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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点第十一話-

 ―4月14日―

 リスティ視点 第十一話












 四月にしては少し寒い風がボクの体を襲う。それは今日の出来事を暗示しているかのようで、少し不快だった。ボクは運命論者ではない。理由は簡単だ。未来が決まってるのなら人は努力する必要はなくなる。それでは人生がつまらないからだ。だからボクはこうやってこの場にいることもボクが選んだ未来なのだ、と思うようにしている。そして、彼を選んだのもボクの意志なのだ、と。
 時計を見る。時刻は午前七時四十分。おそらく彼は早く来るだろうと決め付けてここ――校門の前でボクは待っていた。もしこのまま三十分も待たせるようなら彼という男の認識を少し改めなければならない。


 ――レディを待たせるなんてことしたら、説教だね。


 客観的に見れば、約束した訳でもなくこんなことを思っているボクは物凄く勝手に見えることだろう。だが、ボクはそれでいい。それでこそ何時ものボクなのだから。事が終わればこのことを耕介たちに話すことになるだろう。おそらくは彼がかわいそうだ、という言葉が返ってくることと思う。だからボクは耕介たちが好きなのだ。
 おそらく誰にもわかってもらえない――真雪だけは例外だろうが――この行動にボクは少し苦笑した。
 部活の朝練をするためにこの時間から登校してくる生徒は意外に多かった。彼らはボクの姿を見ると揃いも揃って学生らしい挨拶をボクに送った。ボクはそれら一つ一つに会釈で挨拶を返していた。なぜなら口はタバコでふさがっていたからだ。

 そんな風に彼を待っていると、やがて見覚えのある姿がボクに前に現れた。剣道部の赤星くんだった。彼は持ち前の爽やかな笑顔を浮かべるとボクに対してステキな挨拶を送ってきた。


「槙原先生。おはようございます」

「Hi。君は朝から爽やかだな」


 何気なく返したボクの言葉に、赤星くんは少し狼狽を見せた。思った以上に彼は純朴な青年のようだった。


「あ、いや、そんなことはないですよ」

「あぁ、他意はないんだ。すまなかった。行っていいよ」

「あ、はい。失礼します」


 赤星くんは少し慌てた様子で校門を潜り抜けていった。彼のような純情青年と話すのも女として大事なことだとボクは思っている。彼のような青年を鮮やかにからかってこそレディの証なのだ。そういうと何時もボクに反論をしかけてくる女医がいるが、ボクにとってはそんな反論はどうでも良かった。ボクがそう思っているんだから、それで良かったのだ。
 やがて、少しずつ生徒の数が増えてきた時、彼の姿――高町恭也がボクの前に姿を現したのだ。彼もボクに気づいているらしく、少し難しい顔でこちらの方へゆっくりと向かってくる。ボクはそんな彼の表情を和らげるために笑みを浮かべることにした。すると彼は難しい顔を和らげ、何時もと同じ落ち着いたような顔になった。


「意外と落ち着いた顔をしてるんだね」


 他の人はどうか知らないが、ボクから見れば一目瞭然だ。彼は落ち着いてなどいない。今日のことに対して余りに構えすぎている。だが、ボクがこう言えば彼はそう返すしかなくなる。彼にそう返させることで、彼を落ち着かせようとしたのだ。


「さて、どうでしょう」


 彼は表情を変えず、そう返してきた。これは少しボクにとって意外な返答だった。まさかこの状況で冗談を言える度量があるとは思わなかった。意外に彼はボクが思っている以上にステキな男なのかもしれない。
 ボクはここでの用件は済んだなと考え、加えていたタバコを携帯灰皿でもみ消した。


「ボクは次の授業があるから戻るよ。君もそろそろ戻ったほうがいい」


 携帯灰皿を懐に仕舞い、きびすを返す。


「なに、私は教師だからね」


 ボクらしくない言葉に言い訳をするように、最後にそういい残した。彼はそんなボクの言葉に虚をつかれたのか、何も返してこなかった。それはそれで、ボクにとって予想通りの展開だったのだ。
 校門からの少しの距離を歩き、校舎に辿り着いた。後ろを振り返ると恭也の姿は確認できなかった。何か考え事でもしているのか、どうやら校門から動いていないようだ。彼は少し考えすぎる所があるようだ。今度少し忠告をしなければならない。
 そう思いながら歩いていたせいか、近くにいた彼の姿に気づくことができなかった。


「槙原先生。おはようございます」


 声のした方へ向くと、そこには佐藤の姿があった。彼は何時もと違い重苦しい雰囲気に包まれていた。この男は十中八九犯人で間違いない。今日は彼の証拠を挙げるために強制捜査に踏み切る。このタイミングでボクの前に現れたということは何か裏があるのだろうか。そんなことを思わせる。


「Hi。どうした? 何かあったのかい」

「えぇ、再び学生が意識不明になりました」


 そう来たか、とボクは思った。それと同時に彼の言葉の裏を探ることにする。佐藤はこの事件の犯人でまず間違いない。だが、彼が犯人だとすればかなり矛盾の多い行動をしている。この報告もその一つだ。これでは必要以上に自らを目立たせているだけだ。犯人であればばれないように自らを目立たせることはしないはずである。一体、どういう意図でこのような行動に出ているのだろうか。後日彼から聞きだす必要があろう。


「そうか。事件は多くても、なかなか足を出してくれない犯人だよ」


 それは本心だった。越野の裏情報を聞かず、潜入捜査だけの情報だけ見れば、の話ではあるが、犯人は周到に計画を行っているようだ。意識不明というだけではただの病気の可能性が強く見られる。


「そうですか? 私はすでにアタリをつけてるんですが」

「――え?」


 意外な展開だった。ボクは彼の言葉に純粋に驚いた。意図はわかる。自分以外の犯人へと誘導させるためだろう。動かすことのできない証拠を偽装した上でボクにそれを確認させる――おそらくはそういうシナリオだ。
 だが、ボクが驚いたのはそういうことではない。今まで賢く犯行を重ねてきた犯人がひねり出した作戦としては余りに唐突過ぎたからだ。何故ボクにそれらしい証拠を見せてから報告しないのか。これでは余りに――


