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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 第十話-

 ―4月14日―

 恭也視点 第十話










 空はまだ紅いが日は建物で隠れ、すでに見えなくなっている。
 いつもよりずしりと重い懐は俺に勇気を与えてくれている。傍らにいるリスティさんは度々俺の方を向き、安心を与えてくれる。俺は色々な物を与えてもらっている。これ以上必要ない。欲しいものはただ一つだけ、月村だけだった。
 通りを走る車の量は増え、今が帰宅時だと教えてくれている。この時間帯が合っているのかどうかは俺にはわからない。ただ、リスティさんと共に行くだけだ。
 突然少し前を歩いていたリスティさんが立ち止まった。何事か、と俺も立ち止まる。彼女は振り返らなかった。


「恭也。不安かい?」


 それは何時もと少し違う暖かな声だった。俺の感情を見抜き、優しく包んでくれるような声だった。俺はその声に本音で答えることにする。


「はい……不安でないと言えば嘘になります」

「そうか」


 再びリスティさんは歩き始めた。それを見て、俺も歩き始める。カチという音が響く。そして少し甘い匂いが漂ってきた。それはリスティさんのくわえているタバコの香りだった。今まで見たタバコの中でそれは少し変わった匂いだった。
 煙を二度吐き、リスティさんは肩越しにこちらを見た。


「タバコを替えてみた。どうだい?」


 それは如何なる意図があったのか。タバコを吸わない俺には到底わかることではないのかもしれない。


「少し……珍しい香りがしますね」

「だろう?」


 また一つ、彼女は煙を吐いた。吐いた煙は薄暗い空へと昇り、そして消える。もしかすると、それは意味など無かったのかもしれない。ただただ、そういう気分だったのだろう。


「そう……意味なんてない。こうしてボクらが強制捜査に乗り出すのも、意味なんてないんだ」

「――え?」


 いつも以上に真面目な声で話すその内容は俺には理解ができなかった。こうして月村を助け出すことに意味などない。彼女はそう言っているのだ。彼女は俺などよりずっと空気の読める人間だ。その彼女が何故そんなことを口にするのか。


「それは……どういう意味ですか?」

「余り怖い声を出さないでくれ。こうして君に話すのもまた――意味なんてないんだ」


 知らず知らずの内に俺は気が立っていたのだろう。彼女の人となりがわかっていながら、自分のしたことに少し反省をする。深く息を吸い、吐く。それを三度繰り返し、再び口を開いた。


「それでは、何故そんなことを俺に?」

「そうだな。あえて言えば……ボクもちっとも理解できてないんだよ」


 そう言うと、彼女は顔を元に戻した。それはこれ以上話すことはない、という表現に他ならなかった。俺は少し、彼女との年の差を恨んだ。
 無言のまま俺たちは歩き続ける。空の紅みも無くなり、辺りは暗闇が支配し始めていた。テールライトの眩しさから逃れるように俺は手で傘を作る。少し前が見えづらいが、眩しさで見えなくなるよりは良かった。
 大通りから少し裏手に入る。先程と違い、この場所に人の気配は感じられなかった。大通りの喧騒を背に俺たちは歩き続ける。気がつくとリスティさんは先程と違うタバコを吸っていた。銘柄を見た訳ではない。香りが違うからだ。
 心なしかリスティさんの雰囲気まで違うような感じを受ける。一体どうしたのだろうか。答えてくれないかもしれない。いや、もしかして――


「――リスティさん? もしかして……」

「あぁ、もうすぐだよ」


 予感は的中した。俺は自らの両の手のひらを見る。それは同級生たちの手のひらと違い、ささくれてゴツゴツしている。それはこのような時のために存在している。夢を半分諦めているとは言え、俺も生涯剣士――拙い手で守り切らねばならぬものもあるのだ。


「恭也? 緊張してるのか?」


 顔を上げるとリスティさんがこちらを見ていた。彼女には全てが見透かされているような気がする。それは年の差だけで埋められるものではないだろう。年以上の人生経験を経て、今のリスティさんが存在しているはずだ。
 俺は苦笑し、口を開いた。


