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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第九話-

 ―4月12日-13日―

 リスティ視点 第九話












 惚けている高町恭也をその場に残し、ボクことリスティ槙原は一路学校へと引き返した。

 彼が出す答えは十中八九OKだろう、それは間違いない。先程彼が見せた体術。あのような歩法ができるとなれば、彼はおそらく何かの武術を修めているはず。それも達人クラスだろう。それならば彼は必ず自分の力で彼女を助けたい、と申し出てくるに違いない。

 ボクは胸元からタバコを取り出そうとした。しかし、ケースの中には何も入っていなかった。


「Shit。丁度きらしてたとこだったんだ」


 ボクは空のケースを握り締め、その場に投げ捨てた。
 吸えないとわかるととたんにタバコを吸いたくなる衝動に侵される。まわりを見渡してもタバコの自販機はどこにも置いていなかった。それもそうだろう、ここは学校の前なのだから。
 衝動をごまかすようにため息をつき、自分の考えに没頭することにした。


 ――これで必要最低限の手駒は揃った訳だが……


 本来ならば春日組へ押し入る、というのは最終手段にしておきたかった。だが、今となっては話が違ってくる。いや、個人的には今の状況でも最終手段に置いておきたいのだが、それでは高町恭也を説得することができない。彼を協力者とする以上、すぐさま春日組に押し入ると言う選択肢が一番初めに来る。それは避けられない事だろう、おそらく。
 では、何故自分の選択肢を消してまで彼を協力者などにしようと考えたのか。自分の都合のいい理由はいくつかボクの頭の中に浮かんでいる、だが本当の理由については実のところよくわかっていない。彼の動きを見た瞬間、ボクの思考の幅が一気に狭まってしまったのだ。


 ――ま、いいさ。選択肢は一つしかないが、何故か悪い気はしないしね。


 春日組に押し入る、と言うならば今日のうちに準備をしておく必要が出てくる。彼が一流のファイターでなかったときのための保険は必要だ。ボクにはその保険のアテは一つしかない。


 ――結局は越野に報告するしかないか……残念だけど。


 あの男に借りは極力作りたくない。とんでもない返しを要求されるやもしれないからだ。しかし、今の状況でそんな事を言っている場合ではない事は確か。


 ――報告がてらに、頼んでみるか。


 高町恭也を協力者とした場合を考えれば考えるだけボクに残された選択肢がどんどん狭まっていくことに自分の性格に反省しつつ、ボクは越野のところへ向かうことにした。
 勿論、帰る用意をしてからであるが。










「なるほど、強制捜査か」


 ボクの報告を聞き終わった越野は難しい顔をして考え込む。その仕草にボクは少し不安になる。協力を得られないのではないか、と。だが、そんなボクの心配はただの杞憂だった。