「――それは本当かい?」


 努めて冷静にボクは聞き返した。彼から見ればどのように感じたのかはわからないが、ボクとしては上出来な演技だった。その返答に彼はゆっくりと首を縦に振った。


「ですが、証拠がないので槙原先生にはまだお伝えすることができません」


 それはこの状況ではパーフェクトな返答だった。ボクより先に感づいているという不信感は残るが、彼の言動には一応の理由付けはできる。
 そこでボクは考える。彼が何故ボクに匂わせるような言動を取っているのか、と。彼はこの事件の犯人である。その犯人の心理から考えると、自分以外の人物を犯人にしたてあげようとしている行動だとわかる。そしてその前提の上で、彼はボクに対して布石を打っているのだろう。明日、もしくは明後日にはその布石が生きてくるような事件が起こるのだろう。しかし、それでも彼の行動としては辻褄が合わないのだ。


「拍子抜けしちゃったじゃないか。それはホントに怪しいのかい?」

「怪しいと言うよりむしろ――そうとしか考えられないですね」


 彼ははっきりとそう答えた。自らの手で行う偽装にかなりの自信を持っているようだった。それがボクには少しおかしかった。彼の道化を最後まで確認したいとも思った。だが、それはボクの立場的に許せることではなかった。


「わかった、わかった。ちゃんとした証拠が見つかったら、また教えてくれ」

「当然です。では――」


 彼はそういうとボクに背を向けて去っていった。ボクはため息をつき、彼とは逆の方向へ歩き出した。胸元から取り出したタバコは空だった。改めてため息をついた。


「お気をつけて」


 背筋に寒気が走った。ボクは振り返った。しかし佐藤の姿はなく、次の授業に遅れまいと廊下を歩く生徒たちしか確認できなかった。何時もの風景のはずの朝の廊下。だが、ボクはその廊下が少し恐ろしいものに見えた。佐藤のよくわからない言葉。それらが今日の出来事をまるで暗示しているかのようで――


 ――ボクは運命論者じゃないんだ。そう言っただろ?









 やがて日は暮れ、放課後となった。
 ボクは教師としての仕事を終わらせると、彼の待つ教室へと急ぐことにした。
 職員室を出るとそこは誰もおらず、真っ赤な廊下が広がるのみだった。それに少し見とれると、ボクは彼の元へと歩き出した。コツコツと響く足音と、遠くグラウンドから聞こえる生徒たちの掛け声がこれから始まる出来事と比べるとミスマッチだった。
 階段を上ろうとしたところで、ボクの携帯に着信が入った。恭也の元へと急ぎながらそれを取ると、相手は越野だった。


「どうした? 今更とめるのかい?」

「いや、そういう事じゃない。お前に少し言っておきたくてな」


 気をつけろ、などと優しい言葉でもかけてくれるのだろうか。それを想像し、彼にまったく似合ってない事を確認すると自然と笑みがこぼれた。


「じゃあ、なんだい? 今急いでるんだけど」

「簡単な用件だ。いいか?」

「Noと言っても言うんだろ? 早く言えよ」


 それもそうだな、と彼は言った。咳払いを一つした後、彼はこう言った。


「今日の強制捜査。穏便に終わるはずだから、あまり騒ぎにするな」

「どういうことだ?」


 彼の言葉の意味がわからなかった。穏便に終わるなどと、どういう根拠で彼はボクにそう伝えたのだろうか。犯人たちの心理から考えてもまったく理解できなかった。


「行ってみればわかる。ではな――」


 そういうと越野は電話を切った。意味のわからぬままボクは携帯電話をしまった。
 彼の口ぶりでは荒れることなく穏便に終わるとのことだ。犯人たちが自分から告発でもするのだろうか。今更そんなことをする理由がまったくボクにはわからなかった。
 そんなことを考えていると、いつの間にか彼の待つ教室の前まで来ていた。ボクは考えていたことを中止し、深く息を吸い、吐いた。


 ――今はこの時間をね……


 これから先の不安はあったが、彼と行動できることに不思議とボクの胸は高鳴っていた。










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  1. 2006/11/09(木) 15:26:33|
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もう大丈夫だから

「何も見えないな」


 私は甲板で前を見ていた。しかし、何も見えなかった。
 夜の海は暗く、私にこの上無い寂しさを与えてくれていた。
 数時間前の出来事を思い出す。
 トルナ運河を進んでいた私たちは渦に飲み込まれ、運河を荒らしていた巨大なモンスターに襲われた。何とか撃退した私たちは渦から抜け出すことができた。だがそれは私の親友――シルドラのおかげだった。あいつは私たちを助けるために身をていして守ってくれたのだ。そしてあいつは渦の中に姿を消した。
 思い出すだけで目頭が熱くなるのを感じる。


 ――シルドラ……私を一人にしないでよ。


 幼い頃から一緒に育った親友が命を捨ててまで私たちを守ってくれた。私たちはずっと一緒だ、と言ってやりたかった。お前は俺が守ってやる、と言ってやりたかった。だがそれも叶わない……もう、叶わないのだ。

 木でできた手すりに拳を打ち付ける。自らの拳を痛めようが関係なかった。
 月が雲の間から顔を出した。海は月の光に照らされ、薄暗く綺麗な水面が私の目に届いた。


 ――このまま飛び降りて……


 シルドラの後を追うのもいいかもしれない。美しいその誘惑に引かれ、私は身を乗り出した。すると、胸元から私の一番古い持ち物が顔を出した。それは月明かりに照らされ、きらりと光った。それと同時に妹の心配そうな顔が頭に浮かんだ。
 再び視線を水面に移すと、そこは恐ろしい口を広げているだけだった。私は彼女に感謝をしなければいけないのかもしれない。そう思えたのは先ほどの私から考えると奇跡に等しい感情の変化だった。

 甲板に誰か上がってくる音が聞こえる。その音は私が何時も聞く部下だちの足音にそっくりだった。


 ――レナじゃない……バッツ、いやガラフか?


