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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第四話-

 ―4月10日―

 リスティ視点 第四話










 蛇口を捻る。出てきた水を掬い取り、それで顔を洗う。
 幾度かそれを繰り返したボクは顔をあげ、目の前にある鏡を見た。
 そこに映りこんだのは見慣れたボクの顔だった。
 ただ違うのは、前髪と顔が水で濡れているだけでなく、目元にうっすらと浮かんだ隈だった。
 それを見たボクは、一つ溜息をついた。


 ――まったく、考えすぎだ……


 昨日は寝床に着いても越野の言葉が頭に浮かび、中々眠れなかった。やっと寝付いたかと思えば一時間程度で目が覚めてしまう。
 結局、ほとんど眠れない状態で晩御飯を食べることになった。
 ボクの様子に耕介たちは心配をしていたが、彼らを巻き込む訳にもいかず、なんでもない、というしかなかった。

 鏡を見ていた視線を下に向ける。
 延々と流れ続ける水がボクの頭をクリアにさせる。


 ――越野め……やっかいな事件を回してくれたな……


 ボクを襲った犯人が言った言葉――スリップノットとは事件に関係のある話だろう。おそらく何か事件に関して重要な事、あるいはモノを指し示す名詞に他ならない。
 いや、そんなのは決まっている。その名前を聞いた時点で越野も気づいていたはずだ。


 ――考えていても仕方ないか……耕介たちが起きてくる前にこの隈をなんとかしよう。


 クリアになった思考を一旦外に追い出し、ボクは再び水をすくい、それをおもいっきり顔にたたきつけた。










「リスティ? 憂鬱そうな顔だけど、何かあったの?」


 顔をあげるとそこにはフィアッセの姿があった。
 それも当たり前だ。ここは翠屋なのだから。


「Yes。やっかいな事件に巻き込まれてね」


 胸元から煙草を出し、口にくわえる。
 愛用のジッポを取り出したところである事に気づき、ジッポをしまうことにした。


「Sorry、フィアッセ。危うく君の前で煙草を吸ってしまうところだった」

「そんなに気にしなくてもいいよ。で? 何にする? コーヒー?」


 フィアッセの気遣いに少しボクは笑みを浮かべた。


「Yes。ブラックでお願い」

「ありがとうございます♪」


 女のボクから見ても美しいと思える笑顔を浮かべながら彼女は厨房の方に向かっていく。
 昔のフィアッセはとある出来事で声が出なくなる程沈んでしまった事があると聞く。
 そんな彼女がここまで美しい笑顔を浮かべる事ができるようになったのは彼女の幼馴染にボクは感謝をする。


 ――フィリスもフィアッセも大丈夫だね。ボクみたいなのは一人だけでいい。


 顔も見た事のない彼女の幼馴染にボクは心の中で礼を言った。


 ――ま、今はそんなことよりも考えないといけないことがある。


 あの麻薬――おそらくはスリップノットと言う名のあの薬は鑑識によれば人を意識不明状態にするという。分量については聞いていないが、彼らの調べなのでまず間違いない事だと言える。
 だが、ここで一つ疑問が生まれる。
 麻薬が麻薬としてばら撒かれるという事は、そこに何らかのメリットが存在する。
 アッパー系でもダウナー系でもない効果を持つスリップノット――どこの誰がそんなものを欲しがるというのだ。
 そこから繋がる事だがもう一つ。
 犯人達と直接対峙した経験から考えて、ヤツらはその麻薬を売りさばく訳でなく、人々を襲って注入している。


 ――ヤツらの目的は人々を意識不明にさせることなのだろうか。


 そこまで考えた時、目の前に湯気の出るコーヒーが現れた。
 顔をゆっくりとあげると、そこにはフィアッセでなく男の店員が居た。


「――ご注文は以上でしょうか?」

「Thanks」

「――ごゆっくり」


 まるで店員とは思えないような無愛想な言葉を放ち、男はそこから立ち去って行った。
 男の洗練された後姿に少し感心する。


 ――確かこの男……こないだここで見た男だったな。店員だったのか。


 目の前に置かれたカップを手に取り、ゆっくりとそれを口に運ぶ。


 ――越野に一応これを報告しに行くか。


 カップを元に戻し、胸元から取り出した写真に目だけを向ける。
 そこには真新しい制服を着た女の子が写っていた。
 それを元に戻し、残っていたコーヒーを一気に煽った。舌が熱で少しぴりぴりする。
 周りを見渡すと、日曜の昼と言う事もあり、店内は客で賑わっていた。
 ボクは財布から一枚お札を抜き取ると、それを伝票と一緒に机の上に置いた。


