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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 第九話-

 ―4月14日―











 目を開く。視界に見慣れた天井が映る――何時も通りだ。
 ゆっくりと体を起こす。静かで、薄暗い部屋が視界に映る――何時も通りだ。
 頭が少し惚けている。少し睡眠が足らなかったようだ――これも何時も通りだ。
 何時も通りの朝を迎えられた事に内心驚きを隠せないでいる。今日ばかりは何か緊張のようなもので支配されるような、そんな人間らしい出来事に少し期待していたのだ。実際そんな事になったら本当に困りものだが、それでも期待してしまう自分がいた。しかし、何時も通りである事は良い事なのだ。


 ――ま、俺は少々変わり者だろうからな。


 うちの家族の面々を見る限り、俺はまだまともな部類と言えよう。彼女らには悪い気はするが男には引けない一線と言うものがある。そんな事を心の中で考えていた。
 先ほどまで寝ていた布団を片そうと、たたむことにした。この心地よい重さもまた何時も通りなのだ。
 外からうっすらと聞こえる小鳥の鳴き声もまた何時も通りで、この出来事もまたなんでもない一日の出来事なのだ、と暗に訴えかけているようで、俺は少し嫌な気分になった。
 無論そんなのは気のせいだと俺は考える。じくりと痛む膝に手をやる。今日ばかりはこれを気にしている暇はないのかもしれない。リスティさんの雰囲気を見る限り、そういう最悪の事態も想像しておかねばらない。


 ――そろそろ美由希が起きてくるな。


 何時も通りに朝を何時も通りに過ごし、家族に心配をかけないようにする。それが今朝のこの俺の仕事だ。装備一式を身に着けながら、そう俺は考える。
 廊下を歩く音が聞こえる――よし……これも何時も通りだ。









「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 今日はかーさんより早く家を出る。少し怪しまれると思ったが、それは俺の考えすぎだったようだ。他の皆も特に怪訝な顔は一切なかった。
 懐に納めた獲物に手をやる。何時もは存在しないはずのそれは異質で、俺の心にわずかな闇を宿らせる。何時も歩いているこの通学路が何か別のものに感じる。おそらくはただの心境の違いなのであろうが。


 ――少し……いや……


 何時もと違うのは懐にあるものだけではない。この俺の心境――そして、この高鳴る胸の鼓動だ。
 どういう状況かはわからないが、およそ実戦と言う状況に出会うのはこれが初めてだ。旅に出ていた頃は何度も組手を行った。死ぬと思った事も何度もあった。だが、それは俺の思い違いだったのかもしれない。
 何時もより車の少ない通りに沿って歩く。遅咲きの桜もそろそろ散る頃だ。
 そういうつまらないことが、本当に俺の中で大切なことだと思えてくる。何が俺をそう変えてしまったのだろうか。


 ――答えなんて最初から出てるじゃないか……


 俺は罪を犯した。
 守ると決めた日常を守ることができなかった。
 月村を守ることができなかった。
 だから、月村が無事かもしれない、というこのチャンスを逃すつもりはない。リスティさんには感謝しなければならない。再びプライドを守れる機会を与えてくれたのだから。

 校門が見えてきた。そこで俺は立ち止まった。何か特別な事があった訳ではない。何時もより人通りの少ないせいか、校門に体を預けているその人を遠目からでも判別することができたからだ。
 その人は俺が近づくと顔を上げ、こちらに視線を合わせた。彼女は薄く笑みを浮かべた。まるでこれから起こる事が何時もと変わらぬ日常なのだ、と言わんばかりの笑顔だった。
 俺は再び足を前に進め、彼女の方へゆっくりと歩いていった。


「意外と落ち着いた顔をしてるんだね」


 少しおどけた様子でリスティさんはそう言った。その肩を竦める様がなんとも彼女に似合っていて、彼女に対する印象が少し変わった。
 俺はそんな彼女に肩を竦め、返した。自分では落ち着いている訳ではない事がわかっていた。だから、今更それに感づかれるのも面白くない。だから精一杯彼女の言葉どおりに合わせる事にしたのだ。