 その気配は甲板まで上がり、私の方へと近づいてきた。私は後ろを見ようとはせず、視線は胸元へと向けられていた。
 やがてその気配は私の背後で止まった。しかしその気配は何も話そうとはしなかった。少し気持ちの悪い感じを受ける。
 私は気づかれないようにため息をつくと、背後の男に話しかけた。


「俺に何か用でもあるのか?」

「いや……眠れなくて」


 背後の男はそう答えた。
 不器用なその声色に私は少し興味を覚えた。この男はどう答えるのだろうか。それが少し楽しみで、私は後ろを振り返り、少し意地悪な質問を投げかけることにした。


「バッツ。俺を慰めてくれるのか?」

「ん……まぁ、前向きに考えようぜ。絶対生きてるって」


 素直に真っ直ぐな意見で答えてくれた。その素直な意見に少し揺れたが、それを気取られないように私はそれを口にすることにした。


「傷心で胸が潰れそうになった俺を慰めてくれるお前。空を見上げると月明かりと満天の星空がそこに――まさに満点だ。次は抱きしめてキス。そしてベッドインか?」

「お、お前冗談でもそんな事言うなって。想像してしまったじゃないか!」

「――ははは……悪いな」


 本当に慌てた様子のバッツ。それを本当におかしそうな姿で笑う私。私から見れば、それはとても皮肉な光景で、そんな事をしてる自分に苛立ちを覚える。
 しかし彼ら……特にレナには知られたくなかった。できる限り彼らには隠し通そうと思う。私は海賊の頭。そんなものは似合わないからだ。

 目の前の男を見ると、彼は本当に心配そうな目で私を見ていた。それは私にとって未知の経験だ。今まで仲間は沢山いたが、こんな男は一度も会った事がなかった。それは単に私が今までめぐり合わなかっただけなのか、それとも――


 ――だが、いいヤツだ。


 私は彼に興味を覚えた。それはまだ小さな輝きだが、彼なら大きくしてくれるという雰囲気がある。それは私にとって不幸な結果になるだろう。だが私はそんな自分の考えを押し殺した。


「そうだ。お前、レナに惚れてるだろ?」

「え、え?」

「図星か? それじゃあ仕方ないね」


 先ほどよりずっと慌てた様子のバッツ。私の一生は自分を偽ることでできているようだ。それはこれからも変わらないだろう。それも私の望んだ事だけど。


「いや、俺はな……その」

「誤魔化すな。レナと会話してる時のお前の顔を見ればすぐわかる」


 バッツはがっくりとうつむいた。これではどちらが元々落ち込んでいたのかわからないだろう。無論、私がそう仕向けたのだが。


「惚れてるかどうかはともかく、気になってるのは確かだ――これでいいか?」


 顔をあげると、彼はそう言った。先ほどまでの顔と違って真面目な顔をしていた。嘘はついていないと思う。そうまで言われると私としても応援しなくてはならない。この男になら任せられるかもしれない。


「だが、レナはタイクーンの王女様だ。俺たちとは住む世界が違うお姫様だ。お前は自分が釣り合いが取れてると思ってるのか?」

「だから惚れてる訳じゃないと言ってるのに……」


 少々しつこく言い過ぎただろうか。少し自分の言動に反省する。あんまりやり過ぎて不信を買ってはいけない。なるべく自然な形でバッツに任せなければならない。なぜなら私では彼女を守ってやることはできないからだ。


「ふ……そうだったな。ま、俺はお前たちの事は応援してるんだぜ」

「そりゃまぁ……俺だって男だ。あんな可愛い女の子と仲良くなれたらそれは嬉しいけどさ」


 私には確証がある。レナはおそらく私と血が繋がっている。レナの外見から判断しておそらく彼女は私の妹に違いない。それはトゥールの村でずっと考えていたことだった。彼女のペンダントは私のものとまったく同じものだ。私はずっとこのペンダントが自分の出生を知る手がかりになると信じていた。それがタイクーンのお姫様と言う結果になるとは思ってもみなかったが。


「だったら男は行動あるのみだ。違うか?」

「ファリス。お前こういう事に慣れてるみたいだな。経験豊富とみたぞ」


 反撃のつもりなのか、バッツは意味ありげな顔をして私にそう返してきた。そもそも彼の質問はピントがずれているし、私は経験豊富な訳でもなかった。
 私は肩をすくめ、それを否定することにした。


「何を言ってる。俺は物心ついた時から海賊だったんだ。あんなとこで素敵な出会いなんてある訳がない」


 そう。周りはむさ苦しい男ばかり。卑屈で媚を売るヤツや、無駄に態度のでかいヤツらもいる。そんなヤツらに囲まれて、どう出会いを求めればいいと言うんだ。


「う……で、でも村の酒場とかに行くことはあるんだろ? その時に酒場の踊り子なんかを口説いたりしてないのか?」


 なるほど、そういうケースもあったようだ。私は彼の反撃に気づかれない程度に眉をひそめた。ここは少し頷いておいた方がいいのだろうか――いや、私らしくないな……それは。


「確かに酒場に行くことはある。でもな、俺は独りで飲むのが好きなんだ。酒の席まであんな下品な奴らの中に混じって騒ぎたくない」

「あぁ……それはわかる気がするな。だってお前だけ浮いてるもんな。こんな事言ったらお前は怒るのかもしれないけど、この間寝顔を見た時……と思ったからさ」


 バッツの声がこもり、一部を聞き取ることができなかった。


「すまん。今聞こえなかったんだが、なんて言った?」


 そう返すと、バッツは見るからに慌てた様子になった。


「いや、その……綺麗だな、と思ったんだよ。こんな事言ってる俺自身おかしいと思ってるんだけど」


 私はそれを聴いた瞬間、頭が真っ白になった。
 それはどういう意味だろう、と思った時、自分の顔が熱くなるのを感じた。見るからに鈍感なはずなのに、変なところで鋭い男だ。私は今が夜中であることに感謝し、悟られないように平然と返すことにした。


「はは、おかしなことを言うヤツだな。そういう言葉は俺なんかに言ってる場合じゃないだろ。レナに言ってやれ」

「い、いや、それは難しいというか、その……」

「仕方ないヤツだな。よし、俺が協力してやろう」


 胸の奥がズキと痛んだ。それに気づかない振りをする――そんなことは私……いや、俺には許されないから……


「だから、気になってるだけだって!」

「あんまり大声出すな。レナに聞かれるぞ?」


 慌てて口を抑えるバッツ。その姿は彼の気持ちの全てを表しているようで、わかりやすい男だという事を教えてくれている。それは私にとって最高で最悪の事実を同時に教えてくれていた。