 ――今月、厳しいんだけどねぇ。


 今まだ賑わう店内を横目で見てから、ボクは翠屋を後にした。










「なるほど――」


 ボクの報告に越野は興味のなさそうな様子で写真を机の上に放り投げる。
 それに露骨な反応をしてしまったボクの顔を見て、越野は薄く笑った。


「くく……そんな顔をするな。美人が台無しだぞ?」

「――で、ボクの報告に対して意見を聞いておきたいんだけど?」

「ん? あぁ、その写真の女が事件に巻き込まれたかもしれない、とか言う話か?」

「Yes。あくまでボクの予想だけど、あの近辺で起こっている失踪事件は全てこの事件に関わっているかもしれない」


 越野がくわえている煙草が少し揺れる。視線は写真よりも少し前の何もない机の上に向いている。
 すると越野はくわえた煙草を吹きだし、写真にぶつけた。


「そんな事よりも、お前に言っておきたい事が二つある」

「――なっ!?」

「一つ、これは昨日言い忘れた事だ。確かに俺はお前の捜査方法に何時もどおりやれ、と言った。だが、あんな危険な事はやめる事だ。次はないぞ?」


 越野はそう言いながら、ボクと視線を合わせてきた。
 ボクが何か返答しない限りその視線を放す様子はない。
 何か返答しないといけない、と少し思案を始めた時、越野は再び薄く笑うと、あっさりと視線を外してくれた。


「それと、次が重要なのだが――」


 机に捨てた煙草を持ち上げ、それの尻に指を当て、そのまま机に突き立てた。


 ――なんだろう……何時もとボクを見る目が違う?


 その目は今ボクの方に向けられている。
 だが、ボクの記憶が正しければ、この男はこんなにごった目をしていなかったはずだ。


「昨日、私立風芽丘学園に勤める沢田という英語教師が意識不明で倒れたらしい」

「―――!」

「その教師が運ばれた病院で検査結果を見せてもらったが、おそらくは例の麻薬の仕業だ」

「それは確実なのかい?」


 ボクの言葉に彼が少し視線を下げた。
 そして再びボクの顔に視線を向けた。


「カンだと言ったらどうする?」

「惚れちゃいそうになるね」

「安心しろ。俺はお前みたいな小娘はタイプじゃないんだ」


 そこまで言うと、ボクは越野と一緒に笑い始めた。
 そしてお互い笑いが静まった所で、彼の目が変わった。


「――依頼だ。風芽丘学園に潜入捜査をして欲しい」

「断る理由はないね」

「すでに学園の方には、お前が明日臨時講師としてそちらに向かう、という事を言ってある」


 ――学園関係者である可能性もある……いや、高いと見ているのか。


「報告は口頭でここまで来るように。一日一回だ。何か質問は」

「ボクの担当する教科は?」

「もちろん英語だ」

「今回の仕事の最優先事項は?」

「――麻薬流出のストップだ」

「わかった、引き受ける」

「必要資料についてはお前の家の方に送ってある。それを参考にしろ」


 その言葉に首を縦に振る。
 もうここでの用はすんだな――そう思ったボクは踵を返し、明日の用意をすることにした。
 それは、帰ろうとドアのノブに手をやった時だった。


「すまん、後もう一つ」


 そのセリフに顔だけ後ろを向ける。


「――お前……気づいていないのか?」


 その言葉の意味がわからなかった。
 一体この男は何のことについて言っているのだろうか。


「ならいいんだ、明日学園の帰りにでも報告してくれ」


 ボクは越野の言葉が少し気になったが、今聞いても教えてくれるとは思わなかったので、そのまま扉を開けて表に出て行くことにした。











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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第三話-