「いえ……大丈夫です」

「余り気負う必要はないけど、人には少しの緊張は大事だよ。それでいい」


 そう話すと、彼女は立ち止まった。それにつられて俺も立ち止まる。彼女の視線は俺に向けられているのではなく、左手の大きな屋敷に向けられている。ここが目的地のようだ。


「さて、恭也。着いたよ」

「どうしますか?」

「とりあえずインターフォンだな。そして用件を話す。なに、全てボクがやるよ。君は万一の時のために待機してくれたらいい」

「――その時は俺の後ろに」


 犯人たちが素直に投降するとは俺には思えない。万一ではなく、ほぼ十中八九そうなるだろうと確信していた。だが、リスティさんは嫌に楽観視しているように見える。彼女は俺の知らない情報を持っているのだろう。でなければ説明できない。


「じゃ、行くよ」


 彼女はそういうと門に近づき、インターフォンを押した。屋敷に不釣合いな音が鳴り響く。この屋敷に似合うインターフォンの音などないのではないか。そんなどうでもいい事が思い浮かぶ辺り、俺も彼女の雰囲気に毒されているのだろう。
 空白の時間がしばらく流れる。たっぷり時間を取った上で、インターフォンから男の声が聞こえた。


「どちら様でしょうか?」

「リスティ槙原という者だ。二、三話を聞きに伺ったんだが」

「少々お待ちください」


 リスティさんから聞いた印象とはかなり違う丁寧な応対だった。本当にリスティさんの言う通りに穏便に終わるのかもしれない。リスティさんは腕組みをしたまま待っている。ここからでは彼女の顔をうかがうことはできない。


「お待たせしました。海鳴警察署のリスティ槙原さんですね?」

「あぁ、そうだ」

「用件は伺っております」


 その言葉に俺は驚いた。強制捜査とは突然行うから意味があるのではないのか。前もって知らせてしまうと証拠を消される恐れがある。一体どういうことなのだろうか。俺は彼女の意図を掴むことができなかった。


「へぇ……そうか。じゃあ話す必要はないね?」

「はい。若様……佐藤秀二は先程自首されました。関係者並びに証拠などは全て差し出す手はずになっております」

「……そうか」


 それは何の冗談だろうか。事件の犯人が強制捜査を前にして自首をした。それよりも驚いたのは佐藤秀二という名前。同姓同名という訳ではないだろう。何故あいつがそんなことを――状況の整理が追いつかない。だが、思い直す。俺にとっては事件の成否などどうでも良かった。ただ、彼女の無事が確認できればそれで良かったのだ。


「……月村は」


 そう、これで事件は解決した。後は警察に任せれば全てが丸く収まる。意識不明になった人たちも犯人たちの自供から解決の糸口が掴めるだろう。犯人は佐藤秀二。彼がどんな理由でこんな事を行ったのかはわからない。だが、今はそんなことよりも大事なことが俺の中にあった。
 俺はリスティさんを押しぬけ、インターフォンにかじり付いた。そして、その想いを声に出した。


「月村は大丈夫なのか!? もし、彼女に何かあれば俺は――」

「やめろ、恭也! 落ち着け!」


 リスティさんの声が俺に届く。しかし、俺はそんな事では止まらない。いや、止まりたくなかった。彼女を守れなかった俺にできることはそれだけだった。俺にとって、全てはそれだけだったのだ。
 しかし、俺の声は相手には届かなかった。いつまでも届かない声に俺は焦りを感じたが、どうしようもなく黙ることにした。リスティさんが止めてくれたからだ。


「Sorry。えっとね、腰くらいまで長い髪を持った美人の学生が君たちのところにいるはずなんだ。彼女は安全なのかい――?」

「――あぁ、そのような方でしたら、すでに解放しました。いつまでも監禁しておく意味などございませんので。ご自宅の方に戻られているはずですよ」

「Thanks。だそうだよ? 良かったね」


 自然と荒くなっていた息が収まっていく。月村は無事だった。俺が助けることはできなかったが、彼女は無事だった。そんな自分が情けなく思ったが、彼女の無事はもっと嬉しかった。自然と笑みを浮かべていたのを自覚できた。彼女は助かったのだ――これ以上に嬉しいことがあろうか。