「少しそこで待ってろ。レナを呼んで来てやる」

「え、いやそれは……うーん」


 まだ何かを悩んでいるバッツに背を向け、私はレナを呼びに船室に向かうことにした。一歩一歩進むたびに私の運命が決まるような気がする。私は彼女を守らなければならない。彼女を幸せにしてやらなくてはならない。それが私にできる償いだと思うから。


 ――何をしてるんだろうな……私は。


 船室への階段に足をかけたところで空を見上げる。私を照らす月の光はとても幻想的で、私に何かを語りかけているようで――


 ――悪いな。俺は頭悪いからな。お前の言葉を聞き取ることができないんだ。


 階段を一段ずつ降りる。足を踏み出す度に鈍い音が聞こえる。


 ――そうか……俺にはまだ親友がいたんだな。


 海から吹いてくる風は私の髪を揺らす。再び別れなくてはならないだろう親友に礼をすると、暗い船室へと私は下りていった。












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  1. 2006/10/29(日) 03:08:30|
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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 第九話-

 ―4月14日―











 目を開く。視界に見慣れた天井が映る――何時も通りだ。
 ゆっくりと体を起こす。静かで、薄暗い部屋が視界に映る――何時も通りだ。
 頭が少し惚けている。少し睡眠が足らなかったようだ――これも何時も通りだ。
 何時も通りの朝を迎えられた事に内心驚きを隠せないでいる。今日ばかりは何か緊張のようなもので支配されるような、そんな人間らしい出来事に少し期待していたのだ。実際そんな事になったら本当に困りものだが、それでも期待してしまう自分がいた。しかし、何時も通りである事は良い事なのだ。


 ――ま、俺は少々変わり者だろうからな。


 うちの家族の面々を見る限り、俺はまだまともな部類と言えよう。彼女らには悪い気はするが男には引けない一線と言うものがある。そんな事を心の中で考えていた。
 先ほどまで寝ていた布団を片そうと、たたむことにした。この心地よい重さもまた何時も通りなのだ。
 外からうっすらと聞こえる小鳥の鳴き声もまた何時も通りで、この出来事もまたなんでもない一日の出来事なのだ、と暗に訴えかけているようで、俺は少し嫌な気分になった。
 無論そんなのは気のせいだと俺は考える。じくりと痛む膝に手をやる。今日ばかりはこれを気にしている暇はないのかもしれない。リスティさんの雰囲気を見る限り、そういう最悪の事態も想像しておかねばらない。


 ――そろそろ美由希が起きてくるな。


 何時も通りに朝を何時も通りに過ごし、家族に心配をかけないようにする。それが今朝のこの俺の仕事だ。装備一式を身に着けながら、そう俺は考える。
 廊下を歩く音が聞こえる――よし……これも何時も通りだ。









「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 今日はかーさんより早く家を出る。少し怪しまれると思ったが、それは俺の考えすぎだったようだ。他の皆も特に怪訝な顔は一切なかった。
 懐に納めた獲物に手をやる。何時もは存在しないはずのそれは異質で、俺の心にわずかな闇を宿らせる。何時も歩いているこの通学路が何か別のものに感じる。おそらくはただの心境の違いなのであろうが。


 ――少し……いや……


 何時もと違うのは懐にあるものだけではない。この俺の心境――そして、この高鳴る胸の鼓動だ。
 どういう状況かはわからないが、およそ実戦と言う状況に出会うのはこれが初めてだ。旅に出ていた頃は何度も組手を行った。死ぬと思った事も何度もあった。だが、それは俺の思い違いだったのかもしれない。
 何時もより車の少ない通りに沿って歩く。遅咲きの桜もそろそろ散る頃だ。
 そういうつまらないことが、本当に俺の中で大切なことだと思えてくる。何が俺をそう変えてしまったのだろうか。


 ――答えなんて最初から出てるじゃないか……


 俺は罪を犯した。
 守ると決めた日常を守ることができなかった。
 月村を守ることができなかった。
 だから、月村が無事かもしれない、というこのチャンスを逃すつもりはない。リスティさんには感謝しなければならない。再びプライドを守れる機会を与えてくれたのだから。

 校門が見えてきた。そこで俺は立ち止まった。何か特別な事があった訳ではない。何時もより人通りの少ないせいか、校門に体を預けているその人を遠目からでも判別することができたからだ。
 その人は俺が近づくと顔を上げ、こちらに視線を合わせた。彼女は薄く笑みを浮かべた。まるでこれから起こる事が何時もと変わらぬ日常なのだ、と言わんばかりの笑顔だった。
 俺は再び足を前に進め、彼女の方へゆっくりと歩いていった。


「意外と落ち着いた顔をしてるんだね」


 少しおどけた様子でリスティさんはそう言った。その肩を竦める様がなんとも彼女に似合っていて、彼女に対する印象が少し変わった。
 俺はそんな彼女に肩を竦め、返した。自分では落ち着いている訳ではない事がわかっていた。だから、今更それに感づかれるのも面白くない。だから精一杯彼女の言葉どおりに合わせる事にしたのだ。


「さて、どうでしょう」


 俺は嘘をつく訳でもなく、そんな曖昧な言葉で返した。冗談と嘘はまったく別のものだ。
 彼女は表情を変えず、加えていたタバコを灰皿でもみ消した。


「ボクは次の授業があるから戻るよ。君もそろそろ戻ったほうがいい。なに、私は教師だからね」


 そんな教師らしい言葉を残すと、校舎の方へと歩いていった。
 鞄の中の八景が俺に語りかける。それは錯覚なのだろうけれど、俺にはちゃんと聞こえた。それが余計に俺に決心を固めさせる。
 よくよく考えてみれば、彼女は最初から最後まで教師の態度で俺に接してきた。最後まで今日のことは何も言わず――