 ―4月9日―

 リスティ視点 第三話










 ボクの目の前を先ほどから幾人もの人間があわただしく通り抜けていく。寝不足の頭には少々この騒ぎはつらい所だ。
 結論から言おう――ボクは助けられたのだ。
 ボクと同じく寝不足のはずなのに、憎らしいほどに爽やかな笑顔を周りに振りまいているこの男に。
 そう、私立風芽丘学園生徒会長佐藤秀二の手によって。

 話は少し遡る。
 ボクは思いもよらぬミスで犯人に襲われてしまった。後から聴いた話であるが、ボクは十数分程眠らされていたようだ。
 事件はその空白の十数分の間に解決していた。
 どうやら偶然ボクが襲われている所を通りかかった彼が犯人たちを撃退し、警察に通報したとの事だ。









 ――ん……


 頬が叩かれている。


 ――さっき寝たばかりなんだ……もう少し寝かせてくれても……


 眠る前の出来事を思い出す。
 その瞬間、ボクの意識は一瞬で覚醒した。


「あ、気がつきましたか? お姉さん」


 目を開けて最初に飛び込んできたのは男の顔だった。
 見た所高校生くらいだろうか。逆さに見えたその顔は、誰が見ても爽やかと取れる笑みを浮かべている。
 状況が良くわからない。
 ボクは犯人たちに捕まったのではなかったのだろうか。
 ゆっくりと身を起こし、辺りを見回すと、どうやらここは先ほどと同じ場所のようだった。ボクは道の端に寝かされていて、すぐ隣に男たちが倒れていた。男たちは二人で、片方は先ほど見た美形の男だった。
 一通り辺りの状況を把握した所でボクは振り返り、背後でしゃがみこんでこちらを見ている男に視線を合わせた。


「で、君は誰だ?」

「あぁ、私はそこに倒れている悪漢から貴方を助け出したナイトですよ」


 男は自分が紳士であるかのような振る舞いと共に、歯の浮くようなセリフを言った。何気に似合っている辺り恐ろしい。
 ま、確かにピンチだったんだ。助けてくれた事に対しては素直に礼を言っておこう。


「Thanks。助かったよ。結構危なかった」

「いえいえ」










 数分後、その場所にパトカーがやってきた。どうやら、ボクが倒れている間に通報してくれたらしい。
 そして朝方まで事情聴取やらで今に至る、と言う訳だ。


「そういえば、お姉さん」

「――なんだ?」


 自分でもはっきりとわかるような不機嫌な声で応答する。


「いえ、何でもないです」

「―――」


 何でボクはこんなヤツなんかに助けられたんだ――そう思った時、ある一つの疑問がボクの中に浮かび上がった。


 ――何でボクは、待ち伏せに気がつかなかったんだ?


 考えてみれば妙だ。
 確かに目の前の男一人に気を取られていた。それは認める。だが、それでもボクが気がつかない訳がない。
 何故ならピアスを外していたのだから。

 その時、背筋に薄ら寒いものを感じた。
 だってそうではないか。百歩譲ってボクの思念読みを回避できる術があったとしよう。すると今度は別の問題が生じる。
 私を先導した男は思念を読めたんだ。と言う事は、ボクをHGSと知った上で襲った、と言う事にはならないか?

 雑音に混じって鼓動の音が聞こえてくる。それは考えれば考える程、速まっていくのを感じる。少し酸素が足らない気もする。
 隣の男の感じ取られぬようにボクは呼吸を整えていると、待ちに待った扉がゆっくりと開かれた。
 扉からは何度か会った事のある刑事と、越野警視長が出てきた。彼らは一言二言こちらには聞こえない言葉を交わすと、刑事はボクたちとは逆の方向に歩いていった。
 警視長様自ら話さねばならない事が起きたのだろうか。


 ――杞憂だったらいいんだけどね。


 越野は無表情でこちらに歩いてくる。彼は無表情の時こそ、何か大事な事を考えていると言う事をボクは知っている。
 犯人たちから何か重要なことを聴けたのだろうか。
 彼はボクたちの前まで来ると、座っているボクに目線を一度合わせると、隣の男に向き直った。


「――確か、佐藤くんだったな。今回はそっちの不良娘を助けてくれたそうで、それも含めて協力感謝する」


 越野はそういいながら右手を出し、二人は握手を交わした。
 その後、幾つか質問に答えると、佐藤と言う男は帰っていった。
 そして彼に新たな事実を聞こうとしたが、どうやら今から話すことは漏れてはまずい話らしく、一路越野本部長の部屋へ向かうこととなった。途中、一見堅物そうに見える彼の口から恋愛についての話が出てきた時は驚いた。だが、それは彼なりの心遣いなのだなと気づき、心の中で一つ感謝の言葉を言った。
 そして、目的の場所にたどり着いた。


