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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第十話-

 ―4月13日―

 リスティ視点 第十話












 ボクの言葉に、恭也は絶句したような顔を見せる。
 この一見突拍子もない質問には実は裏が隠されている。表面的の意味の答えなどボクは期待していない。彼がその裏を読み取れるかどうかを確かめておきたかっただけだ。
 ここで問題外なのはボクの言葉に取り乱すこと。大事な場面を読み取れず心の制御ができない人間など連れて行くことはできないからだ。

 恭也はボクが見た限り、あまり表情を変えない男だ。つまり、そうする必要のあった人生を送ってきた男なのだ。そういう男に対して、このボクの心配は杞憂なのであろう。
 事実、恭也は落ち着いた姿でボクの問いを考えている。ここまで考えていると言うことは裏があるのかどうか、を考えているのだろう。


 ――合格だね。


 この後、恭也がどんな答えを出そうとボクには余り興味はない。ここまでの一連の彼の動作で知りたいことが全てわかってしまったからだ。
 この場の恭也に興味を失ったボクは、視線を少し斜め上に向ける。そこには桜の木が植わっていた。五部咲きと言ったところだろうか。今年も桜の季節がやってきた事に、少し心が安らぐ。

 これが終わったら、恭也を花見にでも誘ってみよう。さざなみの皆がビックリするかもしれないけどね。ハハ、真雪にからかわれるね。


「ふふ」


 いつの間にか考えにふけり、顔にまで出てしまっていたことに驚く。恭也の方に視線を戻すと、まだ彼は少し下を向き、考えにふけっているところだった。
 その事実に内心ほっとする。少し調子にのりすぎたようだね、とボクは先ほどの失態に反省することにした。恭也をテストしていたはずの項目を自分が守れないようでは話にならない。
 しかし、これは少し時間がかかりすぎではないだろうか。悩むのもいいが決断する気を逃すようでは話にならない。彼がそのような過ちを犯す前に、回答を促すことにした。


「あんまり時間もないから、さっさと答えてくれないか?」


 すると恭也は少し驚くような顔を見せた後、何時もの仏頂面に戻った。


「人を殺めたことはありません……一度も」


 そう何時もよりも真剣な声で彼はそう言った。ボクはその回答によりも彼の声質に聞き惚れていた。何故だかわからないが、彼のその答えが彼にとって何か尊いものであるかのように感じた。
 やはり、彼を選んだ事は間違いではなかったのだ。


「そうか。わかった」


 知りたいことは全て知り、この場にいる事は不要となった。おそらくそろそろ予鈴の鳴る時間だ。あまり悠長にはしていられない。
 ボクは彼に背を向け、この場を立ち去る事にした。


「まき……リスティさん?」


 当然のように彼が何事かと問いかけてくる。今、間違えそうになったのは少し減点かな。


「そろそろ予鈴が鳴る。君も教室に戻った方がいい」


 これも当然のように、何時ものボクとは違う教師の仮面をかぶってそう忠告した。
 そんな自分の行動に、ボクらしくないとわかってるんだけどね、とつまらない事を考えてしまった。


 ――あ、言い忘れてたね。


 数歩ほど歩いたところで、言い忘れていた事に気づき、肩越しに彼に話しかけることにした。


「あぁ、作戦については明日話すから放課後残っておくように。いいね?」

「は、はい……」


 そんな間の抜けた声は彼のイメージとは程遠いものだった。










 今日一日の学校での出来事はと言うと、朝の恭也との一件以外は何時もより平穏な一日だった。昨日みたいに誰かがさらわれると言う訳でもなく、おとといのように誰かが意識不明になるという訳でもなかった。
 ボクとしてはすでに証拠は出揃い、後は踏み込むだけなので何も起きてくれない方が助かる。後は佐藤に気づかれないように行動を起こすだけだ。気づかれたら間違いなく面倒ごとが起こる。それだけは避けておきたいことだ。

 ポケットから愛用のジッポを取り出す。口に加えた煙草に火をつけようとするが中々点火してくれない。
 オイルが切れたんだろうか、と思うが手元に予備は無かったので諦めずに火をつけようとする。都合十数回後、無事タバコに火をつけることができた。これだけのことで凄く嬉しい気分になるのはボクが本物の煙草飲みの証なのだろう。


 ――こいつがないとどうも駄目だ。


 煙草がないと、どうも自分の思考が上手く回ってくれない。ボクの中で何かを考える時には煙草は必要不可欠な存在になっている。つまり、煙草を吸っている時はボクが何かを考えている時が多いのだが、今回もその時だった。

 職員室の自分の席に深々と座り、ボクことリスティ槙原は事件の事について頭をめぐらせていた。正しくは、昨日さらわれた生徒、月村忍についてだ。
 あの子を守ることができなかったのはボクの失態だ。彼女に同情している訳ではない。ボクの心が壊れていようが何だろうが、ボクがいながらさらわれたと言う事実に腹を立てているからだ。