「さて、どうでしょう」


 俺は嘘をつく訳でもなく、そんな曖昧な言葉で返した。冗談と嘘はまったく別のものだ。
 彼女は表情を変えず、加えていたタバコを灰皿でもみ消した。


「ボクは次の授業があるから戻るよ。君もそろそろ戻ったほうがいい。なに、私は教師だからね」


 そんな教師らしい言葉を残すと、校舎の方へと歩いていった。
 鞄の中の八景が俺に語りかける。それは錯覚なのだろうけれど、俺にはちゃんと聞こえた。それが余計に俺に決心を固めさせる。
 よくよく考えてみれば、彼女は最初から最後まで教師の態度で俺に接してきた。最後まで今日のことは何も言わず――


 ――きっと、リスティさんも同じなのだろう。


 天は青く澄み切っていて、流れる風は爽やかな気持ちにさせてくれる。増えてきた登校仲間の雑踏の中、俺は一人校門に立ち尽くす。










 教室に入ってみると、いつも俺が見る光景とは少し違い、クラスメイトの数がいつもの半分くらいだった。どうしたのだろう、と一瞬考えたがすぐに思い直す。今日はいつもより早い時間に来ていたのだ。当たり前のことだった。
 騒ぐクラスメイトたちを横目に俺は自分の席に向かう。赤星の姿を捕らえる事ができなかった――朝練でもしているのだろうか。
 聞こえてくる喧騒は少し思考の邪魔になったが、今は授業外。自分の都合でそんな事をする訳にはいかなかった。
 教壇を横切る。教壇の上には出席簿が置かれている。少しそれが気になった。俺はクラスの皆が会話に集中していて、俺に気づいていない事を確認すると、その出席簿を開いてみた。
 すると、何故か空欄であるはずの場所に丸が書かれている。誰の仕業かは自明の理だ。リスティさんの優しさに微笑みながら、俺はその出席簿を閉じた。
 窓際のその席は今日も空席で、西日の差し込むこの部屋中で一番輝いて見えた。それが少し悲しい気持ちにさせるのは、俺の負うべき罪であるだろう。そんなことを考えながら、俺は席についた。










 いつもより早く時間が過ぎた気がした。
 日は傾き、教室にいる人の数もまばらになってきている。赤星は授業終了後、いつものように部活へ向かった。だから、周りにいる数人のクラスメイトとはあまり交流がなく、彼らと会話をすることも無かった。
 いつもすぐ帰る俺が教室にいる事を最初は怪訝に思っていたようだが、今では慣れてしまい、俺を気にする事なく皆それぞれの作業を行っている。まだしばらくは一人になる事はできそうにも無かった。

 教室は赤く染まり、俺とは無縁な幻想的な景色を見せてくれていた。席を立ち、窓際に近づいてみる。グラウンドでは運動部が必死に練習を行っていた。トラックを走り続けているのはおそらく新入部員たちであろう。まだまだ彼らは基礎練習を積まなければいけない時期だ。
 彼らを見ていると、美由希の事を思い出す。美由希が年相応の子たちと同様にクラブに入れないことを少しすまなく思う。友達と一緒に遊びたいだろうと、朝はもう少し寝ていたいだろうと、俺は美由希の生き方をせばめている気がしてならない。
 しかし、それは美由希が決めた道。俺がどうこう言う資格もつもりも無かった。せめて、美由希が俺のようにならないように、俺より強くなるように常に考えていくことが兄としてできる最低限の優しさだった。


「恭也。準備できたかい」


 背後から聞こえてきた独特の声に振り返る。扉のところにはリスティさんが立っていて、いつの間にか教室にいたクラスメイトたちは誰もいなくなっていた。少し、考えにふけり過ぎていたようだ。


「準備なら朝からできてますよ」

「そうか。今日は頼むよ。応援もいるけど、基本的には君がボクの護衛だからね」

「――わかりました」


 自然と腕に力が入る。すでに鞄から八景を取り出している。後は人を切る覚悟が俺にあるかどうか――


「気負いすぎるな。ボクの考えではそう荒事にならないはずだよ」


 そんな俺を見透かしたようにリスティさんがそう言った。彼女の顔を見ると、何時ものように薄く微笑んでいた。俺はこの人に感謝をしなければならないだろう。


「はい。ありがとうございます」

「世話が焼けるね。じゃ、捕らわれのお姫様を助けに馳せ参じるとしようか」


 一生の内でおそらくはこれが最初で最後の大事な出来事。そんな日に彼女は何時もと同じ口調で俺を導いてくれている。ならば俺の役割とは何なのか。おそらくは俺は彼女の剣。剣は静かに担い手の側でたたずむのみだ。











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  1. 2006/08/21(月) 02:07:57|
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霧城昂

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