 ――きっと、リスティさんも同じなのだろう。


 天は青く澄み切っていて、流れる風は爽やかな気持ちにさせてくれる。増えてきた登校仲間の雑踏の中、俺は一人校門に立ち尽くす。










 教室に入ってみると、いつも俺が見る光景とは少し違い、クラスメイトの数がいつもの半分くらいだった。どうしたのだろう、と一瞬考えたがすぐに思い直す。今日はいつもより早い時間に来ていたのだ。当たり前のことだった。
 騒ぐクラスメイトたちを横目に俺は自分の席に向かう。赤星の姿を捕らえる事ができなかった――朝練でもしているのだろうか。
 聞こえてくる喧騒は少し思考の邪魔になったが、今は授業外。自分の都合でそんな事をする訳にはいかなかった。
 教壇を横切る。教壇の上には出席簿が置かれている。少しそれが気になった。俺はクラスの皆が会話に集中していて、俺に気づいていない事を確認すると、その出席簿を開いてみた。
 すると、何故か空欄であるはずの場所に丸が書かれている。誰の仕業かは自明の理だ。リスティさんの優しさに微笑みながら、俺はその出席簿を閉じた。
 窓際のその席は今日も空席で、西日の差し込むこの部屋中で一番輝いて見えた。それが少し悲しい気持ちにさせるのは、俺の負うべき罪であるだろう。そんなことを考えながら、俺は席についた。










 いつもより早く時間が過ぎた気がした。
 日は傾き、教室にいる人の数もまばらになってきている。赤星は授業終了後、いつものように部活へ向かった。だから、周りにいる数人のクラスメイトとはあまり交流がなく、彼らと会話をすることも無かった。
 いつもすぐ帰る俺が教室にいる事を最初は怪訝に思っていたようだが、今では慣れてしまい、俺を気にする事なく皆それぞれの作業を行っている。まだしばらくは一人になる事はできそうにも無かった。

 教室は赤く染まり、俺とは無縁な幻想的な景色を見せてくれていた。席を立ち、窓際に近づいてみる。グラウンドでは運動部が必死に練習を行っていた。トラックを走り続けているのはおそらく新入部員たちであろう。まだまだ彼らは基礎練習を積まなければいけない時期だ。
 彼らを見ていると、美由希の事を思い出す。美由希が年相応の子たちと同様にクラブに入れないことを少しすまなく思う。友達と一緒に遊びたいだろうと、朝はもう少し寝ていたいだろうと、俺は美由希の生き方をせばめている気がしてならない。
 しかし、それは美由希が決めた道。俺がどうこう言う資格もつもりも無かった。せめて、美由希が俺のようにならないように、俺より強くなるように常に考えていくことが兄としてできる最低限の優しさだった。


「恭也。準備できたかい」


 背後から聞こえてきた独特の声に振り返る。扉のところにはリスティさんが立っていて、いつの間にか教室にいたクラスメイトたちは誰もいなくなっていた。少し、考えにふけり過ぎていたようだ。


「準備なら朝からできてますよ」

「そうか。今日は頼むよ。応援もいるけど、基本的には君がボクの護衛だからね」

「――わかりました」


 自然と腕に力が入る。すでに鞄から八景を取り出している。後は人を切る覚悟が俺にあるかどうか――


「気負いすぎるな。ボクの考えではそう荒事にならないはずだよ」


 そんな俺を見透かしたようにリスティさんがそう言った。彼女の顔を見ると、何時ものように薄く微笑んでいた。俺はこの人に感謝をしなければならないだろう。


「はい。ありがとうございます」

「世話が焼けるね。じゃ、捕らわれのお姫様を助けに馳せ参じるとしようか」


 一生の内でおそらくはこれが最初で最後の大事な出来事。そんな日に彼女は何時もと同じ口調で俺を導いてくれている。ならば俺の役割とは何なのか。おそらくは俺は彼女の剣。剣は静かに担い手の側でたたずむのみだ。











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  1. 2006/08/21(月) 02:07:57|
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手のひらの中の奇跡 -リスティ視点 第十話-

 ―4月13日―

 リスティ視点 第十話












 ボクの言葉に、恭也は絶句したような顔を見せる。
 この一見突拍子もない質問には実は裏が隠されている。表面的の意味の答えなどボクは期待していない。彼がその裏を読み取れるかどうかを確かめておきたかっただけだ。
 ここで問題外なのはボクの言葉に取り乱すこと。大事な場面を読み取れず心の制御ができない人間など連れて行くことはできないからだ。

 恭也はボクが見た限り、あまり表情を変えない男だ。つまり、そうする必要のあった人生を送ってきた男なのだ。そういう男に対して、このボクの心配は杞憂なのであろう。
 事実、恭也は落ち着いた姿でボクの問いを考えている。ここまで考えていると言うことは裏があるのかどうか、を考えているのだろう。


 ――合格だね。


 この後、恭也がどんな答えを出そうとボクには余り興味はない。ここまでの一連の彼の動作で知りたいことが全てわかってしまったからだ。
 この場の恭也に興味を失ったボクは、視線を少し斜め上に向ける。そこには桜の木が植わっていた。五部咲きと言ったところだろうか。今年も桜の季節がやってきた事に、少し心が安らぐ。

 これが終わったら、恭也を花見にでも誘ってみよう。さざなみの皆がビックリするかもしれないけどね。ハハ、真雪にからかわれるね。


「ふふ」


 いつの間にか考えにふけり、顔にまで出てしまっていたことに驚く。恭也の方に視線を戻すと、まだ彼は少し下を向き、考えにふけっているところだった。
 その事実に内心ほっとする。少し調子にのりすぎたようだね、とボクは先ほどの失態に反省することにした。恭也をテストしていたはずの項目を自分が守れないようでは話にならない。
 しかし、これは少し時間がかかりすぎではないだろうか。悩むのもいいが決断する気を逃すようでは話にならない。彼がそのような過ちを犯す前に、回答を促すことにした。


「あんまり時間もないから、さっさと答えてくれないか?」


 すると恭也は少し驚くような顔を見せた後、何時もの仏頂面に戻った。


「人を殺めたことはありません……一度も」


 そう何時もよりも真剣な声で彼はそう言った。ボクはその回答によりも彼の声質に聞き惚れていた。何故だかわからないが、彼のその答えが彼にとって何か尊いものであるかのように感じた。
 やはり、彼を選んだ事は間違いではなかったのだ。