「スリップノット?」


 そう問い返したボクの言葉に、越野警視長は椅子に深くもたれながらゆっくりと頷いた。
 突然彼の口から出てきた言葉に、ボクはオウム返しのように問いかける事しかできなかった。
 それはこの場所でそのような言葉を聴かされるとは思ってもいなかったからだ。


 ――スリップノット。
 和訳すると、引き結びという一方を引けば片方が解けると言う結び方の一つであるが、ボクたち警察関係者の中ではもっと馴染み深いモノで表すことができる。
 それは、ロープで作ったほどけないリングにロープを通して大きな輪を作り、ロープの端を引っ張ると、その大きな輪が縮まる、と言った風に使用されるモノなのであるが、問題はこれがどんな場面で使われるかだ。
 心して聞いて欲しい。
 どんな場面で使われるか、それは――絞首刑だ。
 ボクにはこの先を言葉にする事ができないが、だからこそ聞き返さずにはいられなかった。


「それが犯人の口から出てきた言葉だ」

「―――ッ!」


 再び彼の言葉に驚かされる。今度は言葉を発することすらできなかった程だ。


「さして重要視すべき事ではないのかもしれないが――俺のカンはそうは告げていないのでな」

「それはつまり――」

「そういう事だ」


 こういう時、改めて目の前の男を恐ろしいと感じてしまう。彼の負の方向に向けられたカンは否応なしに当たるのだ。
 ボクは渋面にならないように精一杯無表情を作り、踵を返した。もう彼から聞く必要はない。
 扉を開こうとした時、背後から椅子の軋む音と共に彼の声が聞こえてきた。


「そうだ。鑑識のヤツらが昨日の薬物の件で話しておきたいことがあるそうだ。この後行ってみるといい」

「――Thanks」


 ボクにいえる言葉はその一言だけだった。









 鑑識課に着くとそこには男が一人椅子に座っていた。男はボクに気づくと立ち上がり、机の上においていた紙を手に取りこちらに歩いてきた。


「リスティさん。いらっしゃい」

「あぁ、それで何か話しておきたいことがあるんだって?」

「えぇ、これを見てください」


 目の前に差し出された紙を掴む。
 そこにはこないだの麻薬の効能について詳しく記されていた。


「――意識不明?」

「えぇ、流石に実験はできませんが、計算上ほぼ確実にそうなるはずです」


 低く通るようなその声に、ボクは少し顔をしかめる。


「そんな麻薬を作って、何か利点でもあるのか?」

「知りませんよ。私が作った訳じゃないんですから。でもまぁ、これは麻薬と称するのもどうかとは思いますけどね」


 出されてきた資料に少し負に落ちない感じはしたが、ここでそれをとやかく言っても仕方ない。
 そう思ったボクは取りあえずその結果を信じておくことにした。


「リスティさんはこれから家に帰って爆睡ですか?」

「Yes。どうにも眠くてね。こんな状態じゃロクに捜査できやしない」


 男の言葉で場が少し明るくなる。それにボクは心の中で少し感謝をし、愛する我が家へと帰宅することにした。


「じゃあボクは帰ることにするよ」

「えぇ、お大事に」


 持っていた資料を男に返し、部屋を出ようと後ろを振り向いた時だった。


 ――ん?


 何故かその時、強烈な違和感を覚えた。
 何かがおかしい――そんな違和感。
 視線の先には何故か扉の前にかけられた一枚の鏡がある。鏡には何時もより目元が細くなっている自分の姿が映し出されていた。


 ――何かが違う……


 鏡で映し出されたそれは眠気のせいで目つきが悪くなっている事以外、どこも違ったところはないはずだった。
 だが、どこかが違う。


「リスティさん? 大丈夫ですか?」

「い、いや……何でもないんだ」


 男の言葉にそう返したものの、違和感が消えた訳ではなかった。
 しかし、このままこうしている訳にもいかない、というのも事実だった。
 結局ボクはその違和感を無視し、鑑識課を出て行くのだった。