「は……はい……俺は――」


 優しい笑顔で彼女の無事を喜んでくれる。そんなリスティさんにもお礼を言いたかった。だが、気持ちの整理が難しくて言葉にならなかった。
 もう会えないのかと思った。もう彼女の声を聞けないのかと思った。もう彼女と一緒に笑いあえないのかと思った。だが、再びその機会は訪れたのだ。


「ありがとう。詳しい話は警察署の方で――Bye」


 最後にそういうと、リスティさんはインターフォンから顔を離し、こちらを見た。彼女は少しおどけた様子で俺の方を見ていた。


「今日はこれで解散だね。いや、良かった」

「はい、ありがとうございました」


 やっと彼女に礼が言えた。彼女は少し驚いた顔を見せ、再び笑った。


「ハハ、礼を言うのはこっちだよ。今日はありがとう。帰り道はわかるね?」

「はい」

「ボクはこれから警察署に向かうよ。君は家に戻るといい。Bye」


 そういうと彼女は俺が向かう方向と逆の方向へと歩き出した。彼女は後姿を見せながら、こちらに手だけでさよならの合図を送ってきた。辺りは暗いはずなのに、その後姿は俺には光輝いて見えた。俺はその後姿に頭を下げた。


「まったく、世話の焼ける」


 彼女のそんな台詞が実に印象的だった。









 その足で自宅に戻った俺は実に何時も通りの日常だった。晶とレンのケンカに始まり、我が妹なのはの制止で終わる。そんな出来事も日常の一つだった。月村の家に電話をかけようと思ったが、よく考えると俺は彼女の家の電話番号を知らなかった。次に会ったら聞いておこう。
 丁度そんな時だった――俺の目の前の電話が鳴り響いたのは。
 時計を見ると午後十時。こんな時間にかかってくる電話に疑問が沸いたが、いつまでも鳴らしておく訳にもいかなかった。受話器を取ると、相手はリスティさんだった。


「恭也はいるかい?」

「リスティさんですか? 取ったのが俺だったから良かったものの、他の家族だったらどうするつもりだったんですか?」

「そんな事はどうでもいい。恭也だね?」

「はい、そうですが」


 慌てて電話をかける彼女の様子に、俺は眉をひそめた。


「いいかい? 今すぐ風芽丘に向かえ」


 彼女のその言葉に、悪い予感を頭によぎった。


「彼女が――月村さんが危ない」


 悪い予感ほど当たりやすいとはよく言ったものだった。そんなつまらない考えが最初に頭に浮かんだ。












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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点第十一話-

 ―4月14日―

 リスティ視点 第十一話












 四月にしては少し寒い風がボクの体を襲う。それは今日の出来事を暗示しているかのようで、少し不快だった。ボクは運命論者ではない。理由は簡単だ。未来が決まってるのなら人は努力する必要はなくなる。それでは人生がつまらないからだ。だからボクはこうやってこの場にいることもボクが選んだ未来なのだ、と思うようにしている。そして、彼を選んだのもボクの意志なのだ、と。
 時計を見る。時刻は午前七時四十分。おそらく彼は早く来るだろうと決め付けてここ――校門の前でボクは待っていた。もしこのまま三十分も待たせるようなら彼という男の認識を少し改めなければならない。


 ――レディを待たせるなんてことしたら、説教だね。


 客観的に見れば、約束した訳でもなくこんなことを思っているボクは物凄く勝手に見えることだろう。だが、ボクはそれでいい。それでこそ何時ものボクなのだから。事が終わればこのことを耕介たちに話すことになるだろう。おそらくは彼がかわいそうだ、という言葉が返ってくることと思う。だからボクは耕介たちが好きなのだ。
 おそらく誰にもわかってもらえない――真雪だけは例外だろうが――この行動にボクは少し苦笑した。
 部活の朝練をするためにこの時間から登校してくる生徒は意外に多かった。彼らはボクの姿を見ると揃いも揃って学生らしい挨拶をボクに送った。ボクはそれら一つ一つに会釈で挨拶を返していた。なぜなら口はタバコでふさがっていたからだ。

 そんな風に彼を待っていると、やがて見覚えのある姿がボクに前に現れた。剣道部の赤星くんだった。彼は持ち前の爽やかな笑顔を浮かべるとボクに対してステキな挨拶を送ってきた。


