男はここで引き下がらぬような男ではない。そんな男がアレほど動揺していたのだ。少し察してやってくれないであろうか。いや、無理な相談なのだろう、これは。


「それで一通り終わったようだな。では、私はこれから予定が詰まっているのでな、これで失礼させてもらう。では、団長殿。またお会いしよう」


 レイはそう言うと、団長に対して少し頭を下げた。その仕草が意外であったのか、団長は頷き返すことしかしなかった。
 それを確認すると、レイは踵を返し、円卓の間から出て行った。
 後に残された騎士たちは、しばらく何も言葉にすることができなかった。それは団長であっても同じだった。










 暗闇が広がっている。星の光がなければとても前など見えぬ程だ。
 この辺りは工場の煙のせいで、とても空気が澄んでいる、とは言えないものの、それでも多くの星が夜空に瞬いていた。そんな星々を眺めていると、本来の目的を忘れそうになる。
 今日でもう5日目だ。そろそろ何かあってもいい頃なのだが。しかし、言葉とは裏腹に辺りは静けさが広がっている。
 ――今日もはずれかな。
 そんな事を考えていると、近くで人が歩いている気配を感じ取れた。
 その気配に少し緊張を強める。そして自らの気配を感じ取られぬよう、世界と同化した。

 ここはザール帝国の都ライオットの町外れ。ここには昔滅びた宗教――ジューダス教の教会がある。それは随分前に用途を失ったせいか、数年前まで確認できた形はもはや見る影もなくなっていた。
 そんな事情があったせいか、この辺りは昼間でも人通りが全くといっていいほど無かった場所である。ならば、そのような場所にこの人物は何の用があるのか、そしてこの男は何者なのか。
 しかし、星の光はその人物の顔までは照らしてくれなかった。背格好からおそらく男であろう、と言う事だけはわかるのであるが。

 しばらくそのままの状態でその男を観察していた。すると男は急に横道に逸れ、何をするのかと思いきや、教会の中に入っていった。
 半ば予想通りだった私は、男の後を追うように教会の中に入ってみた。すると、そこは暗闇が完全に支配した場所だった。確かに男も入っていったはずなのだが、この暗闇では男の姿はおろか、何も確認することはできなかった。
 己の失態に心の中で舌打ちをすると、手探りで壁を探し、その壁に背中を預けた。迂闊に動くのは軽率であろう――そんな判断から、しばらく様子を見ることにした。









 半刻程だったろうか、その場所で様子を見たが、何も起こらず、ただただ時が流れていくばかりであった。
 無駄足だったか、と思う自分に少し苦笑すると、今日はこのまま教会を出て行くことにした。
 ――今日も失敗か。

 うっすらと見える木々を見ると、少し風が吹いているのか、葉が少し揺れていた。夜空を見上げると、先程と何も変わらぬ星々がそこにあった。

 ――今日はもう帰っても大丈夫だろう。
 そんな時だった。
 教会の中から男の叫び声が聞こえたのは。












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  1. 2005/06/04(土) 00:11:38|
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霧城昂

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