「そうか。わかった」


 知りたいことは全て知り、この場にいる事は不要となった。おそらくそろそろ予鈴の鳴る時間だ。あまり悠長にはしていられない。
 ボクは彼に背を向け、この場を立ち去る事にした。


「まき……リスティさん?」


 当然のように彼が何事かと問いかけてくる。今、間違えそうになったのは少し減点かな。


「そろそろ予鈴が鳴る。君も教室に戻った方がいい」


 これも当然のように、何時ものボクとは違う教師の仮面をかぶってそう忠告した。
 そんな自分の行動に、ボクらしくないとわかってるんだけどね、とつまらない事を考えてしまった。


 ――あ、言い忘れてたね。


 数歩ほど歩いたところで、言い忘れていた事に気づき、肩越しに彼に話しかけることにした。


「あぁ、作戦については明日話すから放課後残っておくように。いいね?」

「は、はい……」


 そんな間の抜けた声は彼のイメージとは程遠いものだった。










 今日一日の学校での出来事はと言うと、朝の恭也との一件以外は何時もより平穏な一日だった。昨日みたいに誰かがさらわれると言う訳でもなく、おとといのように誰かが意識不明になるという訳でもなかった。
 ボクとしてはすでに証拠は出揃い、後は踏み込むだけなので何も起きてくれない方が助かる。後は佐藤に気づかれないように行動を起こすだけだ。気づかれたら間違いなく面倒ごとが起こる。それだけは避けておきたいことだ。

 ポケットから愛用のジッポを取り出す。口に加えた煙草に火をつけようとするが中々点火してくれない。
 オイルが切れたんだろうか、と思うが手元に予備は無かったので諦めずに火をつけようとする。都合十数回後、無事タバコに火をつけることができた。これだけのことで凄く嬉しい気分になるのはボクが本物の煙草飲みの証なのだろう。


 ――こいつがないとどうも駄目だ。


 煙草がないと、どうも自分の思考が上手く回ってくれない。ボクの中で何かを考える時には煙草は必要不可欠な存在になっている。つまり、煙草を吸っている時はボクが何かを考えている時が多いのだが、今回もその時だった。

 職員室の自分の席に深々と座り、ボクことリスティ槙原は事件の事について頭をめぐらせていた。正しくは、昨日さらわれた生徒、月村忍についてだ。
 あの子を守ることができなかったのはボクの失態だ。彼女に同情している訳ではない。ボクの心が壊れていようが何だろうが、ボクがいながらさらわれたと言う事実に腹を立てているからだ。


「教師としては失格なんだろうけどねぇ……」


 彼女は恐らく無事ではないだろう。状況から言って、意識不明事件と誘拐事件は犯人が一致しているはず。以前に意識不明となった彼女たちと同様に月村忍もまた、意識不明となって発見される可能性が高い。
 だが、もう一つの可能性も残されている。
 二つの事件が同じ犯人による手のものだとしたら、何故二つに分ける必要があったのか、だ。可能性はいくつか挙げられるが、ボクが予測した結果は襲われた二つの事件の被害者にそれぞれなんらかの共通項があったか、もしくは二つの事件では彼らの用途が違う、という二点。
 おそらく、ボクが後者だと予測している。今までかなりの数の人が誘拐されている。となるとそれだけの数を監禁、もしくは軟禁しておくのは至難の事だ。ということは、つまり――


 ――Yes……すでに殺されてしまっている可能性が高い。


 この状況でボクが予測する最良の結果は、月村忍がなんらかの理由でさらわれ、いまだその役割を果たしておらず、監禁されている、という状況だ。
 幾らボクだって人死にが見たいわけではない。生きていることに越した事はないのだ。それに何より、その方が喜ぶだろうから。
 その瞬間、自分のどこかがゆれたような感じがした。それが何だったのかわからない。その違和感はすぐ消えてしまった。
 自分の中で何かが変わり始めているのだろうか、と首をかしげ、短くなった煙草を灰皿に押し付けるのだった。











 やはり今日も越野の部屋の前に立つ。一日一回の口頭での報告とはいえ、何度もここを訪れるのはやはり気が重い。できればあまり絡みたくない相手なのだ。
 しかし、そうは言っていられない。ボクにとっても越野にとってもこれは利害の一致する大事な作業なのだ。
 何時もより大きく見える扉にため息をつき、半ば諦めがちな感じでボクは扉を開くのだった。
 扉を開けると、大きな体を目いっぱい椅子にもたれかけ、紙の束を眺めている部屋の主を見て取ることができた。


「お前か、そこでちょっと待ってろ」


 越野はこちらを全く見ずに、ボクであることを言い当てた。一見凄い事のように思えるがそうでもない。この部屋を訪れる人物が極端に少なければ言い当てる対象もまた少ないのだ。
 この部屋の独特の雰囲気が好きな人間はボクの知るところ、まず皆無と言っていい。張本人である目の前にふんぞり返っている男を除いた話だが。
 当の越野はなにやら真剣な顔で紙の束を眺めている。これはボクがこの部屋に来る随分前から読んでいるのだろう。見た感じ数十枚以上ある紙の束が越野の目の前に積まれている。
 一体、何が書かれているのだろうか、と思うが、ボクが勝手に見てもいい資料かどうかわからない。それ故に机の上においてある紙の束に手を伸ばす事はできなかった。
 だからこそ、ボクは彼にその内容を尋ねるのだった。


「なんだい? その紙の束は」

「――ん……近々署内のLANを新しく組み直そうという動きがあってな。それに関する資料だよ。まったく、頭の悪い作業だ」


 越野は本当に嫌だ、と顔をしかめながらそう言った。越野の言おうとしていることは何となくわかる。要は情報化の進む昨今、新しいLANを構築するのは結構な事だが、それよりもまず、この紙媒体の報告書がそれに矛盾している、と言いたいのだ。
 越野の考えにはボクも概ね同意である。上に座る頭の固い連中のせいで完全な情報化が一向に進んでいないのだ。