「槙原先生。おはようございます」

「Hi。君は朝から爽やかだな」


 何気なく返したボクの言葉に、赤星くんは少し狼狽を見せた。思った以上に彼は純朴な青年のようだった。


「あ、いや、そんなことはないですよ」

「あぁ、他意はないんだ。すまなかった。行っていいよ」

「あ、はい。失礼します」


 赤星くんは少し慌てた様子で校門を潜り抜けていった。彼のような純情青年と話すのも女として大事なことだとボクは思っている。彼のような青年を鮮やかにからかってこそレディの証なのだ。そういうと何時もボクに反論をしかけてくる女医がいるが、ボクにとってはそんな反論はどうでも良かった。ボクがそう思っているんだから、それで良かったのだ。
 やがて、少しずつ生徒の数が増えてきた時、彼の姿――高町恭也がボクの前に姿を現したのだ。彼もボクに気づいているらしく、少し難しい顔でこちらの方へゆっくりと向かってくる。ボクはそんな彼の表情を和らげるために笑みを浮かべることにした。すると彼は難しい顔を和らげ、何時もと同じ落ち着いたような顔になった。


「意外と落ち着いた顔をしてるんだね」


 他の人はどうか知らないが、ボクから見れば一目瞭然だ。彼は落ち着いてなどいない。今日のことに対して余りに構えすぎている。だが、ボクがこう言えば彼はそう返すしかなくなる。彼にそう返させることで、彼を落ち着かせようとしたのだ。


「さて、どうでしょう」


 彼は表情を変えず、そう返してきた。これは少しボクにとって意外な返答だった。まさかこの状況で冗談を言える度量があるとは思わなかった。意外に彼はボクが思っている以上にステキな男なのかもしれない。
 ボクはここでの用件は済んだなと考え、加えていたタバコを携帯灰皿でもみ消した。


「ボクは次の授業があるから戻るよ。君もそろそろ戻ったほうがいい」


 携帯灰皿を懐に仕舞い、きびすを返す。


「なに、私は教師だからね」


 ボクらしくない言葉に言い訳をするように、最後にそういい残した。彼はそんなボクの言葉に虚をつかれたのか、何も返してこなかった。それはそれで、ボクにとって予想通りの展開だったのだ。
 校門からの少しの距離を歩き、校舎に辿り着いた。後ろを振り返ると恭也の姿は確認できなかった。何か考え事でもしているのか、どうやら校門から動いていないようだ。彼は少し考えすぎる所があるようだ。今度少し忠告をしなければならない。
 そう思いながら歩いていたせいか、近くにいた彼の姿に気づくことができなかった。


「槙原先生。おはようございます」


 声のした方へ向くと、そこには佐藤の姿があった。彼は何時もと違い重苦しい雰囲気に包まれていた。この男は十中八九犯人で間違いない。今日は彼の証拠を挙げるために強制捜査に踏み切る。このタイミングでボクの前に現れたということは何か裏があるのだろうか。そんなことを思わせる。


「Hi。どうした? 何かあったのかい」

「えぇ、再び学生が意識不明になりました」


 そう来たか、とボクは思った。それと同時に彼の言葉の裏を探ることにする。佐藤はこの事件の犯人でまず間違いない。だが、彼が犯人だとすればかなり矛盾の多い行動をしている。この報告もその一つだ。これでは必要以上に自らを目立たせているだけだ。犯人であればばれないように自らを目立たせることはしないはずである。一体、どういう意図でこのような行動に出ているのだろうか。後日彼から聞きだす必要があろう。


「そうか。事件は多くても、なかなか足を出してくれない犯人だよ」


 それは本心だった。越野の裏情報を聞かず、潜入捜査だけの情報だけ見れば、の話ではあるが、犯人は周到に計画を行っているようだ。意識不明というだけではただの病気の可能性が強く見られる。


「そうですか? 私はすでにアタリをつけてるんですが」

「――え?」


 意外な展開だった。ボクは彼の言葉に純粋に驚いた。意図はわかる。自分以外の犯人へと誘導させるためだろう。動かすことのできない証拠を偽装した上でボクにそれを確認させる――おそらくはそういうシナリオだ。
 だが、ボクが驚いたのはそういうことではない。今まで賢く犯行を重ねてきた犯人がひねり出した作戦としては余りに唐突過ぎたからだ。何故ボクにそれらしい証拠を見せてから報告しないのか。これでは余りに――