 ――この違和感に気づくのは、もう少し後の話になる。











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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第二話-

 ―4月8日―

 リスティ視点 第ニ話










 耕介お手製のスクランブルエッグに手を伸ばす――うん、美味しい。もしかすると今日は会心の出来なのではないだろうか。
 そう思い、耕介の方に視線を送ると自信満々の笑みが返ってきた。予想通り会心の出来だったのだ。

 再びスクランブルエッグに手をつけながら、昨日の越野警視長の言葉を思い出す。昨日の彼との会話で一番ボクが気になっているのはやはり麻薬の存在だ。
 あの時点で彼が麻薬のことについて何も喋らなかったのは、アレが未知の存在だったからだ。それは鑑識科でも半日かけて効能を解析できなかった事から見ても明らかだ。
 そして、あの後事件についての調書を当たってみた。するとその内容は麻薬を覗けば、一見なんの変哲もない誘拐事件だったのだ。
 その内容と言うのはこうだ。


 ――四月六日二十時頃、三丁目付近で誘拐未遂事件が発生。被害者は鹿島陽子。私立風芽丘学園に通う二年生の女生徒。彼女が何時ものようにクラブ活動を終え、帰宅の途中にその事件が起こる。犯人の背格好は彼女の証言によると、身長百七十センチ前後で、坊主頭。全身を黒い色の服装で覆われていた為、近くに来るまで全く気がつかなかったらしい。未遂に終わったのは、事件が発生してからすぐに駆けつけた男の力を借りて撃退した為。男の名前は佐藤秀二。同校の三年で生徒会長を務める男子生徒。通報者も同人物だった。その際、犯人の持ち物と思われる遺留品を発見。ビニール袋に包まれた白い粉状の物質だった。


 コップになみなみ注がれた牛乳をゆっくりと持ち上げ、半分になるまで一気飲みをする。すると、頭の痛みが少し和らげられたような気がした。少し考えすぎだという事なのだろうか。
 椅子を引く音がしたので周りを見ると、学生達はすでに食事を済ませており、学校に向かおうと席から立ち上がるところだった。
 学生達に一言何か言って置こうと思ったが、それはボクのキャラじゃないような気がしたのでやめておくことにする。


「みんな急ぐのもいいけど、気をつけていけよ」


 ボクの思っていたことを耕介が一言で言ってくれた。これも予想通りだったので口を挟むつもりは毛頭なかった。
 トーストを一口かじる。


 ――彼らの証言をボク自身で聞いておいた方がいいのかもしれない。


 少し気になる。
 おそらくは今回が初犯ではないだろう。と言う事は、それまで誰にもばれずに犯行を重ねていたことになる。
 今日は署で関連のありそうな事件を片っ端から調べることになりそうだ。署内にある膨大なデータベースを想像すると、それだけで再び頭が痛くなってくる。
 依頼を受けた以上、きっちりとこなすがボクの信条だ。
 最後の一切れを口に放り込むと、少しでも時間を無駄にはしていられない、と椅子を蹴るように立ち上がった。


「耕介。今日は少し遅くなりそうだから昼食と夕食はいらないよ」

「わかった。リスティも無茶せずに気をつけろよ。お前も女の子なんだから」


 臆面も無くそういう事を言う耕介に少し戸惑う。
 茶化されたままではボクのプライドが許さないので少し反撃をしておく事にした。


「そんなことだから耕介はその年になって彼女のひとりもできないんだ」


 洗い物でかちゃかちゃしてた音が一際大きくなった。見ると耕介が大きな図体を折り曲げて肩を少し震わせていた。


 ――ボクをからかうからそうなるんだ。


 その姿に満足したボクはキッチンを後にするのだった。










 行方不明者と言う文字に矢印を合わせ、カチカチとダブルクリックをする。すると画面には幾人かの名前とプロフィール等が画面に表示された。
 それらの名前をボクは一人一人チェックしていく。ボクの予測が正しければ何か手がかりを見つけることができるはずだ。
 丁度真ん中まで見終わった所で、左手でゆっくりと前髪をかきあげる。これはもしかするとビンゴなのかもしれない――そう思うと残りをゆっくりと読む気になれず、一箇所だけ注目しながら残りにとりかかった。