「随分とつまらなそうだね」

「当たり前なことを聞くな。お前らしくもない」

「Sorry。確かにボクらしくないね」


 そんな些細な会話も今の彼にとっては不機嫌になる要素の一つなのだろう。
 だが、そんな事で時間を潰すほどボクは暇な訳でもない。彼が聞いているにしろ、聞いていないにしろ話を進めることにした。


「そんな事より、報告させてもらうよ。ボクも余り暇ではないのでね」

「言いたい事はわかってる。強制捜査の事だろ? そこにおいてある封筒を持っていけ。令状だ」

「――おいおい。そんな軽々しく扱っていいのかい?」

「どちらにしろ、結果は一緒だ。やることもその後も結果も変わらない」


 あまり関心のなさそうな越野に、一発拳を叩き込んでやろうか、とも思ったが、この男に素手で勝てる訳がない。それは諦める事にした。


「そうか。じゃあ、ありがたくもらっていくよ。明日の夕方行って来るよ」

「あぁ。それくらいの時間に人も回しておくから安心しろ」


 最後まで紙から目を離さなかった越野は最後まで関心のなさそうな声でそう言った。
 本当にあの紙はそんな内容だったのだろうか、そんな事を考えてしまいそうになるくらい越野の目は真剣だった。
 扉を後ろ手に閉めた後も扉の前でボクはじっと立ち止まり、その事を考えざるを得なかった。












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  1. 2006/03/28(火) 23:29:11|
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手のひらの中の奇跡 -恭也視点 第八話

 ―4月13日―

 恭也視点 第八話










 彼女の言葉に耳を疑う。
 今、彼女は確かに、お前は人を殺した事があるか、と言った。
 俺は聞き違いか、と彼女の顔を見る。しかし、彼女の顔に冗談の色が含まれている訳でなく、それが事実である事を認識する他無かった。


 ――記憶が確かならば、人を殺めたことなど一度も無い……


 だが、ここで馬鹿正直に返すのもどうか、俺は考える。
 言葉どおり受け取るならばそれでいい。しかし、この質問は何か他の回答を求められているような気がする。例えば、俺の任務に対する覚悟をテストしているとも考えられる。もしくは、そうする必要があるかもしれない。
 無意識に握りこんだ拳が汗ばんでいる。彼女にそれを悟られぬよう、俺はゆっくりと開く。校舎裏に吹き込む風が汗ばんだ手を癒してくれた。


「あんまり時間もないから、さっさと答えてくれないか?」


 リスティさんは少し不機嫌な顔をしている――減点一……

 あまり考える時間はなさそうだ、そう思った俺は意を決し、答えることにした。


「人を殺めたことはありません。一度も……」

「――そうか。わかった」


 彼女はどこか納得したかのような顔を見せ、背を向ける。


「まき……リスティさん?」

「そろそろ予鈴が鳴る。君も教室に戻った方がいい」


 そう言うと、すたすたと背を向けながら歩き出した。
 彼女のあっさりした様子に惚けていると、数歩進んだところで彼女は足を止めた。そして肩越しに振り返り――


「あぁ、作戦については明日話すから放課後残っておくように。いいね?」

「は、はい……」


 再び彼女は歩き出し、その場を去った。
 一人残された俺は一人呆然とする。校舎でさえぎられ、日の当たらぬここは春というのにまだ肌寒い。脇に咲くしおれたタンポポの花があまりにも今の俺とそっくりで、何か言葉にしづらい気持ちでいっぱいだった。










 そして、人一人いようがいまいが時間は進んでいく。
 教壇では何時ものように先生が熱心に授業を進めている。だが、その声は俺の耳には全く届かず、俺の意識は当然の如く隣の席にいるはずの女の子に向けられるのだった。


 ――月村……無事だといいが……


 なんて矛盾。一体誰のせいで誰のせいでさらわれる事になった。もう少し頭を使え、高町恭也。


 ――確かに俺は守りきる事ができなかった……だが。


 では、何故月村忍はさらわれなければならなかったのだ。いい加減、気づいたらどうだ。彼女にさらわれる理由があったのか?


 ――そういえばそうだ……一体月村は何故……


 そう。考えるべきはそこだ、高町恭也。お前の目から見た彼女はどうだ。美少女という事以外はなんらかわらぬ女生徒ではなかったか? それならば彼女にさらわれる理由などなかろう。それとも、犯人は誰でも良かったのか?


 ――い、いや……それでは、待ち伏せてまでさらう意味がわからない。


 じゃあ、答えは一つだ。ほら、そんなに強く握ったら折れるぞ?


「―――ッ」


 何時の間にかシャーペンを強く握りこんでいた。俺は震える拳をゆっくりと開く。カランとシャーペンが手から離れ、机の上に転がった。
 高ぶる気持ちを抑えるため、周りに気取られぬよう深呼吸をすることにした。
 一つ……二つ。高ぶっていた気持ちが少しずつ治まっていくのを感じた。
 悟られていまいか、と前を見ると、先生は先程と同じように教壇の上で熱心に授業を進めていた――とりあえず、安心だ。


 ――しかし……


 先程まで考えていた事を思い出す。
 一体、何故月村はさらわれたのか。自ら考えたように無差別という事はおそらくない。理由はさっき考えたとおりだ。
 という事は、それがわかればこの事件の犯人が見えてくるのではないだろうか、と考えたところで、一つ重要な事を思い出す。
 リスティさんが何か気づいているらしい、という事。
 彼女は俺に協力を求めてきた。おそらくは俺は剣として彼女を守る役目だろう。それ以外、俺が役に立つことはない。方法はわからぬが、彼女は諜報にも長けているに違いない。事件のことについて何か掴んでいるはずだ。


 ――つまり、俺は余計な事は考えない方が吉か。


 この授業は、自らの不器用さにほとほと呆れる時間だった。











 何時ものように、昼休みの時間が訪れた。
 授業が終わった、特に何をする気も起きず、そのまま座っていた。確かに腹が減っているのは確かだが、今の俺には些末なことと感じられた。
 教室内の喧騒に耳を傾けてみる。何時もと違う自分の行動に少し新鮮さを感じる。
 黒板を吹きながら喋っている数人のクラスメイトは、昼休みに何をして遊ぶか、を話し合っているようだ。提案されるものの全てが球技である事から、彼らは昼休みの度にこうしてグラウンドで遊んでいる事がわかる。
 またある者は、昨日のテレビ番組について話し合っている。俺自信、あまりテレビには興味がないが、彼らが話し合っていた番組はそんな俺でもわかる有名な番組だった。

 周りにはらっていた意識を戻し、ゆっくりと目を開く。すると、目の前には赤星の姿があった。


「よ。どうした? 高町」

「いや……なんでもない」


 赤星は俺の無愛想な返しに慣れていると言わんばかりにまるで気にしない顔をしている。赤星は赤星で悩むことがあるだろうが、それを感じさせない穏やかな笑み。俺は素直にこの男を尊敬する。


「連日続いてた事件が、昨日は起こらなかったみたいだな。高町? 何かわかったことあるか?」


 先程の穏やかな笑みを消し、真剣な顔をして赤星はそう言った。


 ――昨日は起こらなかった……?