「よかろう。令状や事後の手続きについてはこちらでやっておく。面倒ごとは嫌いな性質だろう、お前は」


 時間にしてきっかり五秒。それだけ悩んで出した答えがそれだった。ボクは越野のあっさりとした言葉に拍子抜けしてしまった。


「って、そんなに簡単にOKしていいのかい?」

「お前が言い出さなければ俺が言うところだった。それが数日早まっただけのことだ」

「このまま地道に行くという選択肢はなかったのかい?」

「お前がそれを言うか? ま、実のところだな。後数日がリミットだったんだ」


 不適な笑みを浮かべながら越野が妙な事を言う。


「リミット?」

「俺の我慢の限界点だよ」


 その冗談に少し殺意を覚えたのはここでは割愛しておこう。ボクは突っ込みたい気持ちを抑えて、話を先に進めることにした。


「それで少し頼みたいことがあるんだが」

「戦力だな。腕に覚えのある奴を数人用意しておこうか?」

「Thanks。それは助かるよ。それでね、もう一つ聞いておきたい事があるんだ」


 ボクの言葉に越野は疑問のこもった顔をする。もしかすると越野は知っているのではないか、そうボクは思った。


「ボクの方で一人いいのを見つけてね。今回の捜査に協力してもらう事になったんだけどね」

「許可でも欲しいのか? そんなもの好きにすればよかろう」

「わかってて言ってるだろ。あんたがそんな疑問もつ事事態が矛盾だね」

「失礼な」


 腕を組み、笑いながら越野はそう言った。


「ただね、強そうと言うだけで彼がどんな武術を修めているのかわかってなくてね。それであんたなら調べるのも簡単だろう、そんな訳さ」

「人使いの荒い奴だ。まぁ、よかろう。俺の知ってる武術ならすぐ答えられる。言ってみろ」


 ここで越野に借りを作ってしまうのはよろしい事ではないが、これは仕方の無いことだ。相棒の能力くらい知っておかないと作戦もクソも無い、そう思い、ボクは高町恭也の超人的な歩法について越野に語ることにした。


 話が終わると、越野は少し難しい顔をして天井を見上げた。何か思い当たる武術があるのだろうか、そう思ったボクは少し期待を込めて口を開いた。


「何か心当たりあるのかい?」

「――もう一度聞く。本当にそいつの名前は高町なんだな」

「Yes。高町恭也。うちのクラスの生徒だ」

「――高町……」


 数秒ほど部屋に沈黙が訪れた。ボクはそんな空気があまり得意じゃないため、答えを急かした。


「早く答えてくれないか? ボクだって暇じゃないんだ」

「高町士郎と言う男を知っているか?」

「は?」


 突然越野は聞き覚えのない名前を口にした。だがそこで思いとどまる。


「名字が一緒みたいだけど、誰なんだい。その士郎って男は」

「彼の修めた武術は御神流と呼ばれる二刀小太刀を扱う剣術だ。そして彼はその剣術を振るい幾人もの人々をその手で助けた。おそらく、その恭也と言う男は士郎の息子だろう」

「彼もその御神流を修めている可能性が高い訳か。二刀小太刀……また珍しいね。一刀の剣術使いなら身近にいるけど、二刀は初めてだね。それでどうなんだい? 実際どのくらい強いんだ?」

「強いなんてもんじゃない。お前も見たのだろう? その歩法は神速と呼ばれる御神流の奥義の一つだ。いわゆる高速移動術だな。完成された御神の剣士はそれを使い、一瞬で十数人を切り捨てることが可能だ……一瞬でな」

「じゅ……十数人?」

「その恭也と言う男がどれくらい修めているのかしらないが……お前も運がないな」


 ボクは越野の言葉を聞き、少しの間絶句していた。この世にそのような事を可能とする業があることに。そしてボクは思いなおす。


 ――ハハ。ボクが言えた言葉じゃないね。


 ボクの存在も普通に考えればありえない存在。だが事実としてここに存在する。矛盾な存在であるボクが考えた事の矛盾、そう思うと、ボクは耕介と出会った頃のことを思い出した。











 昨日の報告では、結局越野の力を借りて数人の部下をまわしてもらうことになった。後は高町恭也の協力を取り付けるだけ、とボクは何時ものように職員室に居た。時計を見ると一時間目にはまだ早い時間帯だった。
 彼が協力を了承するならばそろそろ来るだろう、とボクは思いここで待っている。


 ――ま、心配ないだろうね。


 ボクは先程買っておいた缶コーヒーのプルタブを開け、それをゆっくりと流し込んだ。暖かく、むしろ熱いとも言えるブラックのコーヒーがボクの口の中に流れ込む。美味いとは思わないがそれでもコーヒーを飲みたい、そんな心境だった。
 職員室の扉の方に視線を向ける。
 予想ではそろそろ来るはずだ、そう思っているとその扉が開き、そこに高町恭也の姿があった。


 ――ビンゴ。


 彼は昨日よりも多少吹っ切れた顔をしていた。決心がついたのだろう、そんな顔だ。彼は数度周りを見渡すとボクの姿を見つけ、こちらの方に歩いてきた。
 ボクはこれから話すべき事実に少し背中が震えた。