 最後まで見終わったところで、不謹慎とは思いながらもボクは画面に向かって笑みを浮かべる。やはりボクの予測通りだったのだ。
 となれば今日の夜、さっそく行動に移さねばなるまい。何時ものようにやればおそらくは大丈夫だろう。そのことについては何も心配はない。だけどボクが今一番考えなければならない事は別にあった。


 ――さて、夜までどこで時間を潰そうかな。










 気がつくとボクはここに足を進めていた。まるで日課のように。その事実にボクは苦笑しながらも認めてしまっている自分に気がつく。
 そこは商店街にある評判の店――翠屋だった。
 ここへは学生の頃からちょくちょく訪れている。若い奥さんの作るデザートはまさに絶品。近所の女学生の支持を大変に受けている評判の店なのだ。
 ここへ来ている理由は味が気に入っているだけではない。知り合いがウェイトレスとして働いているからだ。名前はフィアッセ・クリステラ。実のところ彼女はこんな所で働いていられるような人間ではない。名前が知られていないからこそ働けるものの、彼女は世界的に有名な歌手を親に持つ娘なのだ。

 ボクは扉に手をかけ、ゆっくりとそれを引いた。カランカランと言う小気味いい音と共にゆっくりとそれは開かれていく。
 それに気づいた金髪のウェイトレス――フィアッセ・クリステラが何時もの優しい声をかけてくれた。


「いらっしゃいませ――って、リスティ今日も来たんだね。お仕事の方大丈夫なの?」

「Hi、フィアッセ。今日も何時も通り休憩さ」


 周りを見回してみると、今日の客の量はそうでもないようだ。土曜日の昼過ぎなのだから学校帰りの子たちで溢れかえっていてもおかしくないはずなのに、客と言えば隅のテーブルに三人見かけるくらいだ。
 そういえば最近は学校も週休二日制になったんだったかな。


「フィアッセ、ホットお願い」


 そういうとフィアッセは承知と言わんばかりの笑顔をして、裏に引っ込んでいった。環境のせいか、フィアッセはよく笑うようになった。いい傾向だ。
 ボクは店内がよく見渡せる席に座る事にした。この位置からは彼らの姿もよく見える。見た感じどうやら学生のような風貌だ。この当たりで学生と言うと風芽丘の学生だろうか。もしかすると生徒会長とやらをよく知る子たちかもしれない――いや、それは考え過ぎか。
 彼らの顔を見て少し既知感を覚える。茶髪の男の子はともかく、向かいに座っている黒髪の男の子と女の子はどこかで見た事があったろうか。
 丁度そんなことを考えている時に、フィアッセがコーヒーを持って現れた。


「はい、リスティ」

「Thanks」


 コーヒーを一口すする――うん、美味しい。
 フィアッセが中々離れないので、彼女の方に視線を上げる。


「――ん、どうした?」

「いや、珍しくリスティが他人を気にかけてたから」


 そう言われて初めて自分がコーヒーを飲みながら彼らを眺めていたことに気がついた。


「あぁ……どこかで彼らを見た事があったんだけど、それが思い出せなくてね。いやいや、年は取りたくない」

「それはそうだよ。あの黒髪の男の子と女の子は桃子の子どもだもん」


 桃子と言うと、確かこの喫茶店のマスターだったかな。それじゃ見た事がある訳だ。でも今はそれよりも。


「フィアッセ。答えを教えてくれたのは嬉しいけど、後半のセリフを少しは否定して欲しかったんだけどね」

「フフ。リスティには少し危機感を持って欲しくて、つい。リスティ美人さんなのに浮いた話が一つも聞こえてこないんだもん。フィリスじゃなくても心配するよ」


 悪戯っぽい笑顔から聞き捨てならない言葉が飛び出してきた。


「何? フィリスのヤツがそんなことを言ってたのか? ボクに言わせてみりゃ逆だ、逆。顔こそボクと同じ美形だが、スタイルが全然駄目じゃないか。それにボクは彼氏ができないんじゃない。作ってないだけだよ」