 月村の事について赤星は何も知らないらしい。それどころか、この人望のある男が知らないのなら、事件にすらなっていないようだ。俺はそのことに少し安心する。


「いや……俺の頭じゃさっぱりだ。お前も知ってるだろう? 俺の成績」

「成績は関係ないだろ? 案外お前はこういう事に向いてそうだと思ったんだがな」

「それは買いかぶりすぎと言うものだ」


 先程まで沈んでいた心が少し穏やかになるのを感じる。何も知らないこの親友と話すことで、少しずつ昨日の後悔を忘れさせてくれるようだ。
 自然と自分の口元が笑みになっていく。


「そうか。それじゃ、飯はどうする? 食堂はもう間に合わないっぽいから、パンしか無理そうだけど」

「――飯か。そうだな。今日はパンにするか」

「よし、じゃあ、早く行くぞ。なるべく好きなパンを買いたいからな」


 促す赤星にうなずき、俺は席を立つ。その時、視界の端にちらっと月村のいない席が映った。


 ――もう少し、待っててくれ……


 赤星に気取られぬように必ず助けてやる、と俺は誓った。握り締めた拳が初めて誰かを助けることに使われようとしていた。購買へと向かう最中、俺は自分の中の気持ちが高ぶるのを感じていた。
 そして、それはある種の不意打ちだったのかもしれない。


「あれ、赤星に高町くんじゃないか」


 突然かけられた声に俺たちは振り返る。そこには、プリントの束を抱えた生徒会長の姿があった。


「あぁ、佐藤。さっきぶりだな」

「その様子だと今から飯のようだな。食堂はもう間に合わんぞ?」

「大丈夫大丈夫。今日はパンだから」


 何故か俺にはその時、嫌な予感があった。それが何なのかまったくわからない。強いて言えば、佐藤の雰囲気がこないだより違って見えたのだ。


「で、どうしたんだ? そのプリントは」


 そう、それは俺も気にはなっていた。何故か佐藤は何枚あるのかわからないプリントの束を抱えているのだ。


「あぁ、ホントなら秘密なんだが、相手がお前らだし、どうせ後で知る事になるから教えておこう」


 佐藤は少しおどけた仕草でそう言った。そう言った姿が変に似合う男だ、と場違いな感想を抱いていた。


「完全に実施されるとは決まってないんだが、この学校内に学内ネットワーク環境を構築させようと思ってね。時代は情報化社会だ。ここで一歩でも先に進まないと取り返しの付かない事になるだろうから、生徒会の方で提案してみたんだ」

「へぇ……俺はパソコンのことについてはほとんど知らないからなぁ……高町。お前はどうだ?」

「聞く相手を考えろ」

「だな。妹のなのはちゃんはこういうの強いのに」

「――向き不向きと言うやつだ」


 本当にそう思う。俺となのはでは父さんから引き継いでいるものが何故か違う――不思議な話だ。


「へぇ、高町くん、妹いるんだ?」

「あぁ、年は結構離れてるがな」

「ほうほう……って、あんまり待たせるとパンがなくなるな。悪いな引き止めて」

「いや、いいよいいよ」


 爽やかな男二人に仏頂面の男が一人。周りからはどう見えているのか。少し気になる。


「じゃ、また今度話そう」


 そう言って、佐藤は持ちにくそうな束を抱えて去っていった。後輩とおぼしき人たちに挨拶をされている。やはり、生徒会長だけあって人望は並のものではない。


「高町、行くぞ」


 数歩先に居た赤星がそう言った。付いてこない事に疑問を思って振り返ってみれば案の定、というやつだろう、そう思うと俺は首を振り、赤星の下へ駆け足で近寄った。


 ――まさかな。


 この時期に別の生徒会の仕事とは少し不思議に思ったが、それ程忙しいのだろう、と結論付けた。










 俺はゆっくりと目を開いた。
 辺りは何も見えず、暗闇で支配されている。それはそうだろう、時間も時間だし俺が自ら電気を消したのだ。
 最近、いつもなら考えないどうでもいいことを考え込んでしまう。この年になって自分の中で何かが変わったのだろうか。自らを取り巻く環境がおそらくはそうさせているのだ、そんなどうでもいいことを考えていた。


「――――」


 少しずつ暗闇に目が慣れてくる。余り広くないこの空間の中で、俺は一人神棚の前で座禅を組んでいる。これは俺にとって余りに重要なことなのだ。
 組んだ手を外し、両の拳を握る。その手に持つものを想像し、眼前へとゆっくり持ってくる。拳をゆっくり開く。


 ――今、この手には何もない……


 自分の手のひらを見る。それは同年代の人たちと比べて、あまりに堅く、あまりに平穏を感じさせないものだ。
 人より堅いこの手のひらは、人より多くのものを持つことはできない。それは自分が一番良くわかっていることだった。


 ――この手で何がつかめるのか……


 その問いに答えてくれるものは誰も存在しない。
 手のひらから視線を上に向ける。うっすらと神棚が見える。そこに眠る人は一体その手に何を掴んでいたのか。あの偉大すぎる背中で何を背負っていたのか。


「――よし」


 俺は座禅を解き、立ち上がる。そして神棚に一礼をし、道場を出ることにした。
 外は少し肌寒く、空には何時もより多い星空が広がっている。


 ――待っていろ、月村。


 空に向かって改めて俺は決意をした。












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