 ――でもま、嫌われるのは慣れてるしね。


 そう思わなければ壊れてしまいそうだったから……










「よし、ここならば誰に聞かれる心配もない」


 ボクは彼を人気のいない校舎裏へと案内した。彼は辺りを見渡している。誰もいない事を確認でもしているのだろう。


「で、結局高町くんはどうするつもりだい?」

「それはもう槙原先生にはわかっている事ではないですか?」

「Yes。勿論それは君がボクのところに来た時から気づいていた事だ。でもボクはそれを君の口から聞きたいんだよ」


 ――そう、それは本当。


「わかりました」


 高町くんは目を閉じ、少しうつむく。風に身を任せる彼の表情はこわばったものから、段々と穏やかなものに変わっていく。そして彼はゆっくりと目を開く。その彼の表情には笑顔とも言える程の穏やかな笑みを浮かべていた。


 ――あ、こうす……


 ボクは今考えた事を慌てて消去した。彼と余りに似つかない男の笑顔を思い浮かべてしまったのだ。

 それは彼に対して失礼だ、と考えたのはボクなりの言い訳なのかもしれない。


「俺はあなたに協力します。この手で月村を助けねば俺は一生後悔すると思うから」


 彼は真っ直ぐにボクを見つめながら、そうボクに答えた。こういう所が似ているのかもしれない、そう思わずにはいられなかった。


「Yes。いい返事だ。では協力して行こう」


 ボクは今の心境を悟られないように頭に手を当て、彼に対して一つウインクをする。彼は少し驚いた表情を見せるが、すぐ何時もの仏頂面に戻った。
 そんな彼にボクは協力する上で最低限譲れないことについて話すことにした。


「そうだね。犯人を捕まえる段取りは後にして、まず君に言っておきたい事がある」

「――言っておきたいこと?」

「あぁ、そうだ。これから協力する上で面倒なことはなるべく排除しておきたい。つまりだね、ボクは君の事をこれから恭也と呼ぶ。だから君もボクの事をそんな堅苦しい呼び方じゃなくリスティと呼ぶように」

「あ、いや、それは」


 流石に無茶な事かもしれないが、これだけは譲る訳にはいかない。
 ボクは下から覗き込むような格好で彼に囁きかけた。


「何か文句でもあるのかい?」

「いや、俺自身が呼び捨てにされるのは全く問題ないのですが……俺が槙原先生を呼び捨てにすると言うのは」

「ボクが構わないって言ってるだろう? ほら、呼び捨てで呼んでみてくれよ、恭也」

「いや……その……」

「ほらほら」


 彼は困った表情を浮かべ、のけぞるような格好を取る。少しイジメすぎかな、とは思うが引くわけにはいかない。


「で、では。リスティ……さん」


 そんな格好で、そんな無粋な敬称で呼ばれるのだった。


「む。まぁ、いいか。一歩先に進んだと思えば上等だ」


 そう思わないと何時までたっても話が先に進みそうに無かった。


「で、ですね。月村を助ける上の作戦などは?」


 ――来たか。


 ボクはこれから彼に対して少し残酷なことを言わねばならない。小の残酷には気づくだろうが、大の残酷にはおそらく気がつかない、そうボクは考えていた。


「恭也。これから作戦について説明をするけど、もう一つ君に言っておきたい事がある」

「もう一つ?」


 恭也はボクの言葉で今度は冗談でもなんでもない重要な忠告と悟ったらしい。ボクは一度空を見上げ、気持ちを整理する。そしてボクは心を冷たくし、口を開くことにした。


「――君は人を殺した事はあるかい?」














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――あとがき――
 リスティ編第9話如何でしたでしょうか。
 あの時、リスティはこんな事を思っていたんだ、そう言う楽しみを見つけてくだされば幸いですね。
 感想を下さった方々もありがとうございました。
 では、次のSSでお会いしましょう。
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  1. 2006/02/20(月) 15:55:00|
  2. とらいあんぐるハートSS|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:2
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コメント

こんにちは

http://jump.sagasu.in/goto/blog-ranking/でリンクされていたので見にきちゃいました
  1. 2006/02/20(月) 15:55:22 |
  2. URL |
  3. ヤス #-
  4. [ 編集]

ありがとうございます。

>ヤスさん
お立ち寄りありがとうございます。
  1. 2006/02/21(火) 01:09:17 |
  2. URL |
  3. 管理者 #gh4knIgo
  4. [ 編集]

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