「――それは本当かい?」


 努めて冷静にボクは聞き返した。彼から見ればどのように感じたのかはわからないが、ボクとしては上出来な演技だった。その返答に彼はゆっくりと首を縦に振った。


「ですが、証拠がないので槙原先生にはまだお伝えすることができません」


 それはこの状況ではパーフェクトな返答だった。ボクより先に感づいているという不信感は残るが、彼の言動には一応の理由付けはできる。
 そこでボクは考える。彼が何故ボクに匂わせるような言動を取っているのか、と。彼はこの事件の犯人である。その犯人の心理から考えると、自分以外の人物を犯人にしたてあげようとしている行動だとわかる。そしてその前提の上で、彼はボクに対して布石を打っているのだろう。明日、もしくは明後日にはその布石が生きてくるような事件が起こるのだろう。しかし、それでも彼の行動としては辻褄が合わないのだ。


「拍子抜けしちゃったじゃないか。それはホントに怪しいのかい?」

「怪しいと言うよりむしろ――そうとしか考えられないですね」


 彼ははっきりとそう答えた。自らの手で行う偽装にかなりの自信を持っているようだった。それがボクには少しおかしかった。彼の道化を最後まで確認したいとも思った。だが、それはボクの立場的に許せることではなかった。


「わかった、わかった。ちゃんとした証拠が見つかったら、また教えてくれ」

「当然です。では――」


 彼はそういうとボクに背を向けて去っていった。ボクはため息をつき、彼とは逆の方向へ歩き出した。胸元から取り出したタバコは空だった。改めてため息をついた。


「お気をつけて」


 背筋に寒気が走った。ボクは振り返った。しかし佐藤の姿はなく、次の授業に遅れまいと廊下を歩く生徒たちしか確認できなかった。何時もの風景のはずの朝の廊下。だが、ボクはその廊下が少し恐ろしいものに見えた。佐藤のよくわからない言葉。それらが今日の出来事をまるで暗示しているかのようで――


 ――ボクは運命論者じゃないんだ。そう言っただろ?









 やがて日は暮れ、放課後となった。
 ボクは教師としての仕事を終わらせると、彼の待つ教室へと急ぐことにした。
 職員室を出るとそこは誰もおらず、真っ赤な廊下が広がるのみだった。それに少し見とれると、ボクは彼の元へと歩き出した。コツコツと響く足音と、遠くグラウンドから聞こえる生徒たちの掛け声がこれから始まる出来事と比べるとミスマッチだった。
 階段を上ろうとしたところで、ボクの携帯に着信が入った。恭也の元へと急ぎながらそれを取ると、相手は越野だった。


「どうした? 今更とめるのかい?」

「いや、そういう事じゃない。お前に少し言っておきたくてな」


 気をつけろ、などと優しい言葉でもかけてくれるのだろうか。それを想像し、彼にまったく似合ってない事を確認すると自然と笑みがこぼれた。


「じゃあ、なんだい? 今急いでるんだけど」

「簡単な用件だ。いいか?」

「Noと言っても言うんだろ? 早く言えよ」


 それもそうだな、と彼は言った。咳払いを一つした後、彼はこう言った。


「今日の強制捜査。穏便に終わるはずだから、あまり騒ぎにするな」

「どういうことだ?」


 彼の言葉の意味がわからなかった。穏便に終わるなどと、どういう根拠で彼はボクにそう伝えたのだろうか。犯人たちの心理から考えてもまったく理解できなかった。


「行ってみればわかる。ではな――」


 そういうと越野は電話を切った。意味のわからぬままボクは携帯電話をしまった。
 彼の口ぶりでは荒れることなく穏便に終わるとのことだ。犯人たちが自分から告発でもするのだろうか。今更そんなことをする理由がまったくボクにはわからなかった。
 そんなことを考えていると、いつの間にか彼の待つ教室の前まで来ていた。ボクは考えていたことを中止し、深く息を吸い、吐いた。


 ――今はこの時間をね……


 これから先の不安はあったが、彼と行動できることに不思議とボクの胸は高鳴っていた。










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  1. 2006/11/09(木) 15:26:33|
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