「教師としては失格なんだろうけどねぇ……」


 彼女は恐らく無事ではないだろう。状況から言って、意識不明事件と誘拐事件は犯人が一致しているはず。以前に意識不明となった彼女たちと同様に月村忍もまた、意識不明となって発見される可能性が高い。
 だが、もう一つの可能性も残されている。
 二つの事件が同じ犯人による手のものだとしたら、何故二つに分ける必要があったのか、だ。可能性はいくつか挙げられるが、ボクが予測した結果は襲われた二つの事件の被害者にそれぞれなんらかの共通項があったか、もしくは二つの事件では彼らの用途が違う、という二点。
 おそらく、ボクが後者だと予測している。今までかなりの数の人が誘拐されている。となるとそれだけの数を監禁、もしくは軟禁しておくのは至難の事だ。ということは、つまり――


 ――Yes……すでに殺されてしまっている可能性が高い。


 この状況でボクが予測する最良の結果は、月村忍がなんらかの理由でさらわれ、いまだその役割を果たしておらず、監禁されている、という状況だ。
 幾らボクだって人死にが見たいわけではない。生きていることに越した事はないのだ。それに何より、その方が喜ぶだろうから。
 その瞬間、自分のどこかがゆれたような感じがした。それが何だったのかわからない。その違和感はすぐ消えてしまった。
 自分の中で何かが変わり始めているのだろうか、と首をかしげ、短くなった煙草を灰皿に押し付けるのだった。











 やはり今日も越野の部屋の前に立つ。一日一回の口頭での報告とはいえ、何度もここを訪れるのはやはり気が重い。できればあまり絡みたくない相手なのだ。
 しかし、そうは言っていられない。ボクにとっても越野にとってもこれは利害の一致する大事な作業なのだ。
 何時もより大きく見える扉にため息をつき、半ば諦めがちな感じでボクは扉を開くのだった。
 扉を開けると、大きな体を目いっぱい椅子にもたれかけ、紙の束を眺めている部屋の主を見て取ることができた。


「お前か、そこでちょっと待ってろ」


 越野はこちらを全く見ずに、ボクであることを言い当てた。一見凄い事のように思えるがそうでもない。この部屋を訪れる人物が極端に少なければ言い当てる対象もまた少ないのだ。
 この部屋の独特の雰囲気が好きな人間はボクの知るところ、まず皆無と言っていい。張本人である目の前にふんぞり返っている男を除いた話だが。
 当の越野はなにやら真剣な顔で紙の束を眺めている。これはボクがこの部屋に来る随分前から読んでいるのだろう。見た感じ数十枚以上ある紙の束が越野の目の前に積まれている。
 一体、何が書かれているのだろうか、と思うが、ボクが勝手に見てもいい資料かどうかわからない。それ故に机の上においてある紙の束に手を伸ばす事はできなかった。
 だからこそ、ボクは彼にその内容を尋ねるのだった。


「なんだい? その紙の束は」

「――ん……近々署内のLANを新しく組み直そうという動きがあってな。それに関する資料だよ。まったく、頭の悪い作業だ」


 越野は本当に嫌だ、と顔をしかめながらそう言った。越野の言おうとしていることは何となくわかる。要は情報化の進む昨今、新しいLANを構築するのは結構な事だが、それよりもまず、この紙媒体の報告書がそれに矛盾している、と言いたいのだ。
 越野の考えにはボクも概ね同意である。上に座る頭の固い連中のせいで完全な情報化が一向に進んでいないのだ。


「随分とつまらなそうだね」

「当たり前なことを聞くな。お前らしくもない」

「Sorry。確かにボクらしくないね」


 そんな些細な会話も今の彼にとっては不機嫌になる要素の一つなのだろう。
 だが、そんな事で時間を潰すほどボクは暇な訳でもない。彼が聞いているにしろ、聞いていないにしろ話を進めることにした。


「そんな事より、報告させてもらうよ。ボクも余り暇ではないのでね」

「言いたい事はわかってる。強制捜査の事だろ? そこにおいてある封筒を持っていけ。令状だ」

「――おいおい。そんな軽々しく扱っていいのかい?」

「どちらにしろ、結果は一緒だ。やることもその後も結果も変わらない」


 あまり関心のなさそうな越野に、一発拳を叩き込んでやろうか、とも思ったが、この男に素手で勝てる訳がない。それは諦める事にした。


「そうか。じゃあ、ありがたくもらっていくよ。明日の夕方行って来るよ」

「あぁ。それくらいの時間に人も回しておくから安心しろ」


 最後まで紙から目を離さなかった越野は最後まで関心のなさそうな声でそう言った。
 本当にあの紙はそんな内容だったのだろうか、そんな事を考えてしまいそうになるくらい越野の目は真剣だった。
 扉を後ろ手に閉めた後も扉の前でボクはじっと立ち止まり、その事を考えざるを得なかった。












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霧城昂

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