「……ハハ、相変わらずフィリスには厳しいんだね」

「姉の優しい心使いと言うヤツだ」











 もうすっかり暗くなった路地を一人歩く。月明かりと街灯の明かりだけがボクを照らしている。
 ボクの予想だと、大体この時間にこの場所を歩いていれば何らかの手がかりが得られるはずだ。操作に乗り出した今日さっそく事件が起こるというのは期待していないが、毎日続けていればいずれその場面に遭遇するはず。

 さて、一体ボクは何故この場所にいるのかと言うと、今日署内で見つけた手がかりがこれに起因している。その手がかりと言うのが、行方不明者のプロフィールだ。そして重要なのが彼らの住所だ。
 彼らの住所は海鳴にあるものの、同じ町内の者もいるが基本的にはバラバラになっている。だが、彼ら行方不明者は皆帰宅途中に必ずこの場所を通過するのだ。誰一人例外なくここを通らねば家へと帰れない。ここはそのような場所だった。


 ――さて、じっとしていても怪しまれる。この辺りを適当に歩いてみるか。


 そう思った時だった。


「お! お姉さんこんな所で何してるの?」


 後ろから少し浮かれ気味の声が聞こえてきた。声の届き方から少し距離が離れていることがわかったボクはゆっくりと――彼らがそうしたように――後ろを振り返った。
 そこにはボクと同じか、少し年上くらいの風貌をした美形の男が立っていた。その男はこの場に似つかわしくない爽やかな顔をしながらこちらに近づいてくる――これはもしかするとビンゴかな?


「お姉さん、一人でこんな所を歩いてると危ないよ? 家どこだい? 俺が送っていってあげよう」


 予めピアスを外していたボクには彼の本音が手に取るようにわかった。


(くく、こんな所にまたカモが居たよ。今回は前と違ってすっげぇ美人だし、ヤク打つ前にちょっと楽しませてもらってもバチは当たらねぇだろ)


 そんなつまらない感情に心の中で舌を打つ――所詮人間なんてこんなモノか。耕介たちが特別なんだろう。
 そう思いつつ、ボクは少し猫を被ってみる。


「あら、そうですね。私も少し怖いと思ってたところなんです。でも貴方のような素敵な男性がいれば安心ですね。申し訳ないですが、すぐそこまでなので送ってもらってよろしいでしょうか?」


 左頬に手を添えながらそんな嘘を言ってみた。この時少し舌を見ながら伏せた目元がポイントだ。


「いや、元よりそのつもりさ。俺は君のような困った人をほっとける性質じゃなくてね」


 男はボクの肩に手をやりながら口元を少しほころばせて言った。


(ケ、この女馬鹿だぜ。よく今まで誰にも拉致されてなかったよな。ま、その方が俺にとっちゃ好都合だがな)


 全く持ってその通りだと思う。こんな軽々しくOKを出す女等、馬鹿とした言いようが無い。
 男は私の腰に手を回し、ゆっくりと歩き始めた。仕方なくボクは男と一緒に歩く格好となる――早く終わらせる為にも、もう少し積極的に誘ってみた方がいいな。
 そう思ったボクは男の身体にゆっくりともたれる。


「あ、すいません。夜道が少し怖いもので……」

「ああ、いいよいいよ。怖いならそのままでいいから。さぁ、行こう」


 腰に回された手はそのままに歩き続ける。


(うお、こりゃいいぜ。この姉ちゃん、乳でけぇ)


 腰に当てられた手が少しずつ下の方に下がっていく。


「あ……その……えっと……」

「ふふ、どうしたんだい?」


 男は爽やかな笑顔をそのままに手をゆっくりと動かしている。この状況で猫を被り続けているボクもボクだが、こいつもこいつで中々に凄いのではないだろうか。
 顎を男に持ち上げられる。自然とコイツと見詰め合う格好となる。


(おお! こりゃ俺一人だけでも行けんじゃねぇか!? だが、もう予定の場所に着いちまったな。しゃあねぇや)


 ――え?


 その時、口をタオルか何かで塞がれた。


「ん!? んん!!」

「ハハハ。何言ってんのかわからねぇよ」


 ――まずい、タオルに何かが仕込まれてる……読み違えた……


 ありったけの力を込めて男から離れようとする。だが前でボクを抱きしめてる男だけじゃなく、背後からも口を押さえられている。ボクの力だけじゃとても脱出できない。


 ――クッ……クソ!


「ヒャハハ、次目覚める時をお楽しみにな」











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