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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第七話-

 ―4月12日―

 リスティ視点 第七話












 時計を見る。時間は八時十五分。一時間目の授業までは時間がある。
 コーヒーでも買いに行こうとも思ったが、今は誰かに思考を邪魔されたくないのでやめておくことにした。
 問題は昨日の越野の言葉である。
 ボクは昨日の報告の時のことを思い出すことにした。











 越野の部屋の扉をノックする。するとコンコンと言う音の後すぐに、どうぞ、という声が返ってきた。ボクはノブに手をかけ、扉を開いた。


「失礼します」

「ああ、待ってたぞ」


 越野は机の上から視線をそらさず、そう返してきた」


「で、何から報告したらいい?」

「もったいぶるな。どうせ重要なことは何も起きなかったろう」


 ボクはその言葉に少しむっとしたが、事実なので何も言い返すことはしなかった。そうして黙っていると、越野はにやりとした表情でこちらに視線を向けた。


「気にするな。その事でお前を責めている訳じゃない」

「ボクがそんな細かい事を気にするような繊細な人間に見えるかい?」

「ククク……そうか、悪かった。俺の負けだ。でもま、そんな事を言いたかった訳じゃない」


 すると越野は急に真面目な顔をした。
 ボクはその顔にピンと来るものがあった。


「――何かわかったのかい?」

「その大事な部分をぼかす言い方……実にお前らしい。そうだ。お前の思っている通り、例の事件についてわかったことがある。


 越野は今ボクにとって一番知りたかった情報を提供してくれるようだ――まぁ、そうでなくてはこんな仕事やってられないのだが。


「いいね。丁度どこから調べようか迷ってたところだったんだ。そういう情報は素直に嬉しいね」

「ま……嬉しい情報かどうかはお前が判断しろ」


 胸元からタバコを取りだし、それを口にくわえる。そして、それに火をつけた。


「タバコ吸ってもいいかな?」

「聞く前から吸うな、馬鹿者。ま、時代の流れか禁煙場所か多くなってる。そんなお前の気持ちはわかるつもりだ。俺はタバコ吸わないが、ここは禁煙にはしていない。好きに吸うといい。大体、禁煙ブームなど愚の骨頂だ。タバコ税がどれだけ国力に影響していると思っている」

「……喫煙者にとってはありがたい申し出だけど、肝心の話はどうなったんだい?」

「おっと、悪い。では話すとしよう」


 そう言うと、越野は机の上の書類を手に取り、渡してくれた。


「山口和男……これは?」

「見ての通り、戸籍謄本だ。そこの名前に見覚えのある名前がないか?」

「見ての通りって……ボクはこんなのあまり見たことないんだけどね――ん?」


 越野に手渡されたそれを見ていると、そこに見覚えのある名前が書いてあった。ボクはその見覚えのある名前に疑問を持った。


「そう……山口秀二。お前が感じた通り、風芽丘学園生徒会長佐藤秀二だ」

「へぇ……でも今時親がいなくなって名字を変えるなんてざらだろ? これだけなら何も問題はないはずだ」

「それだけならな」


 こぼれそうになった灰を携帯灰皿に落とし、再びくわえなおす。タバコから漂う煙はゆらゆらと天井へ昇っていく。


「では、山口和男という名前に覚えはないか?」

「ん……覚えがないね」


 記憶を洗ってみても、そんな名前を聞いた覚えは無かった。


「能力と一緒に記憶まで失ったのか? それともただの鳥頭か?」

「そうだ。その事で文句を言うのを忘れてたよ。何でその時教えて――」


 今朝感じた越野への文句を思い出し、全てここでぶちまけようと思った時だった。


「指定暴力団山口組の……先代組長だ」

「――――え?」


 それこそ本当に予想外の単語が飛び出してきたのだ。


「思い出したか? お前も知っての通り、山口組は日本最大の指定暴力団で構成員は延べ何万人になるかわからない」

「あぁ、思い出したよ。確か山口和男の死後、彼に跡継ぎがいなかった為、同じ傘下の組の組長に座を明け渡したんだったね」


 それを考慮に入れるととんでもない事になる。佐藤秀二は完全な潔白でなく、その線で突き詰めれば完全に黒という事になるからだ。
 ただ、その事について少し疑問が沸く。


「確かに、これは今回の事件について重要事項だろうね。でも――なんでその事実に気づいたんだい?」

「ふむ、それがね」


 越野の顔がにやりと歪む。その仕草だけでボクは越野の言わんとするところがわかってしまった。


「何時もの勘かい?」

「わかってるじゃないか。ま、今回は勘だけじゃない。以前お前を襲ったチンピラの素性がわかった。あいつらは隣町の春日組の組員だ――下っ端のな。そして、春日組は山口組の傘下も傘下。先代組長山口和男の懐刀だった近藤直哉。春日組は彼が組長を勤めている弘田組の傘下だ」

「――――」


 確かに、ボクの前に座っているのはテロ屋対策本部長様。その本部長様がカンとは言えボクにまわして来た案件だ。このような可能性も考慮してあった。だがしかし……


 ――これは予想以上にやな雲行きだね……ホントにテロの可能性が出てきたじゃないか。


 くわえていたタバコを灰皿に押し付ける。後半はまったくタバコの味が感じられなかった。それどころか、少し不味いとも感じた。


「もう言わなくてもわかると思うが。佐藤秀二をチェックしろ。ほぼ彼が犯人だと思って間違いないだろう」

「この事件と風芽丘で起こってる事件が同じ犯行だとは断定できてないじゃないか。それはまだ早計じゃないのかい?」

「お前は本当にそんなくだらない事を考えているのか?」


 確かに彼はボクを助けてくれた。しかし、つい先程潔白すぎるのが信用できないと思ったばかりではなかったか?


「チンピラと佐藤秀二の間にこれほどの関係がある。これはほぼ決まりだろう」

「――確かにそうだね」


 越野の言う言葉に嘘偽りはない。彼の勘は恐ろしいほどに当たる。その上今回は理論付けられた根拠がある。後重要なのは彼を捕まえる為の証拠だけだ。


「――だがね……一つ俺には腑に落ちない事があるんだ」


 そして、越野は予想外の言葉を口にした。


「え? 何か今の事実に問題があるのかい?」

「そういう訳ではないのだが。つまりな……なんで佐藤はお前を助けたのか、だ」


 ――新たな事実に今の今まで忘れていたが、ボクもその事については疑問に思っていた。彼が犯人なら、わざわざ助けずにそのまま拉致してしまえばいいだけの事。何故わざわざ危険な真似を犯したのか、だ。


「ま、それについての推測はできるがね」

「ただ、確証はできない、と」

「そういう事だ。そんな事は証拠を挙げて捕まえてしまえばいいだけのこと。二の次だ」

「ま、同感だね」


 越野は疲れた顔をすると、再び椅子にもたれ首を後ろに傾ける。その姿にボクは苦笑し、報告は終わったので帰ることにした。










 思い出しただけで少し頭痛がする。やはり何か飲み物を買ってくるべきだったようだ。


 ――さて、どうしたものかな……


 何とかして佐藤に気づかれずに捜査をしなければならない。しかし、彼はこの学校の生徒会長。彼の学校内の情報網は侮れないものがある。彼に気づかれずに捜査――彼の証拠を突き詰める――する事は至難の技だ。そして問題点はもう一つある。


 ――能力が使えないのは痛すぎる。


 あるのとないのでは天と地ほどの差がある。ボクがこの仕事をやっているのもこの能力があるからだ。それが無ければボクは一般人となんら変わりない。だからこそ、慎重にこの事件に取り掛からねばならない。
 そこまで考えた時、一ついいことを思いついた。


 ――もしもの為に助っ人を用意しておこうか。


 そう、腕のいい助っ人を用意しておけばもしもの時は能力が無くても何とかなる。そこで助っ人について考えてみた――だが、そんな都合のいい助っ人が近くにいる訳でもなく、その計画は早めに頓挫することとなった。


 ――できれば、うちの連中には内緒にしておきたいしね。


 問題はまだまだ山積みのようだ。どのように佐藤を追い詰めるか――とりあえずは何度も接触するしかないのだが。
 どこまで考えた時、周りの様子が騒がしいのに気がついた。時計を見ると、すでに時間は五分前を指している。考えにふけりすぎたようだ。


 ――佐藤が何を考えているかわからないが……


 次の授業の用意をしながらボクは思う。ボクは善人ではないが、そんなボクにも許せない事はある。佐藤のやっている事はまさにそれ。必ず捕まえてやる、そう心に刻み、職員室を後にした。











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――あとがき――

 リスティ視点第七話いかがでしたでしょうか。
 話も中盤にさしかかり、謎が段々と解けていく感じに書いてみました。
 いきなり犯人についての謎が明かされるのは、この物語の一番の謎が犯人ではないからです。その一番の謎が何とかわかるように書く事ができれば、これ幸いですね。
 では、次のSSでお会いしましょう。
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  1. 2005/12/14(水) 02:17:23|
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霧城昂

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